第104話 初恋の人と懐かしい人達

 【文化祭当日】


 結局、俺は『つねちゃん』に文化祭に来ないで欲しいとは言えなかった。

 どちらかと言えば来て欲しいという気持ちが勝ってしまったというか、俺達が頑張って描いた『ゲルニカ』の壁画も見て欲しいとう思いが強かったからだ。


 まぁ、何とかなるだろう……と俺は思う事にした。


 俺達の壁画は正門から校舎入り口に行くまでの丁度中間地点に生えている二本の大きな桜の木の前に立てかけさせてもらっているので、文化祭に訪れた人達は必ず一瞬立ち止まり絵を眺めてくれている。


 俺達は当番で壁画の両サイドに一人ずつ立つようにしていたが、今は俺と北川ペアで立っていた。


「みんな絶対にこの絵を見てくれるから嬉しいよなぁ……」


 俺が北川にそう言うと北川はあまり元気のない声で


「うん、そうだねぇ……」


 と、返事をする。


 俺は少しだけ北川の様子がおかしいなと思い、「何か元気がない様に見えるけど、どうかしたのかい?」と問いかけた。


 すると北川は自分の立っている場所から離れ俺の所へ早歩きで近づいて来た。


「どっ、どうしたんだ?」


 俺が驚いた声で北川に聞くと少し顔を赤くしながら口を開く。


「あのね……五十鈴君に聞きたい事があるんだけどね……うーん……どうしようかなぁ……」


「な、何だよぉ? 遠慮せずに聞いてくれよ? 俺達はクラスメイトだし、同じバイト仲間なんだからさ……」


 俺の言葉で少し落ち着いたのか北川はようやく俺にある質問をしてきたのだった。


「あのね、高山君のことなんだけどさ……高山君って彼女とかいるのかな? もし彼女がいないとして好きな人とかはいるのかな? いつもバイトの時に五十鈴君の妹ちゃんのことをべた褒めしているから、もしかして高山君は五十鈴君の妹ちゃんのことが……」


 俺は北川の言葉で察しはついたが、その前に高山に対して色々な感情が沸いてきてしまった。


 高山の奴、いつも一緒に『急流すべり』のバイトをしている北川に奏の話をしているのかよ!? それも『べた褒め』って何だよ!?


 もしかしてあいつも本気で奏のことを……

 イヤイヤイヤッ、それだけは今は考えたくない気持ちだ。


 心配そうな表情で俺の返事を待っている北川の顔が視線に入り、俺は我に返る。

 そして俺は逆に北川に質問をした。


「北川は高山のことが好きなのかい?」


 北川は更に顔を真っ赤にしながら、ゆっくりとうなずいた。


「そっかぁ……。高山も北川に好きになってもらえて幸せな奴だなぁ。しかし高山のどういうところが好きなんだ? あいつ性格が軽いところがあるしさ……」


「うん……逆にそういうところが好きかな。一緒にいて楽というか……顔も可愛いし……」


 北川は凄く照れ臭そうに話している。そんな北川を見ている俺までもが何故かこっぱずかしい気持ちになってしまう。


 すると続けて北川が話し出すがそれは少し意外な話だった。


「あのね、今だから言うけどさ……実は私、入学当初は五十鈴君のことが気になってたんだよ……」


「えっ、そうなのかい!? 全然、気付かなかったよ!!」


 俺は本当に気付いていなかったと同時に今、別にそれを言わなくてもいいじゃないかとも思ったが北川は更に話し続ける。


「初めて五十鈴君が自己紹介をした時に『可愛い』って声に出したくらいだったし……」


 一つ謎が解決した。


 俺が自己紹介をした時に誰かが『可愛い』と言った声が聞こえたのだが、その声の主が北川だったということが八ヶ月も経ってようやく判明したのだった。


「でもね、五十鈴君のことは今も可愛いとは思っているんだけど、五十鈴君ってさ、意外と『大人』じゃん? しっかりしているというか、頼りがいがあるというか……でも私が好きなタイプはどちらかというと、頼りないというか、私が助けてあげなくちゃって思える人が好きなんだよねぇ……で、そうしたら高山君って私の好きなタイプにピッタリなのよ……」


 北川の話を聞いて、俺は少し複雑な心境になってしまう。


 何故かと言えば北川が高山を好きになった理由が聞く人によっては『誉め言葉』に聞こえないからだ。


 もし高山が北川の好きになった理由を知ればアイツはどう思うのだろうと考えてしまう俺がいた。


「まぁ、北川の高山に対する気持ちはよく分かったよ。それと高山は彼女はいないよ。好きな人がいるかどうかは分からないけどさ……」


 奏のことを好きかもしれないということは口が裂けても俺は言いたくなかった。

 それよりも俺は北川と高山が付き合う事を心から望んでしまう。


「そっかぁぁ……分かった……」


「俺、北川を応援するよ!! それとなしに高山に北川を意識する様なことを言いまくるようにするよ!!」


「ハハハ……そこまでしなくていいよ。気持ちだけ受け取らせてもらうから……。なんとか自分だけで頑張ってみるわ……」


「北川がそれでいいなら俺は別に何もしないけど……いずれにしても頑張ってくれ!! 影から応援するからさっ!!」


「ありがとう……私、頑張る……」



 そういった会話をしている俺達に、いや俺に声がかかる。


「隆君……」


 その声は『つねちゃん』だった。

 そして『つねちゃん』の周りにはなんと昇さん夫婦や志保さんと山本さんの夫婦までいたのだ。


「つっ、つねちゃん!? それに皆さんも来てくれたんですか!? 有難うございます!!」


「フフフ……先生も今日は隆君の通っている高校の文化祭に来れて本当に嬉しいわ」


 『つねちゃん』がとても嬉しそうな表情でそう言ってくれた。


 そして昇さんも


「今日はうちの子を両親に預けて来たんだ。この絵が隆君達のクラスが描いた『ゲルニカ』だね? 凄く上手に描けてるなぁ!!」


「昇さん、有難うございます!!」


 すると志保さんが俺に抱き着いて来た。


「隆君、久しぶりねぇ!? しばらく見ないうちに大きくなって……お姉ちゃん、なんだか感動しちゃったわ!!」


「そんな……大袈裟だなぁ……それに志保姉ちゃん、恥ずかしいから離れてくれないか?」


「えーっ!? そんな冷たいこと言わないでよぉぉ!!」


「イヤイヤイヤッ、山本さんもいるんだし……」


「ハッハッハッハ!! 隆君、僕は全然大丈夫だから。志保ちゃんの気の済むまで抱きつかせてあげてよ」


「えーっ!?」


「 「 「ハッハッハッハ!!」 」 」


 俺達の光景を驚いた表情で見ていた北川もいつの間にか一緒になって笑っていた。


 そして俺に抱き着いて離れない志保さんを笑顔で見つめながら『つねちゃん』が俺に聞いてきた。


「今日はみんなんで久しぶりに『学生時代』を思い出そうって言いながら来たのよ。隆君は今日はどんな予定なのかな? もし時間が取れるなら私達を案内して欲しいのだけど……」


「ああ、大丈夫だよ。もうすぐ交代の時間だし……そうしたら俺、もうやること無いし、つねちゃん達を案内させてもらうよ」


「ほんと? 良かったわ」



「それじゃぁ、私達も案内してもらえるかしら!?」


「えっ?」


 俺が振り向くとそこには妹の奏を中心に稲田、川田、村瀬、森重、大石、そして寿や山田という『中学時代』の懐かしい顔ぶれが勢ぞろいしていた。


「お、お前達も来てくれたのか!?」




――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


遂に『文化祭』開催

開催早々まさかの北川からの高山に対しての想いを聞かされる隆


そんな中、『つねちゃん』だけが文化祭に来てくれたと思いきや予想外の人達が集結!?


懐かしい顔ぶれと新たに出会った人達との遭遇はあるのだろうか?


どうぞ次回もお楽しみに。

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