第23話
爪上さん襲来の翌日。
普段通り6時に起きた私は十華を起こして朝食を摂り、早速モンスタにログインします。
ちなみに十華は今日も部活です。お弁当を作ってあげたので帰りは夕方でしょう。
さて、今日は大量に手に入れた魔導書の処理をしていこうと思います。とは言え読むのは1冊、多くても2冊です。あまり調子に乗っていると永久的狂気になりかねません。
規約の276条にキャラロストの可能性についての一文がありましたが、おそらく永久的狂気が絡んでくるのでしょう。
滞りなくログインを終えた私はイベント前に泊まっていた宿のベットにポップします。
「さてさて、どれを読みましょうか?」
まず『ネクロノミコン』『エイボンの書』『無名祭祀書』は無しです。長すぎる上に危険すぎます。
そもそも『エイボンの書』にいたってはハイパーボリア語なので読めません。『ネクロノミコン』『無名祭祀書』はそれぞれアラビア語、ドイツ語なので読めるのですが……。
あ、『カルナマゴスの遺言』も却下ですね。数行目を通しただけで肉体と部屋が風化する本を読むとか洒落になりません。
ん? ショゴスならそこのあたり無問題? ……取り敢えずは保留ですね。
「そもそもあまり長いものを読む時間はないですし……うん、1番短いこれにしておきましょう」
私は停滞キューブから黒い八つ折の紙……『黄衣の王の勅書』取り出します。
さぁ読もうと表紙に目をやるとそこには奇妙な紋様が浮かんでおり……
『状態異常:一時的狂気になりました』
瞬間、周囲の壁から次々と虫が這い出てきます。非常に気持ち悪いのですが、這う音が一切しません。おそらく狂気の症状:幻視でしょう。
あ、這い上がってきても感覚がないので幻視で確定っぽいです。無視して読書をするとしましょう。
途中、昼食を食べにログアウトしましたがゲーム内でおよそ4日かけて『黄衣の王の勅書』の研究・理解が終わりました。
内容は主に演劇『黄衣の王』と旧支配者「名状し難きもの/黄衣の王・ハスター」について。
『黄衣の王』は意味の曖昧な夢のような芝居で、読む人間を狂気に誘い込まんとするような印象を受けました。
どうやら、この演劇を牡牛座のアルデバラン星が出ている晴れた夜に演じることで《ハスターの招来》が発動するようです。
次に「ハスター」について。旧支配者の1柱たるハスターは「黄衣の王」や「名状し難きもの」とも呼ばれ、アルデバラン星の近くに住んでいるようです。
ただ、名状し難きものの呼び名通り本の説明も分かりづらく、この本の表紙にあった紋様「黄の印」や怪物「ビヤーキー」と深い関係があることしか分かりませんでした。
それから、呪文も2つ載っていました。
────────────────
《ハスターの招来/退散》
詠唱の後、ハスターを招来又は退散させる。招来には膨大な魔力が必要である。退散はハスターとのPOW差によって成功確率が変動する。
《名状し難き誓約》
ハスターに将来的に自身を差し出す誓いを立てることで恩恵を受け取る。この魔術を使った者は一定期間ごとに判定がおこなわれ、2%の確率でハスターに肉体を奪われる。
魔術の行使には事前に準備が必要である。まず、9つのものをV字に並べ、その中心に血液で黄の印を描く。その後、その前に立って呪文を唱える必要がある。
この魔術の使用後、一定の確率で発狂することがある。
────────────────
……これ、ヌトセ=カームブレのアミュレットで誓約のデメリットを打ち消せるのでは?
「……やってみる価値はありますね」
そうと決まれば早速行動です。万が一があってはいけないので、1度聖域跡地に移ることにします。
さて、やってきました腐敗した聖域跡地。
まずは瓦礫を集めて山を作り、それを9つV字に並べました。
さらにイベントポイントの余りで手に入れた動物の血液(SIZ:5)で中心に黄の印を描き、周囲に他のプレイヤーがいないことを確認して詠唱を開始します。
「いあ いあ はすたぁ はすたぁ あるでばらん ふぉるてぃおす うがぁ はり ふぉるてぃおす あい あい はすたぁ」
詠唱を終えると同時、黄の印がひかりだしました。しばらくするとその光が浮き上がり、私の方へ近づいてくると顔に張り付いて発光が収まります。
「……乙女の顔になんてことを」
顔に紋様が入ったことに若干の落ち込みつつステータスを確認すると「特殊状態:名状し難き誓約」の表記が加わっていました。
────────────────
特殊状態:名状し難き誓約
・効果:10日毎に任意のステータスが+3される
・効果:10日毎に判定がおこなわれ、確率でハスターの完全な眷族になる(無効化中)
────────────────
あ、やっぱり弾けていますね。デスペナ10倍でもこれなら十分すぎる効果でしょう。
見直したぞ、ヌトセ=カームブレのアミュレット君!!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
……この日、コロナは1柱の旧支配者の怒りを買った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます