第16章 それぞれの恋路編
第102話 初恋の人は愛おし過ぎる人
月日は巡り今は十月……
夏休みは遊園地が『ナイター営業』をしていたので朝から晩までアルバイト、そして休みの日は親父との約束通りに仕事を手伝っていたのでまさにアルバイト三昧だった。
お陰で遊園地でのバイト代は安いわりにトータルすると結構なお金になったので、俺はそのお金とお年玉を合わせて思い切って『パソコン』を購入した。
『前の世界』の俺はバイト代で最新型の『ビデオデッキ』を購入したのだが、『この世界』での俺が『パソコン』を購入した理由……
俺は若い頃、パソコンには全然興味が無く、日常生活でも必要が無かった。
しかし就職してみると年々、パソコンの必要性が高くなり、俺は会社の上司や同僚、もしくは後輩達にパソコンのいろはを教えてもらいながら覚えていき、自宅でも必死に勉強をした。それでいつの間にかレベルも上がり、四十歳手前には逆にある程度のことを教えれるレベルにまでなったという経緯がある。
また親父の会社を継いだ弟は元からパソコンには興味があり操作にもたけていたので、渋っていた親父を説得し直ぐにパソコンを導入し、最初は設計やら見積もりなどに活用していたみたいだ。
そして数年後に世の中が『ネット社会』に変わっていった頃には後れを取らずに済み、時代の流れに即対応ができ、高い業績をあげることとなる。
俺は『この世界』にタイムリープをして唯一失ったものがある。
それは『学力』だ。それは『パソコン』も同様であった。
社会人になってから努力して覚えたものでさえ『この世界』では記憶が無くなっていた。
未だに俺のタイムリープの『ルール』は謎だが、同じくタイムリープをしていた石田も俺と同様、勉強は苦労していたと言っていたし、何となくだが『努力』というのが一つのテーマになっているのではないかと俺は思っている。
いずれにしても俺は今の内からパソコンを勉強して『必ず来る未来』に直ぐに対応できるようにしたいと思っているのだ。
話は変わるが夏休みの間、俺はほとんどアルバイトをしていたので『つねちゃん』と会える機会が無かった。『早帰り』の時の夜に数回電話で話したくらいであった。
唯一会えたのは『つねちゃん』の実家の『食事会』に誘われて行ったくらいである。
その『食事会』の際に『つねちゃん』は遊園地で会った佐々木のことをとても褒めていた。
凄く気に入ったようだった。何か引き付けられるものがあるのだろう……
だが聞いている俺は『つねちゃん』の口から佐々木の話が出る度に胸がチクッと痛かった……本当に複雑な気持ちであった。
逆にその佐々木とは夏休みの間、ほとんど会っていることになる。
まぁ同じ『アトラクション』でバイトをしていることもあるが何故だか『シフト』も似たような感じだったので『前の世界』の時よりも一年早く佐々木と親しくなっているような気がする。
夕方五時でバイトが終わる時は『このまま残って、お客としてナイターで遊ぼうよ』と佐々木に誘われて数回にわたり一緒に遊園地で遊んでいる。極力他の人達も誘って佐々木と二人きりにならないように努力はしているが、それでも数回は二人きりになってしまっていた。
佐々木は二人きりの時は必ずといって『ステップスター』という名前の『この時代』では世界一大きな大観覧車に乗ろうと誘ってくるが、俺は毎回『高所恐怖症』だから絶対無理と拒んでいる。
俺はこの『ステップスター』には『つねちゃん』としか乗らないと心に決めている。そしてそれがまだその時では無いとも思っている。
俺がアクシデントとはいえ初デートの際に『つねちゃん』と初めてキスをしたのが昔からある小さな観覧車の『ホップスター』……
そして俺が『逆戻り』で『前の世界』から『この世界』に戻れるきっかけになったのが、この遊園地の跡地に造られた大観覧車の『ジャンプスター』……
そういった経緯から、ここの遊園地の観覧車には特別なものを感じている俺がいる……
だからそんな『特別な観覧車』には『特別な人』としか乗らないと心に誓っているのだった。
『特別な人』……
ある意味、佐々木も『特別な人』で間違いはないが、『つねちゃん』とは『想い』『重み』『愛の深さ』が違う。
『つねちゃん』は……そう、『愛おしい』……愛おし過ぎるくらいの存在なんだ……
来月で俺は十六歳になる。
十八歳まであと二年……
あと二年があっという間に訪れるのか、それともまだまだ紆余曲折で思ってもいなかった事が起こり長い二年となるのか、今の俺に分かるはずもない……
先日、『体育祭』が無事に終わり今は来月の『青葉祭』(文化祭)に向けて各クラスで準備を行っている。
『前の世界』でよく観ていたアニメやドラマでは高校の『文化祭』といえば『模擬店』などをやっていたり、はたまた女子達は『メイド服』を着たりしているシーンがあってとても華やかであるが、『この世界』は残念ながらまだ『昭和』である。
また『青葉東高校』だけに限らず同じ市の『公立高校』は『模擬店』などの飲食を提供する店は禁止になっていたので必然的に各クラスの出し物は『展示』や『お化け屋敷』『演劇』などに絞られていく。
そんな中、俺のクラスは『展示』をすることになったのだが、誰が言ったか忘れてしまったが何故か『巨大壁画』を描くことになってしまった。
ちなみにその壁画はあの有名な『パブロ・ピカソ』が描いた『ゲルニカ』というもので、俺達は何枚もの大きなベニヤ板を教室や廊下に広げ、その板の上に白い紙を貼り、そしてほぼ実物大の絵を各パーツごとに別れて描いていく。
本来なら別に何の問題も無い。
問題なのはただ一つ……
その陣頭指揮を俺がとる事になってしまったってことだ……
「おーい、五十鈴~? ここはどうすればいいんだ?」
「ねぇ、五十鈴君? ここは塗りつぶすんたっけ?」
「ねぇねぇ、五十鈴君?」
「・・・・・・・・・・・・」
な……何故、俺なんだ…………
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お読みいただきありがとうございました。
『新章』開始です。
隆が十八歳になるまであと二年......
隆にはこれから一体どんなことが待ち受けているのでしょう?
どうぞ次回もお楽しみに。
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