第28話




突発的オフ会の翌日。


コロナはラピスに教えられた場所、腐敗した聖域跡地の中心から少し外れた地点へと来ていた。


準備をしておくとは言ったが、実際にできることはあまりない。

ラピス、ロンチーノ、そして結局参加することとなったトーカの重人3人組はレベリングに出掛けたが、コロナはショゴスであるためレベリングができないのだ。


ショゴスが敵Mobとして見つかったという報告は未だなく、コロナも初日にゴミ処理場地下で見たきりだ。


そこで、レベリングができないのであれば下見をしようと一足先にエイブラハムのリンカーネーションシナリオの発生ポイントに行ってみることにしたのだ。



「うわ、よくこんな入り口を見つけましたね」



ラピスが教えてくれたその地点は一見そこらにある瓦礫の山と大差ない。しかし瓦礫に混じる数百枚の金属板の一枚をめくると、そこには人間1人がギリギリ通れる程度の大きさの通路がポッカリと口を開けていた。



「まさか落し子の出現場所、出現周期を全部合わせてみると座標が分かるとは……そもそもメニュー画面に座標が表示されていることを知っているプレイヤーの方が少ないのでは?」



そう、このゲームはメニュー画面に座標が表示されているのだ。実際、コロナのいう通り気づいているプレイヤーは少ない。


コロナが通路を進むと段々と日光が届かなくなってくる。しかし、壁がうっすらと発光しているため前が見えないほどではない。



「このあたりはゲーム的配慮でしょうね。常昼の世界で光源を持っているプレイヤーは稀でしょう」



ちなみに、ショゴスは夜目が利くためコロナにとっては外と変わりなく見えている。


通路は少しづつ下っており、おそらく既に地下だろう。


やがてコロナは一際広い空間へと辿り着いた。

ホールのように半球状になったその空間の中心には、話に聞いていたエイブラハムの落し子が2体徘徊している。

落し子達は初めコロナに気づかずに徘徊を続けていたが、コロナに気づくと2体揃って襲いかかってきた。



「たしかこの2体を倒せばいいんでしたか……」



一体目の腕がしゃがんだコロナの頭のすぐ上を通り抜け、後ろの壁へと激突する。瓦礫と腐肉の奔流をチラ見したコロナは顔をしかめると、意を決してその腕に関節技をかける。



「動画サイト直伝! 『サブミッション・トレース』!」



グチャバギィ、と。

生の骨つき肉にハンマーを叩きつけたような音を立てて落し子1の右腕がもげる。



「うへぇ、気持ち悪いです。……危なっ!」



ゲームの仕様上、身体に腐肉がこびりつくといったことはないが、折った感触は残る。その不快感にコロナが一層顔をしかめていると、落し子1の胸を突き破って落し子2の腕がコロナに襲いかかってきた。



「これは……もしかしていくら破壊しても意味がないパターンでは?」



もいだ腕が引っ付き、胸の穴が塞がりつつある落し子1を見てコロナはそう呟いた。













しばらく戦って何度か攻撃を食らわしてみましたが、どうやら物理攻撃は再生されると見て間違いなさそうです。


そうなると魔法攻撃で攻めるのが一般的なのでしょうが……生憎私はショゴス。魔法習得数はこれまでもこれからも、未来永劫0です。



「何だかんだショゴスは使えても苦労が絶えないあたり、いいバランス調整ですよ本当に……!」



落し子1の薙ぎ払いを上体をそらして避け、そこを狙った落し子2の足払いをバク転で避けてつつサマーソルトを喰らわせます。



「ノックバックや怯みは入るみたいですが……やはり魔術を使うしかないのでしょうね」



ということで私の唯一の攻撃魔術手足の萎縮の詠唱を8つ開始します。

その途端、それが彼らに危害を与えるうるものだと分かったのか落し子の攻撃が苛烈になりました。もっとも、その分単調な攻撃になったため対処は先程より容易いです。



「フェイントの1つも入れない攻撃なんて、目を瞑ってても避けられますよ、っと!」



まぁ、格ゲーをやっていればこの程度は簡単でしょう。

あ、詠唱おわりましたね。



「「「「「「「「《手足の萎縮》」」」」」」」」



グチャグチョグヂグチグチバキベキグチィ…



「うわぁ……」



自分でやっておいてなんですが、「うわぁ」としか言えません。


おや?



『状態異常:一時的狂気になりました』



「自分でやっておいっ……う、あぁ。」



これは…失語症でしょうか?何を話そうとしても呻き声しか出ません。

取り敢えず落し子達は倒したのでこのまま時間経過で解けるのを待ちましょう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


さて、狂気の症状も解けましたし先に進むとしましょう。

入ってきた側とは別の通路を進みます。


しばらくすると、先程と同じような半球状の空間に出ました。

その中心には液体で満たされたガラス製と思われる筒のようなものが。



「この少女は……?」



液体の中には10歳程度の少女がいます。なんだかマッドサイエンティストの研究施設のようです。


そうしてガラス筒を見ていると私に背後から声が掛けられました。



「マタ……キズ、キズズズ、ツケ、ニ、キタノ……カ、キキキゾクド、モ、メ」





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