第30話




10倍のデスペナをくらってログアウトした私は、前回同様やることがなくなってしまいました。



「読む本もありませんし……」



……散歩がてら図書館に行きましょうか。流石に10時間もあれば行って帰ってこれるでしょう。たぶん。きっと。そう願っています。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


私、加賀美 舞香(かがみ まいか)は勉強を終え、図書館からの帰途に着いていた。夏休みの宿題も、明日には終えることができるだろう。

生徒会の副会長が書類整理をほぼ1人で、それも1日で終わらせてくれたため、随分と時間に余裕ができたのだ。上手くいけば明日の夜には封印していたゲームができるかもしれない。


と、そんなことを考えていた私の視界に人が倒れているのが映った。



「……まさか」



助けてくれそうな人は周囲にいない。仕方なく私は、路上に倒れ臥す人影に近づく。



「……やっぱり」



こういうのを噂をすれば影、というのだろうか。行き倒れは生徒会副会長、私の同級生の姉川百音だった。



「あ、舞香……ちょっと、助けて……」



百音は優秀な人間だ。それも、本当に同じ人間なのか疑わしくなるほどに。正直、人型ロボットだと言われた方がまだ信じられる。



「あれ、舞香……?」



「百音式並列思考術四十八番」なる頭のおかしい技術により、勉強を始めとしたほとんどのことを常人の数倍、数十倍の速さと効率でこなす。



「おーい……」



その上容姿までピカイチだ。神様がいるなら、不公平甚だしい人生ガチャに文句の1つも言ってやりたくなる。



「ちょ、私もう……」



ただ、百音は体力と筋力だけが絶望的なまでに欠如している。今回も「図書館に行こうとしたけど思ったより遠いし日差しも強くて行き倒れた」、とかそんなとこだろう。



「……きゅう」



「……あっ」



私は久し振りに、目を回した百音をかついで帰る羽目になった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「んっんぅ……」



電脳空間からのログアウトとはまた違った意識の浮上。

見慣れていないこともない天井が目に入ります。



「おはよう、舞香」



「……起きて、一言目が、それ?」



「む……今度からは気絶する前に助けてくれると嬉しいかな」



「……助けてもらったくせに、文句が多い」



この少女は加賀美舞香。

私の同級生であり、生徒会の仲間でもあります。ちなみに、舞香は会計、私は副会長です。

少々愛想の足りない子ですが、今回を含めて十数回は行き倒れの私を助けてくれているような、根は優しい子です。


ツンデレ乙!



「……イラッ」



「口でいうの?」



「……不快なこと、考えてる気がしたから」



あと、存外鋭い人です。


と、周囲を見回した私はすっかり見慣れたパッケージに目を止めます。



「あ、舞香もモンスタやってるんだ」



「……まだ、やってない。買っただけ。それよりも、「も」ってことは……?」



「うん、私もやってるよ」



舞香が信じられないものを見るような目をします。舞香はわたしの「AMO垢BAN事件」を知っていますからね。



「……まさか、百音がVRに戻ってくるなんて」



「意見メール送ったら対応してくれたの」



「……マジックラフト社、らしい」



ところで、何故舞香はモンスタをしないんでしょう。

直接聞いてみたところ、どうやら夏休みの宿題が終わってないからだそうです。



「まだ終わってないの?」



「……これでも、早い方。百音が、おかしいだけ」



……仕方ないなぁ。



「じゃあ、助けてくれたお礼にこの姉川百音が宿題を手伝ってあげよう」



「……それは、助かる。けど、いいの?」



「うん、どうせモンスタはデスペナでログインできないし」



「……ありがとう」













「はい、これで終わり」



「……やっぱり、百音はおかしい。どう考えても、今日中に終わる量じゃ、なかった」



「そう?そんなことより明日一緒モンスタやらない?これ私のフレンドコードね」



そう言って舞香にメモを渡します。



「……そんなことじゃ、ない。けど、わかった」



「何時くらいにする?」



「……朝の、9時」



「了解、じゃあログイン前に連絡するね」



「……ん」




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