霜を踏み躙るもの23
パイルバンカーと叢雲が鍔迫り合う、ギャリギャリと言う音が響き渡ります。いくらかやり取りをして分かったことなのですがあのパイルバンカー、無機物に対しては効果が無いようです。
少しずつ少しずつ、なるべく緩やかに思考を加速させていくことで出来る限りの時間稼ぎを図ります。正直2人のうちどちらかが駆けつけてくれなければジリ貧でしかない下策中の下策ですが、そこは仲間として信じることとしましょう。
「ッチ、この速さだと学習ペースの方が速いみたいですね」
一瞬だけパイルバンカーの先に掠った小指が液体となって爆散します。一瞬私がひるんだのを見逃さず追撃を入れてくる不孝さん。この距離では叢雲で迎え撃つこともままない、そう判断した私はすぐさま叢雲を手放し液化した小指を右手にまとわせて不孝さんの目に飛ばしました。視界を奪われた不孝さんがの追撃を何とか躱し足元の瓦礫を蹴って牽制しつつ距離を取ります。
見えないなりに何かが飛んでくることに気付いたのか不孝さんは瓦礫の迎撃に専心しており、さらなる追撃はありませんでした。先ほど叢雲で初見殺しをかまして以降、不孝さんが少々慎重になったように思います。瓦礫を全て迎撃したのが良い証拠です。
「それに、なんだか人間味が増した気がしますね」
目を擦り、数度瞬きをしてこちらを見据えた不孝さんを見てそう呟きます。最初は全く表情の無かった不孝さんですが、今では先ほどのような人間らしい所作が増えてきました。これも学習の成果なんでしょうか。
と、私の様子を伺っていた不孝さんが再び肉薄してきたので先ほどの反省を活かしつつ緩やかに思考加速を開始します。……うん、これくらいのペースが最適ですね。間一髪のところでパイルバンカーを捌けます。
「いや、ちょっと加速が上回り気味ですかね?」
数合打ち合って、一瞬ですが不孝さんに隙が出来ました。どうやら少し加速が速すぎたようです。まぁわざわざ見逃してやる理由もありません。私は叢雲を不孝さんの右脇腹めがけて突き出しました。
ガキィン、と金属と金属がぶつかり合う音が響きます。
完全に隙を突いたはずの一撃、しかしそれは関節を逆に折って無理やり引き寄せた右のパイルバンカーによって寸でのところでガードされてしまいました。どうやら人間態の不孝さんでも少しは人体構造に反した動きが出来るようです。
とは言え不孝さんが体勢を崩したのもまた事実、突きによって後方へ吹き飛んだ不孝さんを追うようにして肉薄します。そしてそのまま叢雲を振りかぶって……
ニタァ
「!?」
誘い込み……!
瞬間、視界が暗闇の包まれます。その直後顔面に軽い衝撃、視界の確保のため構成していた眼球が崩壊し始めました。どうやら先ほどの衝撃は右眼球を潰し完全に視界を奪うことが目的だったようです。先手を打って行動を潰された私は成す術もなく殴り飛ばされました。
これはやらかしましたね、完敗です。正直このゲームのAIを舐めてました。まさか思考加速のペースを調整することを読んでこちらから認識できる学習ペースを調整してくるとは。
あー、これはちょっと悔しすぎて暫くログイン出来ないかも……
「【
瞬間、真っ暗だった視界が明転しました。
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久々にちゃんと風邪引きました。30日から帰省するのでまた更新止まります。
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