第44話 初恋の人に会えなかった理由
俺は『つねちゃん』の書いた年賀状を読みながら涙が出て来た。
本当に俺は涙もろくなったよな……歳のせいなのだろうか?
まさか『つねちゃん』が志保さん宛ての年賀状にこんな事を書いていたなんて……
俺は『つねちゃん』に会える可能性があったんだ。
それなのに何故、志保さんは『つねちゃん』の願いを叶えようとしなかったのだろうか? 俺と『つねちゃん』を引き合わせたくない理由でもあるのか?
それにもう一つ疑問がある。
何故、志保さんは『つねちゃん』が亡くなった事を俺に知らせに来た時、『つねちゃん』が俺の担任かどうか知らない様な感じで聞いてきたのか……?
『つねちゃん』からの年賀状をちゃんと読んでいれば俺が『つねちゃん』の『元教え子』という事は分かるはずだ。
それなのに何故あの時……何も知らない感じで俺に聞いてきたのか?
くれぐれも『文章が多くてちゃんと読んでいなかったの』という様なオチだけは勘弁してもらいたい……
志保さんならあり得るオチではあるが……
いずれにしても今日、いや明日また志保さんのところに行って真意を聞いてみよう。
【あくる日の朝】
ピンポーン ピンポーン ピンポーン
「はーい!! 三回も鳴らさなくても聞こえてるわよ!! それにしてもこんな時間に誰かしら?」
相変わらず元気な志保さんである。
ガチャッ……
「あら、隆君? 今日もこんな朝っぱらからどうかしたの?」
「志保さん、おはよう……何度も来てゴメン……」
俺が少し申し訳ない様な顔で挨拶をすると、志保さんは不満げな表情をしながら俺に話し出す。
「隆君、私の事を『志保姉ちゃん』って昨日みたいにもう呼んでくれないの? 残念だなぁ……私、昨日は何だか『過去の世界』に戻った感じがして凄く懐かしくて嬉しかったのに……」
俺は志保さんからまさか『過去の世界』という言葉が出てくるとは思わなかったので驚いたと同時に、この人は本当に俺の事を弟の様に思ってくれているんだなぁと強く感じるのだった。
しかし俺としてはそんな事よりも志保さんに昨日の話をしなくてはと思い、カバンから『つねちゃん』が書いた年賀状を取り出し、志保さんの前に差し出した。
「あっ、年賀状……昨日はちゃんと香織先輩の家を見つける事はできたの?」
「うん……それに偶然にも『つねちゃん』の弟さんにも会う事が出来て、家にも入れてもらって色々と話を聞く事が出来たんだ……」
俺がそう言うと志保さんは少し驚き、何か考える様な表情をしながら
「そうなの……昇さんに会ったのね……それじゃ香織先輩のこれまでの事も聞いたのね? そして隆君は年賀状の内容も読んで慌てて私に『真意』を聞きたくて来たって感じかな?」
俺は更に驚いた。
志保さんは『つねちゃん』のあの大変だった人生を全て知っている様だった。
それをあえて知らない振りをしていたのか?
さすがは昔、『演劇』をしていただけの事はあるな。
でも……
「志保さん……全部知ってたんだね? それなのに何も知らない振りをしていたんだよね? それなのに何故、わざわざ『つねちゃん』が亡くなった事を俺に教えてくれたんだよ? 何故、年賀状に書いている『つねちゃん』の願いを叶えてあげなかったんだよ?」
俺は少し興奮した口調で志保さんに問いかけた。
「隆君……私が香織先輩と隆君を引き合わせなかったのはお互いに『良い思い出』『綺麗な思い出』として生き続けて欲しかったというのが理由かな。本当はもっと前に香織先輩と隆君を引き合わせる事も出来たの……昔、香織先輩の家にお邪魔した時に隆君と一緒に撮った写真が飾られていたのを見ていたから。でもその時は香織先輩が御主人の事でとても大変な時期だったし……会ってもお互いに辛いだけじゃないかなって思ったの……」
「それじゃ何故、昨年末につねちゃんの抱えている問題が解決していたのに、今年になって……つねちゃんが年賀状で志保さんに俺と会わせて欲しいとお願いしていたのに、何故会わせてくれなかったんだよ?」
俺は自分でこう質問しながら何となく志保さんの答えは分かっていたが、やはり思っていた通りの答えが返ってくる。
「私は香織先輩の問題が解決していた事は知らなかったの。今初めて隆君の口から聞いて知ったわ……でも……もし解決した事を知っていても香織先輩に今の隆君を会わせる事はしなかったと思う。だってそうでしょう? 香織先輩は隆君の事をとても『良い思い出』にしているの。凄く『美化』しているの。それなのにアナタは……会社をリストラされてから、奮起して一から頑張る訳でも無く、家でウジウジしながらのニート生活……高齢になられたご両親に心配をかけている『親不孝息子』……そんなあなたを『美化』している香織先輩に会わせたくないわ!! 香織先輩の『良い思い出』を壊したくなかったのよ……」
俺は志保さんに何も言い返せなかった。
そう言われるであろうと思っていたからだ。
それに俺自身も今の姿を『つねちゃん』には恥ずかしくて見せたくないと思う自分もいる。だから『あの世界』にタイムリープしてからの俺は『つねちゃん』に認めてもらえる男になる為に、一から……『子供』からやり直そうと心に決めたんだから……
俺は何も反論せず、黙って志保さんに頭を下げて帰ろうとした。
そして俺が志保さんに背を向けた時に後ろでしゃがみ込む様な音がしたかと思った瞬間、志保さんが泣きながら俺にこう言った。
「た、隆君、ゴメンね……まさか香織先輩が亡くなるとは思っていなかったから……隆君が『人生をやり直した時』に二人を会わせようと思っていたのに……そんな事なら『今の隆君』でも会わせてあげたほうが良かったのかなと今は後悔している。だから本当は香織先輩が亡くなった事も言わないでおこうと思ってたけど、どうしてもそれだけは伝えなければいけないと……伝えなければ私は一生後悔する様な気がしてしまって……」
俺は志保さんの言葉……そして思いを聞いて胸が苦しく心が痛くなる。
「ありがとう……『志保姉ちゃん』……そしてゴメンね……」
俺はそう志保さんに言い、外に出る。
そして俺は自宅へは帰らず、そのまま最寄り駅の方へと向かうのであった。
――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
『この世界』での『つねちゃん』の真実、そして『つねちゃん』に会えなかった理由が全て分かりました。
そしてそれを全て知った隆は最寄りの駅へと向かう。
彼は一体、どこに行くのか?
次回、『逆戻り編』最終話です。
果たして隆は『あの世界』に戻る事が出来るのか!?
どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆
感想もお待ちしておりますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます