霜を踏み躙るもの17



成程あれを引きはがさなきゃいけないんですか。取り合えず一回やってみましょう。


両腕を肥大化させて~、はいドーン。そのまま押して押して~。



「げ」



叩き付けた腕でそのまま押し出すようにして移動させようとしたんですが、腕が取り込まれ始めました。ちらっとステータスを確認してみると、どうやらSIZを奪い取られたようです。しかも不孝さんは微塵も動いておらず、回避のできない私はレーザー攻撃を避けられませんでした。おかげで取り込まれつつあった腕を切断されて、それ以上の被害を避けることが出来ましたが。


うーん。不可能、というわけじゃなさそうですが無理寄りな上にSIZリソースを奪われるのは致命傷なので諦めます。代替案でいきましょう。


グッ、と脚に力を込め射出するようにして跳躍。天井を蹴り下に向かって再度跳躍することで殺到するレーザーを回避し、そのままスライディングの要領で不孝さんの真横まで到達します。



「ごきげんよう。ときに不孝さん、あの分体達って不孝さんが直接制御してる訳じゃないですよね?」



「……? ッ、貴様!」



どうやら気付いたらしい不孝さんが触手を伸ばしてきますが、機械型分体のレーザーに比べれば止まっているようなものです。不孝さんの触手を回避しつつ、再び迫ってきたレーザーの盾にするように不孝さんの裏側へと駆け出します。



「痛っっっったいですねぇ!」



不孝さんの巨体で見えなかった分、少々被弾してしまいましたが問題ありません。私にレーザーが当たるということは不孝さんの身体を貫通しているということ。恐らく彼(彼女?)は私以上のダメージに襲われていることでしょう。



「レーザーカッタァァァァアアアアアア!」



不孝さんの裏側に駆け出した私は、そのまま半周して逆サイドまで駆け抜けます。そして振り返れば……



「ぐ、ヌゥゥゥウウウウ……」



そこには分体のレーザーによって地面との接地面付近を寸断された不孝さんの姿がありました。


やっぱり分体のAIはダメですね。処理リソースを攻撃に全振りしているため、同士討ちフレンドリーファイアを回避する頭が無いようです。


ともあれ、これで根切りも出来たことですしかなりこちらが有利になりました。リソースが無限ではなくなった以上ある程度で分体も打ち止め。さらに、これからはフレンドリーファイアに気を付けながら分体を運用する必要があるため分体の動きはさらに悪くなるはずです。



「さーて、これで……






ベキ






……?」



突然、目の前の不孝さんが骨を砕くような音とともに縮み始めます。それどころか既に出ていた分体も不孝さんのもとに集結し始めました。


いやこれダメな奴では? 具体的に言うと最終形態前のバフ阻止フェイズでは?



「そぉい!」



悩んでいても仕方ありません、近くにいる分体から順に片端から潰していきます。あ、逃げられた! 流石に全てを潰すことは叶いそうにありませんね。


そうしてひたすらに分体を撃破していると、最後の1匹が不孝さんに同化していきました。不孝さんは随分と小さくなっており、人間形態の私とそう変わらない大きさです。依然不快な音を立てながら変形するそれは、段々と人型を取り始めました。いや、というか



「なーんでこういうのって絶対に少女の形になるんでしょうね」



不孝さんはトーカとそう変わらなさそうな少女の姿になりました。いえ、おっさんになれって訳じゃありませんが。というか人型になったあたり、対話イベントの可能性もワンチャン……?






ガチャン






「うーわ」






前言撤回、ワンチャンありません。ノーチャンです。不孝さんの背中から非常に見覚えのあるレーザー砲台が生えてきました。もちろんその照準は須く私の方を向いています。艦〇れかな?



「……」(ニコッ)



「あっぶな! ……成程、それならフレンドリーファイアしませんね」



笑顔とともにノータイムで放たれたレーザーを回避しつつ、冷や汗とともに不孝さんのほうに向きなおります。砲台が1つでは不足しているのかと思ったのか、不孝さんが腕を広げたとたん足の付け根からズラッと砲台が顔を覗かせました。何それかかっこいい、わたしもやりたい!



―――――――――――――――――――――――

少女になった理由はあるよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る