他ガ為ノ世界

=side:ラピス=



遡ること数分。分身を倒したラピスは消耗しきった状態で地に伏していた。HP的にはそこまで消耗しておらずMPもパッシブスキルにより少しずつ回復しているが、状態異常の欄には「疲労」「憔悴」の文字が見える。



「ハァ……ハァ……」



荒い呼吸を整えつつ、仰向けになって自分の手のひらをじっと見つめる。お世辞にもカッコいい勝利とは言えず、寧ろ傍から見れば非常に地味な勝利であったがラピスにとってはこれ以上の喜びは無い。あのコロナがラピスのことを信じて任してくれ、それを全うしたのだ。正直、今すぐにでもログアウトしてベットの上で身悶えし、この出来事を事細かく日記に記したい気分だった。



「ハァ……ハァ……、フゥ~……先輩なら、もっとかっこよく勝てたんでしょうか」



目を閉じ、コロナが先ほど倒した分身と戦った場合を考える。自身よりもリソースも火力も膨大な彼女のことだ、おそらく一瞬で相手のリソースを削りきるだろう。ラピスの脳裏にコロナが分身を圧倒している様子が思い浮かぶ……多少の美化はあるが。


と、ここでラピスはある事実に気付く。目の前でドロドロの液体と化したアレは分身だろう。そうでなければラピス1人で勝てるはずがない。では本体は?



「……先輩ッ!」



恐らくコロナは今、本体と一対一で戦っているのだろう。ラピスの心に一抹の不安が差す。もしかしたら、コロナは本体との戦闘に苦戦しているかもしれない。もしかしたら、本体は分身には出来ないことが出来るかもしれない。もしかしたら、本体はまだ分身を作ることが出来、一対一という想定すら違っているかもしれない。もしかしたら、先ほど倒した分身はボスゲージの1つ目にすぎないかも知れない。


様々な考えがラピスの頭の中をめぐる。



「どうにか先輩のもとに……」



居ても立っても居られなくなったラピスは立ち上がろうとするが、「疲労」によって立つことが出来ず「憔悴」によって動きも遅い。しばらく試したのち立つことは諦め、何か役に立つものは無いかと自身の持ち物やステータスを確認する。



「……あっ!」



ラピスの目が自身の魔法の欄で止まる。その魔法は、コロナに使いたいと考えつつもそれはいつか彼女の期待に答えられるようになってからにしようと決めていたものだった。


【他ガ為ノ世界】。


魔術に近い性質を持つこの魔法は契約魔法の1つであり、1つのデータにつき対象は1人、1度しか選べない。それは対象を自身の神として定め、自身の全てを捧げる魔法だ。対象には専用のスキルが付与され、【他ガ為ノ世界】使用者は擬似的に対象の装備・持ち物となる。



「【他ガ為ノ世界】」



ラピスは迷わず魔法を行使する。今回の戦闘で踏ん切りがついた以上、最早使用をためらう理由は何処にもない。直後、目の前にメッセージウィンドウが現れた。



『主から一定以上離れています。主のもとへ馳せますか? YES/NO』



ラピスの指がYESに触れた瞬間視界が光に包まれる。思わず目を瞑ったラピスが再び目を開けると、まさに永久に不孝をなすものがコロナを殴り飛ばすところだった。



「【反魂半魂アッド・バイム】!」





――――――――――――――


誕生日だから更新です。

……ん? 誕生日に私が更新するのってなんかおかしくね?

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