第43話 初恋の人の真実②

「生前、特に五年前くらいまでに姉さんと会っていたら、隆君……君がとても苦しい気持ちになっていたと思うから……」


 昇さんの口から意外な言葉が出て来た。


「えっ、どういう事ですか?」


「さっきの話だけど、姉さんが『今一番会いたい人』は隆君だと言ったよね? でも君も知っているかもしれないけど、姉さんの旦那さんは五年前に亡くなっているんだよ。という事は普通は亡くなった旦那さんに会いたいという気持ちになるのが普通じゃないかい?」


 昇さんは俺の問いかけには答えず、逆に俺に問いかけてくる。


「そ、そうですね。私も嬉しくは思いましたが少し違和感はありました。御主人が数年前に『病気』で亡くなられたというのは先生の後輩から聞いていましたので本来なら『亡くなった主人に会いたい』という様な言葉が出て来ても不思議じゃ無いですよね……」 


「ふぅ……そうだろぉ……?」


 昇さんは少し暗い表情をしながらこれまでの『つねちゃん』の事を話しだした。


 まず『つねちゃん』は三十半ばまで独身だったらしい。それで昇さんを含めた家族全員が無理やり『お見合い』をさせたそうだ。


 しかし昇さん家族にとってはそれが後に『最大の後悔』になってしまう。


 というのもその見合い相手の男、後に旦那になる人が実はかなりの『酒乱』で、新婚当初は大人しくしていたらしいが年々『酒乱』が表に出てくるようになり結婚三年目くらいには『つねちゃん』に暴力を振るう様になったらしい。


『つねちゃん』は何度も家を飛び出し離婚の危機も何度もあったそうだ。


 しかし離婚の話が出ると旦那は一時だけは反省し、酒を絶ったりしていたそうだが、日が経つとまた酒を飲みだし元通りの酒乱に……


 そんな繰り返しが二十五年くらい続いたが、約五年前のある時、旦那が事故を起こした。それも『ひき逃げ』及び『酒気帯び運転』……


『ひき逃げを』された被害者は亡くなり、そして『つねちゃん』の旦那は直ぐに捕まりそして『交通刑務所』へ……


 亡くなったのは母子家庭であったお母さんの方……


 残された娘さんはまだ学生だった。


 あの『酒乱』の旦那が犯してしまった罪の為に妻である『つねちゃん』はその間、被害者の娘さんのところに頻繁に足を運び出来る限りの『償い』をしていた。


 旦那は逮捕されて数ヶ月後に獄中で亡くなった。


 以前から酒の飲み過ぎで肝臓を患っていたそうだ。


 旦那が亡くなっても『つねちゃん』は必死に被害者の娘さんの自宅に足を運び『炊事、洗濯』などをやり必死に罪を償っていた。


 昇さんいわく、『つねちゃん』には子供が居なかったので、その娘さんが自分の娘の様に思えてきたのではないかと言っていた。


 そして最近になって娘さんから『つねちゃん』に対して『あなたの誠意はとても伝わってます。もう私は大丈夫ですから。お身体にもさわりますので元の生活に戻って下さい』という言葉を頂いたそうだ。


 それが昨年の年末だったらしい。


 そして今年の正月にその報告も兼ねて『つねちゃん』は昇さん達に久しぶりに会った。


 その時の『つねちゃん』の顔は久しぶりに晴れやかで、その姿を見た昇さん達の方が涙を流したらしい。


 『つねちゃん』はそれからもその娘さんの家には週一ペースで足を運んでしたそうだ。


 やはり何年もお世話をしているうちに本当の娘の様な感覚になってきたんだろう……


 その娘さんも『つねちゃん』の事を心から好きになっていったんだと思う。


 昨日の『告別式』ではその子が一番号泣していたそうだから……



 俺は昇さんから『つねちゃん』の真実をたくさん教えてもらった。


 そして改めて『つねちゃん』は常に心の優しい人だったんだと思うのであった。


 帰り際、昇さんがふと漏らした言葉が頭の中から離れない……


「これは私の勝手な想像なんだけどね……姉さんが三十半ばまで結婚しなかったのは、実は好きな人が居たのではないかと思う様になってきたんだよ。でもその好きな人が姉さんの事を好きだったのか、姉さんがその人からプロポーズされるのをずっと待っていたのか……まぁこれは本当に私の勝手な想像……もしかしたら願望かもしれないけどね……」



 俺は昇さんとの会話を思い出しながら電車に乗っている。


 そして『つねちゃん』が志保さんに送った手紙の様な年賀状を読んでみる。


『志保ちゃん、明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。ここ数年会えていませんがお変わりはありませんか? 私は最近よく昔の夢を見る様になったわ。だから昔の事をよく思い出してしまうの。志保ちゃんと出会った頃や、それよりも前の事……私が初めて幼稚園の先生になった頃の事かな。その頃に一人印象的な子がいてね、私はその子に会ってみたいなぁって最近よく思うの。そういえば志保ちゃんはその子と知り合いじゃなかった? そう隆君……五十鈴隆君に私は会いたいなぁって思っているの。もし志保ちゃんさえ良ければ隆君に会わせてくれないかな? 宜しくお願い致します。志保ちゃんご家族にとって良い年でありますように……』


「・・・・・・・・・・・・」



ーーーーーーーーーーーー

お読みいただきありがとうございました。


昇から沢山の『つねちゃん』の真実を聞いた隆

ますます『つねちゃん』の事が好きになったのは間違いないが『この世界』には『つねちゃん』はもういない……


そして『つねちゃん』が書いた年賀状を読む隆

そこに書かれていたのは衝撃過ぎる内容であった。


果たして隆はどうするのか?


次かその次くらいで『逆戻り編』は終わる予定です。

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆

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