霜を踏み躙るもの16
「88,89……90,91,92……93……」
特にこれといったレーダー対策も思いつかないまま、機械型分体を相手に戦闘を続けること10分と少し。分体のAIは性能が微妙だという話をしましたが、今回に限ってはそのことが障害になることは無いようです。え、何故って?
「ほれほれ次だ」
「クッ、また……!」
それは分体が破壊されても構わないからです。不孝さんの膨大な質量SIZから無尽蔵に繰り出される分体、残弾を気にしなくて良いならば攻められるだけ攻めればいいのが道理でしょう。防御・回避にリソースを割かなければいくら微妙なAIでもそこそこの高機動が維持できます。
……「戦いは数」という話を先ほどチャッカマンさんにしましたが、まさかそのすぐ後に私が人海戦術を押し付けられることになるとは。
「……102,103……104……105……」
いや、流石に多すぎませんかね!? 私が潰しただけで105体、視界に入っている分も含めれば既に200近い分体が産生されたことになります。機械型分体の大きさは人間と同程度、つまりSIZ13前後。単純計算で不孝さんは2600ものSIZを消費しているはずです。そこまで消費しているなら本体の大きさが目に見えて小さくなっていてもおかしくないと思うのですが。
「不孝さん、もしかしてどこかから補給しながら戦ってます?」
「さてな。質量を圧縮しているだけかも知れんぞ」
その場合はジリ貧で負けるしかないので考慮するだけ無駄ですね。ということでどこかに補給経路がある前提で立ち回りましょう。わかりやすく"目標"があるというのは如何にもゲームらしいですし、そう言った意味でも補給経路が存在する可能性は高い気がします。レーダー対策が思い付かない以上、分体相手にはお茶を濁しつつ本体にダメージを与えるしかありません。
「そろそろやられっぱなしもおしまいにして反撃させてもらいますよ、ッと!」
指先を伸長させた上で肥大化、そのまま引っ搔くようにして薙いで分体ごと本体を叩きます。気分は漫画に出てくる糸使いです。糸と呼ぶには少々、いえ大分無骨ですが。しかし、そんな無骨な殴打を喰らっても不孝さんはけろっとしています。
「むぅ、分かってはいましたけど実際に全く効いていないのを見るとなんだかムカつきますね……」
「貴様もそれは同じだろうに」
「いやそれはそうなんですけどこれはこれです」
確かに命中した私の殴打でしたがそこはショゴス、やはり物理攻撃は一切効かないようです。攻撃後の隙を見逃さず、レーザー攻撃が殺到します。
「はっ、ほっ、はっ、よっ! おお、一回やってみたかったんですよバク転回避!」
「器用なものだな」
「そりゃどーも」
バク転の勢いを利用してそのまま不孝さんとの距離を取ります。いやぁ、現実の私じゃ絶対できませんからね。これぞゲーム体験! って、おや?
「?」
何故か機械型分体が攻撃を仕掛けてきませんね……ああ、普段分身しか使わないから忘れてましたが分体は射程距離が短いんでした。おそらく機械型分体のレーザー攻撃もその射程距離に準ずるのでしょう。
でもそれだけでは説明がつかないことがあります。だって、敵が射程外に逃げたのなら追いかけて射程圏内に捉えればいいだけの話です。それをしないということは不孝さんにはあそこから動かない理由、もしくは動けない理由があるということです。例えば根を張っているとか。
ようやく勝ちの目が見えてきたような気がします。となるとまずは不孝さんをあそこから動かしましょう。
「……え、あれを?」
目を向けた先にあるのは|極大の質量物体《》。困りました、あ永久に不孝をなすものの大質量をどうやって動かしましょうか。
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