霜を踏み躙るもの14
「【
私が1歩踏み出すと同時にラピスが魔法を使います。瞬間、永久に不孝をなすものさん……長いです、不孝さんの動きが硬直し、全身が不自然に蠢動しました。
【
ラピスが作ってくれた隙を突き、すれ違うようにして背後に回って肥大化した右腕を叩き付けます。が、私の一撃を受けた部分は一時的に変形したのみですぐにその形を再生してしまいました。
『貴様もショゴス、そのような攻撃が効かないことなど百も承知だろう?』
「一応ですよ、確かめたいこともありました、しっ!」
飲み込まれつつあった右腕を引き抜きつつ、明らかに魔法属性が乗っているであろうオーラを纏った薙ぎ払いをバックステップで躱します。ショゴスは魔法を憶えられないはずなんですけどねぇ?
「コロナ、魔法撃つから気合で躱せ! 【
『むぅ!?』
「ちょっ!?」
チャッカマンさんが頭に被っている銃の被り物がやたらめったら火を吹きます。いやいやいやその銃、飾りじゃなかったんですか!? というか、私がいる場所で魔法属性の無差別爆撃とか普通に死にますが。
「ぐえ」
「先輩!? 【
視界が暗転したのちラピスの魔法によってふたたび視界が開けます。うーん、酷い初デスです。確かにチャッカマンさんとの戦闘は初ですがこれは酷い。
「ラピスありがとう、チャッカマンさんは後でお仕置きです」
「ええ!? いやちゃんと警告したし敵にもダメージ入ってるだろ!」
「問答無用です」
警告されたところでショゴスのDEXで回避できるわけないでしょう。不孝さんの方を見やれば確かにダメージを受けているようで、身体のいたるところに焦げ跡が残っています。まあその焦げ跡もジワジワとにじむようにして消えてしまうのですが。再生を終えた不孝さんは何が嬉しいのか気色満面といった様子でラピスとチャッカマンさんに視線を向けました。
『ほう、ほうほう! 成程、矮小さき同胞以外も存外にやるではないか!』
「片方は阿呆ですが、私の仲間ですからね」
『クハハハ、よかろう、存分に相手してやる』
そういうと不孝さんは体を横に伸ばしつつ、その身体に2か所のくびれを……あー、そりゃ先方にもできますよね。一回り、二回り小さくなった不孝さんがそれぞれ私たちを見やります。どうやら一人ひとり潰していくつもりのようです。
『『『喜べ、1人1体だ』』』
「え、私ほとんど攻撃できませんよ!」
「大丈夫、ラピスならやれるって私信じてるから」
「じゃあやれます!」
「俺もやれる気がしないかな~、なんて……」
「知りません、勝手に頑張ってください」
「いうと思ったぜチクショー!」
〈罪なき投石〉以外の攻撃手段を持たないラピスが弱音を吐きますが、私が励ますとやる気十分といった様子で杖を構えました。まあ、彼女なら勝つことは難しくても豊富な補助魔法/スキルで負けることは無いでしょう。私が戦闘終了次第駆けつければいいだけです。チャッカマンさんは知りません、勝手に頑張りやがれです。
=side:ラピス=
先輩からの励ましで元気いっぱいの私は、えーと……名前は忘れちゃいましたがカルなんとかさんの分身と向き合います。先輩がやれると言ったんです、きっと私でも勝てるんです!
『貴様……先ほどの魔法、【反魂半魂】か?』
「? そうです!」
『ならば誓約を破るか? それともまさか石くれを投げるだけで私に勝てるとでも?』
「勝てますよ、先輩が信じてくれてるんですから!」
私は胸を張って答えます、先輩はできないことを出来るなんて言いません。できないならきっと私の頑張りが足りないからです!
「先輩が信じる私の力、見せてあげましょう!」
『信じる……ああ、信じるのは大切だとも、聖職者の本分だからな。だがそれも過ぎたるは無謀と言うものだぞ?』
そういうとカルさんは私の方へ触手を伸ばしてきました。戦闘職じゃない私じゃかわせっこない速さです。……まあ、わざわざ先手を譲ったのは私ですけどね。
ボン!
『グッ!』
私のもとに届く直前、地面が爆発して触手は上へと跳ね上げられます。一応ステータスを確認しますが……うん、やっぱり[
『貴様、誓約を破る気か?』
「いえいえ、そんな! そうじゃなくて、仕掛けた罠に相手が勝手に嵌るだけなら大丈夫かと思いまして!」
そう言うと作戦がうまく行ったことが嬉しかったのかラピスはにっこりと笑みを浮かべる。そんな彼女の背後に永久に不孝をなすものは意地悪く嗤う同胞コロナの姿を幻視した。
=side:チャッカマン=
チャッカマンはひたすらに逃げていた。それもその筈、また魔法をぶちまけてコロナにどやされてはたまったものでは無い。それは彼にとって何よりも、背後に迫る玉蟲色の悪夢よりも恐ろしいものだった。
「おいおい、ショゴスってのは鈍足が欠点の種族じゃなかったのかよ!」
『私はショゴスの王だ、凡百のショゴスと同じ扱いをされては困る』
チャッカマンはかなりAGIとDEXにステ振りしている自負がある。流石にマイカ程ではないにしろそこらのプレイヤー相手ならそうそう負けることは無いだろう。だが、カルコブリーナはそんな彼のすぐ後ろをぴったりとついて来ていた。
暫く走って、少し開けた場所に着く。周囲の壁が玉蟲色に輝いており、時々うねっているようにも見えたがチャッカマンは努めて無視した。ショゴスのコロニーに迷い込んだようだが、襲ってこないようならわざわざ刺激することもあるまい。ちなみにここはコロナが初ログインの際にゴミ捨て場から落ちた先でたどり着いた場所なのだが、彼には知る由もない。
『ほう、追いかけっこは終わりか?』
「ああ、ここならいくらでもぶっ放せるからな!」
そう言うと彼は【
【
「その巨体じゃ流石に躱し切れないだろ?」
『ぬぅ、その魔法……』
「俺にだってどこに向かうかわからねえ、最悪洞窟が崩れて俺が死ぬかもな! チキンレースしようぜ!」
『ぐ、おおおぉぉおおお!』
構えた銃の意味は、撃鉄だけが知っている。
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