Iridescent Nightmare2
=side十華=
姉川十華、PL名「トーカ」は奇しくも姉と同様にあやかしの森スタートであった。この10日間、姉と合流しようと試みること23回。その度に「イベントまで手の内は見せない」と言って逃げられてきた彼女は姉への恨みをつのらせていた。
「お姉ちゃんめぇ、妹の恨みを思い知らせてやるぜぇ……。けど、こんなに広いフィールドじゃ簡単にはみつからないし……うーん、よし! 取り敢えず走ろう!」
脳筋というか体育会系というか。兎に角そんなノリで結論を出したトーカだったが、視界に現れたソレに足を止める。
「へ? なんでダイヤ? ていうか浮いてる?」
ダイヤモンドはトーカの問いには答えず森の奥へと進んで行ったかと思うと、トーカを待つように空中で静止する。
その様はあからさまに不審であり、よほど単純でもない限り警戒するだろうが。
「……! 待てー!」
悲しいかな、トーカは単純であった。
ダイヤモンドはトーカにギリギリ追いつかれない距離を保ちつつ、奥へ奥へと進む。
「ぐぬぬ、それなら!」
トーカはインベントリからサイコロを取り出し、それをダイヤモンドの側へと投げつけた。次の瞬間、トーカの姿が搔き消えサイコロの元に現れる。
トーカの種族「ティンダロスの混血子」は事前に設定した直角の元へとノータイムで転移する能力がある。
設定可能な直角は2つまでで距離による制限はないが、燃費が非常に悪く慣れないと転移酔いすることも多い。
だが、トーカの三半規管は強靭であった。
「よっし、捕まえ……あれ?」
「トーカ、周りを見なさいっていつもいってるよね?」
「え、お姉ちゃん!?」
トーカが手を伸ばした瞬間ダイヤモンドは消え、代わりに背後からコロナが現れる。突然の出来事に一瞬身体を硬直させたトーカは、振り下ろされる玉蟲色の巨塊への反応が遅れた。
ズシャァァァアアッ!!!!
「……妹の反射神経が高すぎて怖い」
「これでも結構危なかったんだからね!? おかげでMPも切れそうだし!」
「お、それは良いことを聞いた」
「あっ!?」
トーカは叩き潰される寸前、サイコロを蹴り飛ばして即座に転移する事で回避に成功した。しかし転移の連続使用でMPは残り2割を切っている。しかもそのことを姉の巧みな話術で聞き出されてしまったのだ(断言)。
「んー、MP差あるならいけますかね?」
コロナの右腕に現れた2つの口がそれぞれ詠唱を開始する。
「させるかっ! くらえ、怒りの妹キーック!!」
「リアルならともかく、こっちで食らうわけないでしょっ!」
「ぬわっ、お姉ちゃんが力まで強くなったら私に勝てる要素ないじゃん!」
全身のバネを使い地面からコロナの顎目掛けてほぼ垂直に放たれた「怒りの妹キック」だったが、ここは電脳空間。現実の百音ならばありえない筋力でもってコロナはそれを受け止め…詠唱が完成する。
「「《手足の萎縮》対象:右足」対象:左足」
メリメリと音を立てて、トーカの両足が潰れていく。トーカは立っていることが出来ず、その場に崩れ落ちた。
「うわぁ、足が潰れた! これが実の妹にする仕打ちかぁ〜!」
「え、躊躇なく顎を蹴り抜きにきたトーカがそれ言う? ……というか、両足が潰れたのに一時的狂気すら発症しないとは」
「?」
「あぁ、リアルINTが低いのか」
「あっ、今馬鹿にした! 今絶対馬鹿にした!」
「うるさいよ、おバカさん」
「ぐわぁぁあ、ヤラレター!」
トドメを刺したコロナは、最後まで気の抜ける妹を残念に思いつつ、次の獲物に備えて身を潜めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コロナの着ているイブニングドレスは以下のようなものだ。
────────────────
アリエルの夜宴礼装
・VIT0
・直前に受けた魔法に対応した魔術が使用可能になる
現在使用可能:なし
・一度使用するとリセットされる
────────────────
「【ヘイトコール】エンチャント:人類種特効」の簡易魔法書(20000トゥル)を自身に使用して一度のみ使用可能となった魔術、《人間を引き寄せる》。周囲の人間をその者が興味を持って追いかけそうなものでおびき寄せる魔術だ。
トーカはコロナの使用したこの魔術によっておびき出されたのである。
コロナはイベント前の10日間の、内半分を金策に費やしてこの他に3冊の簡易魔法書を用意している。
「これでイベント報酬がしょっぱかったら運営に賠償して貰いましょう」
コロナの獲得ポイントは、すでに10000に達していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コロナにキルされたトーカは、ウルタールにリスポーンした。ウルタールでは既に脱落したプレイヤーが1000人程集まり、特設モニターでイベントの観戦をしている。
「レアエネミーっぽいのを追いかけてたらてけりちゃんにキルされた……」
「協力予定だったフレンドが何故か逃げるから追いかけてたらてけりちゃんにキルされた……」
「幼女追いかけてたらてけりちゃんにキルされた……」
「「それはお前が悪い」」
「何故だっ!?」
「お、そんなことよりモニター見ろよ。てけりちゃん映ってるぞ? あやかしの森から移動するみたいだ」
トーカがモニターに目を向けると、そこには道中で次々とキルを重ねながらングラネク山へと走る姉の姿が。
「うわぁ、 お姉ちゃんが唯一の弱点を克服して手がつけられなくなってる……」
「ん? お前てけりちゃんの妹なのか!?」
「うわっ、びっくりした。てけりちゃん……? あぁ、えっとはい、多分そうです。あそこのモニターの人ですよね?」
前に立っていた食屍鬼の男に尋ねられたトーカは、姉に対する謎の呼び名に首を傾けつつ返答する。
「マジか……お前のねーちゃん、ヤベェな。というか、リアルのことを不躾に聞いてすまん」
「あ、大丈夫です。えぇ、本当にヤバイですよ。リアルだと筋力と体力がミジンコ以下なんですけど、運動神経は悪くないんです」
「いや、あれは悪くないとかそういう次元じゃ……」
「?」
「ウソだろ、まさか姉妹揃って化け物だってのか……?」
男が1人で姉川姉妹の恐ろしさに震撼していると、モニターに動きがあったのか100人程増えた観衆が沸く。
登山中の「てけりちゃん」コロナと下山中の「厚化粧のすっぴん」プレーンが邂逅したのだ。
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