Iridescent Nightmare3




「お久しぶりです、プレーンさん。10日ぶりですね」



「〈武道(立ち技)〉〈日本刀〉〈居合い〉〈飛斬〉【魔法剣】!」



「ぐべぇっ!?」



ちょ!? 返答すらなくいきなり首を斬られたんですが!?

しかもちゃんと【魔法剣】を使ってるので結構なダメージを受けました。

アリエルの夜宴礼装は……《刀身に魔力を付与する》ですか、要りませんね。


斬り落とされた首のことは一旦置いておき、臨時の目と口を胸元に形成します。



「プレーンさん、生き急ぎすぎでは?」



「ゲェッ!? 首斬られても生きてんのかよ!」



「不定形生物である以上、首と言うより頭の形したコブですからね」



ショゴスの人化は正確には人型に変形しているだけなので、人間なのは見た目だけです。中には玉蟲色の肉体がつまっています。血管も内臓もありません。必要ならば適宜形成します。

この10日間、リアルではひたすら人体構造についての本を読んだ甲斐がありました。


おや、何か集まってきました。黒くて人型で有翼の……あぁ、ナイトゴーントですか。夜鬼とも呼ばれますね。



「ちっ、コイツらが集まってくる前に速攻で不意打ち決めて終わらせるつもりだったってのに……」



ナイトゴーントは隙あらばこちらを捕まえようとしてきます。私はSTR差が大きいので問題ありませんが、プレーンさんは結構大変そうです。



「捕まったらナスの谷に捨てられて、ドールの餌にされるんでしたっけ?」



「あぁそうだな……隙ありィッ!」



「残念、私に同じ手は効きません」



上体をそらして〈飛斬〉を回避、勢いそのままに両手を地面について後方に向け腕力だけで跳躍し、距離を取りつつ頭を回収します。



「え、何それ運動もできんの? てけりちゃんが化け物すぎるんだが……」



「ショゴスなんですから化け物ですよ?」



「いやそうじゃねぇよ」



失礼なことを言うプレーンさんに反論しつつ頭をくっ付けます。



グチャァ……



「うわキモっ……」



「花も恥じらう乙女になんてこと言うんですか。どうなっても知りませんよ?」



「いやソレは流石に……てかどうなるんだ?」



「こうなります」



人化を解除して一度ショゴス形態になり、玉座をイメージして変形します。

さらに、玉座の下から古のものを模した足を生やして玉座を持ち上げます。

最後に人間形態の私を玉座上に形成して機動要塞「Shuffler」完成です。



「ネタじゃねぇか!」



「何をおっしゃるプレーンさん、実は利点が多いんですよ?」



まず、真の姿のままでアリエルの夜宴礼装を装備できます。

次に、これは私の認識の問題なのか、古のものと玉座は個別のHPを持っており破壊されても私自身のHPは減りません。私の中では人間形態の部分が本体なのでしょう。

さらにロールプレイ的に良い感じです。



「前2つは強いけど、最後の1つはやっぱりネタだろ」



「何言ってるんですか。モチベーションのためにも大事ですよ、これは」



ちなみに玉座と古のもののHPはリアルで1日経たないと回復しない上、ゲーム内で24時間に1回しか使えません。

まぁ、プレーンさんには教えませんが。



「征けShuffler、敵を薙ぎ払え!」



「てけりちゃんキャラ変わってない!?」



プレーンさんが何か言ってますが努めて無視しつつ、古のものの触手で攻撃します。


1本目、上から叩きつけるように振るった触手を〈受け流し〉でそらされます。


2本目、転倒を狙って右足へと伸ばした触手は跳躍で躱され、代わりにナイトゴーントが犠牲になりました。


3本目、空中で無防備なプレーンさんに刺突をしますが〈回避〉で身をよじって避けられます。


4本目、着地刈りを狙った触手でしたが〈武道(立ち技)〉〈こぶし〉〈パリィ〉で弾かれ、反動を利用して距離を取られました。


……どの口で人のことを化け物なんて言ってたんでしょうか。



「はっ、厚化粧を舐めるなよ! 回避スキルは潤沢なんだ!」



「……すごいですね、まさか全部避けられるとは」



「それよりもてけりちゃん、いつからレイドボスに転職したんだ? 1on1で勝てる気がしないぞこれは……」



「私の職業はメイドですよ? 見てください」



先程捕まえたナイトゴーントに、メイドの職業補正を利用してアリエルの夜宴礼装を着せて見せます。



「いや、確かに主人の着替えを手伝ってるっぽくはあるが……」



「止めなくて良いんですか? もうすぐ私の勝ちですよ?」



「は?」



さて、インベントリから取り出したりますは簡易魔法書【トランシェント・ルーラー】(110000トゥル)と【エンチャント】(10000トゥル)。

まず、ナイトゴーントの片翼を腕力に任せて毟ってアイテム化します。

次にそれを消費して簡易魔法書【トランシェント・ルーラー】に【エンチャント】を使い、ナイトゴーント特効を付与します。



「……! それでナイトゴーントを使役するつもりか? 1匹加わったくらいじゃどうにもならないぞ?」



「半分正解ですね。それじゃあナイトゴーントをドレスアップした意味がないでしょう」



そう言って私は「【トランシェント・ルーラー】付与:ナイトゴーント特効」を片翼になったナイトゴーント君に使い、ドレスを返してもらいます。

使用可能魔術は……《ナイトゴーントの召喚/従属》。よし、予想通りです。


口を増やして詠唱を開始します。どうも同時になら複数回使えるみたいなんですよね。おそらくナーフされるでしょう。



「え、そのドレスってそんな効果だったのか!?」



「いや、こちらこそ能力の確認すらせずくれたという事実に驚きなんですが……」



「取り出したことすらなかったんだ、確認してるわけないだろ」



「そこでドヤ顔されましても……」



あ、詠唱終わりましたね。



「「「「「「「「「《ナイトゴーントの従属》」」」」」」」」」



「うっわ、これは詰んだか……?」



「戦いは数だよ、兄貴」



「やっぱキャラ変わってないか? うおっ、ぐっ、こなくそっ!」









流石に触手+ナイトゴーント9体は厳しかったのか、プレーンさんがドナドナされていきます。手を振っておきましょう。



「うひゃひゃひゃひゃ!」



「プレーンさん、ご機嫌よう」



「うひっ、せ、せめてキルしてっ! ってくれ! うひゃひゃ、くすぐりはにがっ、てなんだうひゃひゃ!」



……思ってたより面白いですね。スクショしておきましょう。



「鬼かっ!?」



失礼な。



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