第62話



ログアウトした私は、とりあえず時計を確認します。現在時刻は午後7時。そろそろ十華も帰ってきますし、夕食の準備を始めるべきでしょう。



「〜♪」



適当な鼻唄を歌いながら浸けておいたお米を圧力鍋に入れ、火をつけます。

おかずは……豚肉とピーマンの炒め物にしましょう。


庭のピーマンが予想以上に育ちすぎたせいで、ここ最近はピーマン率が高いです。まあ、十華にはいい訓練になるでしょう。というかピーマン嫌いとか子供ですか。……いえ、奴の中身は間違いなく子供ですね。だからと言って仕方ないとはなりませんが。



「ただいまー!」



「はい、おかえり」



噂をすればなんとやら、炒め物が出来た頃に十華が帰宅しました。


最近の十華は帰宅時間がおそいです。なんでも体育祭の選抜リレーの選手に選ばれたとかで部活の練習もあるから大変だと言っていました。



「お腹減ったーっ!」



「はい、これおかずね。ご飯は蒸らし中だからちょっと待って」



「げぇ、ピーマン!」



「げぇ」とはなんですか、ピーマンに失礼でしょう。



「最近ピーマン多くない!?」



「だって沢山採れたんだもん」



「今年の庭の野菜を全部ピーマンにしたのお姉ちゃんじゃん、確信犯でしょ!」



「確信犯の使い方おかしいよ」



「話を逸らすなーっ!」



全く、騒がしい妹です。姉からの愛のムチが分からないんですか。



「まあまあ、連作障害があるから来年はピーマン育てられないから、ね?」



「来年は希望に満ち溢れている……!」



そこまで言いますか。


っと、重りも落ちましたしご飯もできたみたいですね。



「ほらほら、そんなことはいいからお皿運んで」



「はーい」



本日の夕食

・豚肉とピーマンの炒め物

・冷奴

・味噌汁

・ご飯

・ピーマン(生、丸ごと、十華のみ)



「待ってお姉ちゃんなんかおかしい」



「ん?」



「何これ?」



何を言ってるんでしょうか。どこからどう見てもピーマンでしょうに。



「ピーマ「そういうことじゃないからね?」……むぅ。あれだよ、千尋の谷的な?」



「いらない気遣い! 野菜室戻してくるからね!」



そう言って十華はキッチンへと歩いていきます。

ぐぬぬ、人の好意を要らないモノ扱いとは……許せん。明日のお弁当に入れてしんぜよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


夕食後、お風呂に入ってから宿題を済ませます。



「9時ちょっと前ですか……1度ログインしてみますかね」



就寝時間まで多少時間がありますし、チャンさんとの会話での疲れも取れたので少しだけログインすることにしましょう。

ちなみに十華は未だ宿題と格闘中です。


チェア型VRマシンに腰掛け、リクライニングを起動させてから電脳空間へと飛び込みます。



「っと、特に変わりはなさそうですね」



前回のセーブ場所であるソロンの宿屋の一室で目覚めた私は前々から気になっていたことを調べることにしました。


その気になっていたこととは「人造クトーニアンの繭」についてです。停滞キューブから取り出して確認してみると、入手してからかなり経つというのに羽化する様子どころか全く変化がありません。



「うーん、何か条件があるのでしょうか……ん?」




────────────────



人造クトーニアンの繭


佐比売党の技術と狂気の結晶。天然のクトーニアンには遠く及ばないものの、紛れも無いクトーニアンの繭である。3日ほどで羽化する。

け・はいいえ しゅど・める

け・はいいえ ふたぐん

残り71時間57分36秒(ゲーム内)



────────────────



これはつまり、あれですね。



「停滞キューブの中で羽化するわけないじゃないですか……」



まさかデフォルト設定が「時間停止」だったとは。

今日はもう繭を外に出してログアウトしてしまいしょう。明日には羽化しているはずです。




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