第24話




さて、誓約も恙無く終了しましたし、この後はどうしましょうか?

時間もあまりありませんし……そうですね、街を見て回ることにしましょう。

なんだかんだ宿と魔法書店を利用したくらいで、あまりよく知りませんからね。


ということで再びソロンに引き返します。

そう言えば第2の街「デュオクレ」に初の到達者が出たそうです。そろそろ攻略を進めるのもいいかもしれませんね。


ソロンはそこそこの大きさの街で、円形をしています。街は5つの区域に大別され、聖域跡地に隣接した農業区、そこから時計回りに住宅街、ゴミ処理場、住宅街が広がり街の中心部が商工業区です。


農業区は畑が広がり、オレンジ色の大根やトマト型のキュウリなど現実の野菜・果物のキメラが栽培されています。

最初は違和感に戸惑いましたが、慣れれば案外美味しいです。……まぁ、熊の手のなるバナナや人間の足の生えたパイナップルなどは御免ですが。

そう言えば、前にトーカがリンゴ味のピーマンを「これならいける!」と言って頬張ってました。現実でもそうあって欲しいものです。


住宅街はNPC達が住んでおり、ちらほらと食事処も見られます。それから、何故か宿が異様に多いです。


ゴミ処理場はご存知私の初期スポーン地点です。危険であるという理由で立入禁止となっています。

というか、明らかに広すぎでは……?


最後に商工業区である中心街、今回私が散策する場所です。魔法書店しか行ったことがないので楽しみですね。












はい、中心街に辿り着きました。刺青はそこまで珍しくもないのか、黄の印はあまり注目されません。まぁ、キャラメイク時に設定できますしね。


前回は夜に来たのですが、昼のソロンは凄い活気です。ウルタール以上ですね。さて、まずは露店を見て回るとします。


こうして見てみるとプレイヤーの露店も、ちらほらと見られますね。

あ、魚の塩焼きがあります。あれは……鮎とテナガエビのキメラでしょうか、でしょうか?気になるので1つ購入することにします。


ところで、なんなんでしょうこのゲームの怒涛のキメラ推しは。謎です。


そんな疑問は一旦置いておき、深きものの混血種の店主に声を掛けます。



「店主さん、1つ下さいな」



「へい毎度! っててけりちゃん!?」



「あ、知ってましたか。そう呼ばれることもあります、コロナです。種族はショゴスです」



「あ、あぁ。俺はあああああ、見ての通り深きものの混血種だ。呼びにくいだろうしゴアって呼んでくれ。ってか、イベント1位様を知らない奴なんていなくないか?」



そう言われればそうかも知れません。私も有名になったものです。

というか……



「あなたもイベント8位の有名人でしょうに。お互い様ですよ」



「なんだ知ってたのか。正直1位様は俺のことなんてアウト・オブ・眼中だと思ってたんだが……」



何ですかその奇っ怪な単語は。まぁ、確かに名前しか知りませんでしたが。



「そんな嫌な人に見えます?」



「いいや? ……と言いたいところだが、正直なところ表情が無さすぎて全く分からん」



表情に関しては放っておいて下さい。感動モノの漫画とギャグ漫画を同時に読んでいる時などに感情を顔に出すと表情筋が攣るんです。



「おっと、そうだ塩焼きを買うんだったな。50トゥルだ」



へぇ、結構やすいんですね。

早速トゥルを実体化して……

あれ?所持トゥルが0になってるんですが……



「あ」



「ん? どうした」



「デスペナでお金が無いんでした……」



「おいおい、いくらデスペナ食らったって50トゥルくらいはあるだろ」



「あー、私、装備品の効果でデスペナが10倍なんですよ」



「はぁ!? 10倍!? 所持金全ロストじゃねぇか……」



そりゃ驚きますよね。ギャグみたいなデメリットですもん。



「……いや、それだけのデメリットを背負ってでも装備する価値があるものってことの方が問題か」


「えぇ、リアル1日毎に任意のステータスが3上昇します」



「予想以上にとんでもねぇな、おい……って、言って良かったのか?」



「別に構いませんよ? 知られてどうなるわけでもありませんし、真似できるとも思えません」



普通の人なら毎日キャラロストのリスクを負う誓約なんてしないでしょう。



「正確には装備じゃなくて、顔にある紋様の効果なんですけどね?」



そう言ってゴアさんに黄の印を指し示します。



「あぁ、それがそうだったのか。イベントの時はなかったからおかっ……!?」



「ゴアさんっ!?」



黄の印を注視した途端、ゴアさんが失神してしまいました。今までは大丈夫だったのですが……注視するとダメなのでしょうか?いえ、今はそれどころじゃありませんね。



「確かこっちに……」



左手で黄の印を隠しつつ、ゴアさんを持ち上げて私はある場所へと向かいました。










「ここですね」



私が向かったのは中心街のそのまた中心に建つ教会に附属した建物。状態異常:狂気を解除してくれる癲狂院(メゾン・ド・サンテ)です。

教会が慈善活動の一環として無償で運営しています。


中に入るとすぐに1人の男性が近づいてきました。



「ようこそ聖アグネス教会へ。私はこの教会の神父、アンブロシウスです。本日はどうされました?」



「ゴアさん……この男性が狂気を患って失神してしまったので診断してもらいに来ました。それから……何か顔を隠せるものがあればいただけませんか?」



「男性の方は分かりましたが……顔を隠す、ですか?」



アンブロシウスさんが他の人にゴアさんを任せつつ、訝しげに聞いてきます。思いっきり不審がられていますね。



「実は、彼が発狂したのは私が原因なんです」



ここは素直に本当のことを言います。私は正直者ですからね。



「どういうことです?」



アンブロシウスさんの顔に露骨にシワが増えます。待って下さい、まだ話は終わっていません。



「私が今隠している左頬なんですが、呪いを受けておりまして……。どうも、ここにある紋様を見たものに狂気を患わせる類のもののようなんです」



「なんと! し、少々お待ちください!」



そう言ってアンブロシウスさんは奥へと戻ります。


……まぁ、自分でやったんですけどね。うまく騙されてくれて何よりです。


え? 正直者なんじゃないのかって? 嘘も方便ってやつです。それに、完全に嘘ってわけでもありません。実際呪いみたいなもんですし、誰かにかけられたと言ってはいないですからね。


そんなことを考えて自己正当化をしているとアンブロシウスさんが戻って来ました。手には何やら白いものを持っています。



「これをお着けください」



「これは?」



「白無垢の仮面、と呼ばれるものです」










何ですとっ!?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る