第42話 初恋の人の真実➀

 あの人は『つねちゃん』の弟さんの昇さんだ……


 『あの世界』での『つねちゃん』との初デート

 その初デートで遊園地に行った時に偶然に会った時のイケメンの弟さん……


 おそらく昇さんも六十歳は過ぎていると思うが、あの頃の面影は残っている。

とても若々しく良い歳の取り方をしていた。


 俺は昇さんに近づいて行き、少し緊張した口調で声をかけてみた。


「あ、あのぉぉ……すみません。この家は『山本香織さん』のご自宅で間違い無いしょうか?」


 すると昇さんは一瞬驚いた表情をしたが、直ぐに微笑んだ表情になり俺に問いかけてきた。


「そうですよ。あなたは姉さんのお知り合いの方ですか?」


「は、はい……山本先生の『元教え子』です。山本先生の後輩の方から山本先生がお亡くなられになられたと聞きまして……昨日の告別式に参列出来ませんでしたので、せめてご自宅の前で手を合わさせて頂こうと思い寄せて頂きました」


「そうなんですか? 姉の為にわざわざ有難うござます。きっと姉も喜ぶと思います。ところであなたのお名前を教えて頂けませんか?」


「あっ、すみません。私は五十鈴隆と申します……」


 俺がそう名乗ると昇さんは微笑んだ表情が一変し、再び驚いた表情になり昇さんの方から俺に近づいて来た。


「な、なんて事だ。まっ、まさか、こんな偶然……いや、こんな『奇跡的』な事なんてあるのだろうか? しっ、信じられないよ!!」


 俺は昇さんの言葉が理解出来なかったが、昇さんは俺の肩を叩き『とりあえず、姉さんの家の中で話をしよう』と言い、俺を『つねちゃん』の家の中へと案内してくれたのであった。



 『つねちゃん』の自宅の中はとても整理されていて綺麗だった。

 『あの世界』の『つねちゃん』の部屋の中も綺麗だったので納得はいく。


 そして俺は昇さんに誘導されてリビングのソファーに座る様に促される。

 昇さんは今日は遺品整理に来ていたそうだ。


 リビングにあるサイドボードの上には沢山の写真が飾られていた。

 その写真の中には『つねちゃん』が幼稚園の先生時代に撮ったであろう園児達と一緒に撮った写真も多く飾られていた。そして勿論最近の写真もある。


 やはり昇さん同様、六十歳を過ぎている『つねちゃん』もとても若々しく、特に笑顔の写真はまるで『女優さん』の様だった。


 俺はそれらの写真を一枚一枚真剣に見ていたが一枚の写真の所で衝撃が走る。


「あっ!? 俺とつねちゃんとの写真が……」


 なんと俺が卒園する日に幼稚園の門の前でつねちゃんと一緒に撮った写真も飾られていたのだ。


「気が付いたかい? そうだよ。この写真が姉さんの幼稚園の先生時代で一番古い写真なんだよ。そして隆君……あっ、隆君と呼んでもいいかな?」


「は、はい、構いませんよ……」


「それじゃ隆君。姉さんはね、この写真を……隆君と一緒に撮った写真を一番大切にしていたんだよ。よほど君の事が大好きだったんだろうねぇ……」


「そっ、そうなんですか!? それはとても嬉しいです……」


 俺は昇さんに普通の返事をしたが、心の中は穏やかでは無かった。


 まさか『この世界』の『つねちゃん』に俺はずっと思っていてもらえていたなんて……


 俺の方はそんな事とは知らず、年々『つねちゃん』の記憶が薄れていっていた。

 俺も同じ写真を持っているが『つねちゃん』のように飾っていたのは数年だけで、その後はアルバムに閉じ、そしてそのアルバムは押し入れの奥の方に保管するようになった。


 志保さんから『つねちゃん』が亡くなった事を教えてもらっていなかったら、おそらく俺は『つねちゃん』に対して今の様な気持ちになる事は無かっただろう……


 俺はなんてバカな男なんだ……

 俺にもっと気持ちがあれば『あの世界』の様に色々な手段を使って『つねちゃん』に会う事は出来たはずなんだ。


 何故『この世界』の俺はそういう気持ちになれなかったんだ。

 俺は『つねちゃん』の事が好きだったんじゃないのか!?


 俺は昇さんの前では平静を装ったが気持ち的にはかなり凹んでいた。


 すると昇さんが再び話し出す。


「実はね隆君……私が姉さんに最後に会ったのは今年の正月なんだが、その時の姉さんとの会話の中で『今、一番会いたい人』という話題になってさ……そうしたら姉さん、今、一番会いたい人は誰だと言ったと思う……?」


「えっ、誰何ですか……?」


「君だよ。隆君だよ。姉さんは『五十鈴隆君に一番会いたい』って言ってたんだ!!」


 俺はまたしても衝撃が走る。


 『つねちゃん』は何年経っても、結婚しても、年老いてきても、ずっと俺の事を忘れずに……それどころか『一番会いたい』とまで思っていてくれていた。


「うっ……」


 もうすぐ五十歳の俺の目から涙が流れだす。


 それを見た昇さんは慌てて俺に話しかける。


「ゴメンゴメン……隆君を泣かす為にそんな話をしたんじゃないんだよ。私は今日、君がここに来てくれた事がとても嬉しくて仕方が無いんだよ。正月に姉さんが言っていた事が本当に叶ったんだからね」


「で、でも……つねちゃんは……」


「つねちゃん? あぁ、君も姉さんの事をそう呼んでいたのかい? まぁ、出来れば姉さんが生きている間に君と会えれば良かっただろうけど……でも私とすれば会わなくて良かったと思うよ」


「えっ? ど、どういう事ですか?」


 昇さんは一呼吸しながらこう答えた。


「生前、特に五年前くらいまでに姉さんと会っていたら、隆君……君がとても苦しい気持ちになっていたと思うから……」






――――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございました。


昇の口から次々と聞かされる『つねちゃん』の真実

真実を知った隆の心はとても痛かった。

しかし昇からは更に驚きの真実を聞かされる!?


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という事で次回もお楽しみに(*^▽^*)

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