第105話 初恋の人達と文化祭を楽しむ

「五十鈴君、今日はよろしくね?」


 稲田が笑顔で言ってくる。

 それとは対照的に妹の奏は少し不満そうな顔をしながらこう言った。


「えーっ!? うちのお兄ちゃんの案内で文化祭を回るんですか? なんか嫌だなぁ……恥ずかしいし……」


 すると奏にとっては『バレー部』の先輩でもある川田が奏の肩をポンポンと叩きながら笑顔で話す。


「奏ちゃん、少しだけ『辛抱』してよ? 途中で自由行動にするからさ」


 川田には逆らえない奏は渋々、承諾するのだった。


 奏……どうせお前は高山に案内してもらいたいんだろ? いいよ、いいよ、兄ちゃん何て……とは言えず、俺は苦笑いをしながら次の交代である上野と大塚が来てくれたので皆を案内することにした。


 俺が『ゲルニカ』から離れる際、上野が耳元で『もしかして、この中に幼稚園の時の先生もいるのか?』と聞かれたので俺は声を出さずに頷いた。


 すると上野は俺の背中をバンッと叩きながら『頑張れよ』と笑顔で言うと『ゲルニカ』の横に立つのであった。




「ところで隆君、お勧めの出し物とかはあるのかな?」


 『つねちゃん』がそう聞いて来たので俺は『あるよ』と答える。


「特に俺が観て欲しいのは『軽音部』のライブかな。同じクラスの友達が出演しているんだけど、今日が『デビュー戦』なんだよ。ボーカルの羽田ってのはクラスで一番のイケメンだし……」


 『イケメン』という言葉に一番反応したのが稲田と川田だった。


「そっ、それは行かないといけないわね。ねっ? いなっち!?」


「う、うん……そうね、川ちゃん……それに私は『女子高』だから、なかなか同い年の男子と会う機会も無いからとても楽しみだなぁ……」チラッ……


 稲田はそう答えながら何故か俺の顔を見る。


「そっ、それと、ケンチのクラスの『お化け屋敷』も結構面白いと思うよ」


 それには予想通り、奏が反応する。


「えっ!? お兄ちゃん、それを先に言ってよ!! で、高山さんもその『お化け屋敷』にいるのかな!?」


 奏はワクワクした顔で俺に聞いてくる。しかし……


「うーん……いるのはいるんだけどさぁ……ケンチは『お化け担当』だから忙しくて普通には会えないかもしれないぞ……」


「えーっ!? そっ、そんなぁ!!」


 奏はガッカリし、うつむいてしまう。

 それに対してすかさず『つねちゃん』がフォローを入れてくれた。


「奏ちゃん、そんなにガッカリしなくても大丈夫よ。その『お化け屋敷』に行けば普通の状態ではないけど高山君に会えるだろうし、それに私がお願いして高山君と奏ちゃんとの写真を撮ってあげるわ。今日は昇がカメラを持って来てくれているから……」


「えっ、そうなんですか? 嬉しいです。有難うございます!! それじゃぁ、お兄ちゃん? 早く高山さんのクラスに行こうよ!?」


 奏は『つねちゃん』の言葉で簡単に元気を取り戻し、俺の袖を引っ張り高山のクラスに行こうとする。


「ちょっ、ちょっと待てよ、奏!! 校内をスムーズに回るには順番ってものがあるから、そんなに慌てるなよな。焦らなくてもケンチは逃げないからっ!!」



 奏を説得した俺は皆を案内し始める。

 まず最初に俺達が向かったのはは羽田達がライブをする『第一音楽室』


 部屋に入った途端、キャーキャーという黄色い歓声が鳴り響いていた。


「す、凄い人気だなぁ……羨ましい……」


 そう、ポツリと呟くのは森重だった。


「あのボーカルが俺と同じクラスの羽田って奴で、隣でギターを弾いているのが南川って言うんだよ。二人共イケメンだから女子達には大人気なんだよ」


「チッ、男は顔じゃねぇよ……」


 少し不機嫌そうに呟くのは大石、相変わらずの『皮肉れ者』だ。


「なんだ、大石? お前、別に顔は悪く無いんだからモテるだろ?」


「『顔は』って言い方は少しむかつくけどさ……隆も知ってるだろ? うちの学校はガラが悪くて有名なんだぞ。女子だって『ヤンキー』ばっかなんだよ!! 『普通に可愛い女子』と出会いたいぜ……ほんと隆やケンチが羨ましいわ……」


 大石がそういうと川田がニヤリとしながら


「ふーん、そうなんだぁ……それじゃあ、私達が凄く良く見えるんじゃない? 今日はしっかりと私達を目に焼き付かせておきなさいよね!?」


「あ、ああ、そうするよ……川田の顔をずっと眺めておくよ……」


「はーっ!? な、何をバカなことを言ってるのよ!? あんた、バ、バカじゃないの!?」


 大石から予想外の答えが返って来た川田は顔を真っ赤にしながら大石に怒っているが、俺が見たところまんざらでもないようだ。



 会場の一番前には新見と米田が手を繋ぎながら羽田達を応援している。

 二人は最近付き合いだし、『前の世界』の時と同様に『バカップル』となっていた。


 その新見に気が付いたのが村瀬……


 村瀬は中学の頃、新見からの告白を断った経緯があるだけに、あのラブラブな二人を見ておそらく複雑な心境であろう。


 中学の頃よりも可愛くなっている新見……

 逃がした魚はデカいぞ、村瀬!!


 俺は心の中でそう思っていた。



 羽田達のライブを観終えた俺達は次に高山がいる『お化け屋敷』に行こうとしたが、志保さん夫婦と昇さん夫婦は体育館で行われる演劇が観たいということで、ここで別れることになった。


 その際、昇さんは俺にカメラを預けてきた。


「それじゃぁ隆君、このカメラで妹さんと高山君の写真などを撮ってあげてよ」


「えっ、俺が撮るんですか!? は、はい、分かりました。有難うございます……」



 こうして俺は『つねちゃん』、奏、そして中学の同級生達と一緒に高山がいる『お化け屋敷』へと向かうのであった。


 俺は歩きながらではあるが、久しぶりに『つねちゃん』の顔を見ながらの会話を楽しんでいた。


「そういえば、つねちゃんってどこの高校に通ってたんだい?」


「先生は『青葉北高校』よ。知ってるかな?」


「えーっ!? 知ってるも何も、『青葉北高校』って市で一番頭の良い高校じゃないか。でもまぁ、そうだよなぁ……大学だってあの『青葉大学』なんだし……不思議じゃないよなぁ……しかし、つねちゃんってめちゃくちゃ頭良いんだね?」


「ハハ、そんなことは無いわよ。たまたま合格しただけよ……」


「イヤイヤイヤッ、たまたまであんな高校には行けないから!!」


「そうかなぁ……?」


「そっ、そうだよ……」



「ねぇねぇ、五十鈴君?」


 俺が『つねちゃん』と会話を楽しんでいる中、稲田が俺に声をかけてきた。


「ん? 稲田、どうしたんだい?」


「さっきから常谷先生とばかりおしゃべりしているけどさぁ……私も五十鈴君に会うのは遊園地以来だし……私ともお話しようよぉぉ……?」


「えっ? ああ、ゴメンゴメン……そうだね。うん、話そう!!」


 まさか稲田がそんな事を言ってくるとは思っていなかったので俺は少し驚いた。


 『つねちゃん』は少し気を悪くしたんじゃないかと思い、チラっと顔を見たが稲田に対してニコニコしていたので、それはそれで複雑な気持ちになる俺だった。


「なんだよ、稲田~っ!! 俺とも久しぶりに会ったんだからさぁ、俺と話をしようぜっ!!」


 森重がそう言うと稲田がすかさず


「えーっ、嫌よ!! 森重君は川ちゃんに任せるわ!!」


「わっ、私だって森重は嫌よ!! いなっち、私に振らないでよ!?」


 川田はそう言いながら大石の方を見ていたが、大石は意識してかどうかは分からないが川田の方を向いてはいなかった。


「なっ、何だよぉぉ!? みんな俺に対して冷たすぎないかぁぁ!?」


「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」


 俺達は森重の可哀想な姿が逆に面白くなり大笑いをするのだった。


「みんな、こんなところで何をしてるんだい??」


「うわっ!! だっ、誰!? っていうか……お前は……」



 そこにはお化けメイクをした高山が立っていた。




――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


久しぶりに会った『つねちゃん』や中学時代の仲間達

その仲間達も色々な思いがあるように感じる隆


大人の階段を上り始めている彼等は今後どのように成長していくのか?

そして奏と高山は?

『つねちゃん』と佐々木は出会うのか?


 どうぞ次回もお楽しみに。

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