霜を踏み躙るもの1



「で、今日は何をする予定なの?」



銃口を撫で回す。



「先輩と遊びたかっただけなので、私は何でもいいですよ!」 



口を開け、古くなった弾丸を吐き出す。



「(うーん、可愛い……)じゃあ、取り敢えず街を見て回ろうか」



新しい弾丸を取りだし、口に含む。



「はい!」



恍惚の表情を浮かべる。



「……で、話は変わるけどコレはなに?」



「むぐ?」



口に複数の弾丸を含んだ男性……チャッカマンさんは何か問題があるのか、と云わんばかりの態度で私の方を見てきました。

というかなんで頭が拳銃になってるんですか。



「あ、この人はさっきそこで知り合った方なんです! 先輩に用があるって言ってましたよ?」



ぐ、まさかラピスがグルとは。いえ、本人にそのつもりはなかったんでしょうが。というかこの子、私が絡むと赤の他人とも仲良くなれるんですよね。そうじゃないとコミュ障発揮するくせに。



「……お久し振りですね、チャッカマンさん」



「おう、久しぶチャカ見せてくれ」



……。無言で拳銃(型の身体の一部)を渡します。



「おぉおぉおぉおぉ……」



今回は前回のように大興奮はしないようですね。



「うーん、素晴らしい。俺もお前のクランに入れてくれ。チャカに携わることをさせてくれるなら何でもやる。この通りだ」



「いや突然言われても……因みに何が出来るんですか?」



「リアルでなら大抵の銃を作れる。ゆくゆくはこっちでも作れるようになりたいと考えてるけどな」



おや。このゲーム、リアルで出来ることなら大抵のことはできるものと思っていたのですが……



「リアルと同じやり方じゃ作れないんですか?」



「どうもシステムロックがかかってるのか、火器全般が作成不可能だ」



因みに火薬を用いないものなら大丈夫だそうです。突然インベントリからエアリアルライフルを出して発砲したときは何事かと思いましたよ。



「……わかりました。他のメンバーに確認を取ってからですが、私個人としては歓迎します」



「よっしゃあ! これで毎日あのチャカが拝めるぜぇ……」



「ラピスは何かある?」



「私は先輩に着いていきます!」



ラピスの後ろにブンブンと振られる尻尾が見えてきました。












「それはそうと頭にかぶってるそれは何ですか?」



「拳銃(頭装備)だ」



「タキシードも相まって映画でも盗みそうな格好ですよ」



「それ他の奴にも言われた」



────────────────


頭銃ヘッドショット


頭装備


効果:なし


拳銃の形をした被り物。撃つことはできない。


────────────────



いや完全にネタ装備じゃないですか。












その後私達は、街へ散策に出掛けました。因みにチャッカマンさんも一緒です。



「先輩、あれやってみましょうよ!」



「先輩、この串焼きおいしいですよ!」



「先輩、これ一緒に買いましょう!」



うーん、元気。何というか草原を駆け回る子犬を彷彿とさせます。



「俺が最初に話しかけたときは凄い大人しい子だとおもったんだけどなぁ」



「親しくない相手との会話が苦手ですからね、ラピスは」



赤の他人相手だとほとんど聞くだけマシーンと化します。喋るとしても「はい」「いいえ」くらいですね。


……ん? あれは……



「ラピス、チャッカマンさん、あそこに手招きしているおじいさんがいるんですが、ちょっと行ってみませんか?」



「いいんじゃねぇか?」



「私は先輩に着いていくだけです! ……けど会話はお願いします」



全員の同意が得られたので、先程から路地裏で手招きしていたおじいさんのところへ向かいます。年齢は不詳ですが、随分と腰が曲がっています。



「お前さん、ショゴスじゃな?」



「おや、よくわかりましたね。ええ、私はショゴスですよ」



「そりゃあ分かるわい、ショゴスは飽きるほどに……あぁ、飽きるほどに見たからのぅ」



何者でしょうか、このおじいさん。



「時にお嬢さん、ひとつこの老人の依頼を受けてはくれんかのう?」




『ブランチシナリオ:「霜を踏み躙るもの《カルコブリーナ》」を開始しますか?』




ビンゴ!やっぱりシナリオフラグでしたか。



「まずは内容を聞きましょう、話はそれからです」



「それは却下じゃ。時間がないでのう」



「え」



「きゃっ!」



「ちょっ」



おじいさんが私たちに手をかざした瞬間、視界が大きく歪みます。意識が闇に飲まれる直前、おじいさんの声だけがやけにはっきりと聞こえました。



「依頼内容は怪物を倒すことじゃ。脱出するには儂の許可が必要じゃから、頑張るんじゃな。なに、心配せんでも報酬は用意してあるぞい」










これが私たち三人の地獄の遭難生活の始まりでした。



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