第63話



残暑も陰り始めた今日この頃。

目を覚ましカーテンを開けた私に程よい陽光が降りそそぎます。


んーっ、良い朝です。……これは二度寝しても許されるのでは?


と、現実逃避をしている私に隣の部屋から声がかけられます。



「お姉ちゃーん、今日体育祭の予行練習だからってサボっちゃダメだからねーっ!」



……勘のいいガキは嫌いだよ。大体、普段は私が起こさないと全然起きてこないクセに今日は早起きしやがって。



「ぐぅ……」



ドタドタドタドタドタドタ



バンッ



「寝るなーッ!」



「ぷぎゅっ」



コイツ、人が寝てるところにフライングボディプレス仕掛けてきやがりましたよ……! しかも私が意識を失わないギリギリを攻めてきました。ちくせう、気絶していたら大手を振って欠席できたというのに。



「おーきーろー!!!」



「……やだ」



「子供か」



お前にだけは言われたく無いわ。



「だって走ると疲れて死ぬ」



「死なないよ! というかお姉ちゃん出るのって借り物と全員リレーだけだよね?」



「そうだよ? リレー1人200mとか死ねる」



ちなみに私が全力で走れるのは50mまでです。50mが6秒、100mは18秒とかだったと思います。十華は6秒/11秒とかです。



「たった200mじゃん……って、うわっ!何それ!?」



「ん、あぁこれ?」



私は窓枠に吊るしてあったソレを1つとって十華に見せます。


丸い頭。


ヒラヒラの胴体。


白い身体。



「てるてる坊主だよ。50個くらい逆さ吊りにしたら雨降らないかなって」



「子供か」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『これより、第六十三回体育祭を始めます』



抵抗も虚しく登校させられた私は、逃走を試みるも舞香に捕まり、予行練習に参加することになってしまいました。


基本的に競技は実際に行うことはなく省略されます。ただし、忌々しいことにクラス対抗の全員リレーだけは予行練習でも実施です。



「うぅ、嫌だよう……」



「……観念、する」



私の次の走者である舞香が後ろに並んでいるため、途中でしれっと抜け出すこともできそうにありません。


そうこうしている間にも着々と私の番が近づいてきます。いつの間にやら次の次です。



「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」



「……諦めが悪いにも、ほどが、ある」



雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨雨……。



ポツ



「っ!」



ポツ、ポツポツ、ポツポツポツポツ、ザーッ!



「……ホントに、降った」



「ヒャッホウ、雨大好き! 中止だオラァ!!!」



「……キャラ崩壊するほどに、嫌なのか」



信じるものは救われるってホントですね。無神論者ですが、今ならミサに参加してもいい気分です。



『降雨により、本日の予行練習はこれにて終了します』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


帰宅後、モンスタをする前に掃除機をかけます。1日に1度はかけないと落ち着かないんですよね。



「〜♪」



「うわ、分かってたけどお姉ちゃんの機嫌がいつになく良い」



当たり前でしょう。三大消滅推奨イベント「体育祭及びその予行」「球技大会」「校外学習におけるオリエンテーリング」の内の1つが無くなったんですから。



「今週末もこの調子でどんどん雨が降って欲しいものです。逆さ吊りてるてる坊主の追加が必要ですね」



「ティッシュが勿体ないよ!」



「何をおっしゃるうさぎさん。体育祭の中止以上に大切なことがあるわけでないでしょう?」



「……ウン、ソウダネ」



何ですかそのロボットみたいな返答は。


……まあいいでしょう、掃除機もかけ終わりましたしモンスタにログインするとしましょうか。


さーて、クトーニアンちゃんはどうなったかなー?




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