Iridescent Nightmare1



やってまいりました、イベント当日の8月12日の日曜日です。


3日前にイベント内容の告知があったのですが、やはり戦闘イベントでした。イベント名は「夢国からの誘い」、夢の国(ドリームランド)に用意されたフィールドでのバトルロワイヤルです。

ルールは単純にイベント終了までに何人をキル出来るかを競います。イベントはリアルで4.8時間、つまりゲーム内で2日間ですが、デスした時点で脱落です。


ちなみに主催者は「ヌトセ=カームブレ」、クトゥルフ神話において旧神の中でも武闘派の神です。外なる神(アウターゴット)への対抗戦力になりそうな者を見つけることが目的の大会だと言っていました。



『イベント開始5分前です。参加希望者はゲーム内で睡眠をとってください』



どうやら時間のようです。では、おやすみなさい。


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=あやかしの森=


再び意識が浮上したとき、コロナは森にいた。それもただの森ではない。曲がりくねった樫の樹々と燐光を放つ菌類で構成されている、幻想的な雰囲気の中に何処か禍々しさを孕んだ森だ。



「おぉ、なかなか綺麗ですね。VRならではって感じです。既にいくつか視線を感じますが……まぁ今はいいでしょう」



現実ではあり得ない神秘的な光景を眺めていたコロナだったが、ややあって適当な方へと歩き出す。




夢の国に、玉蟲色の悪夢が放たれた。




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=ングラネク山=


同時刻、プレーンもまた別の場所でイベントを開始していた。



「ふぅ、ここは……山か。お、第1プレイヤーはっけーん」



プレーンは〈ロッククライム〉〈登山〉〈加速〉〈登攀〉〈跳躍〉〈日本刀〉〈武道(立ち技)〉〈居合い〉のスキルを起動し、最初の犠牲者に斬りかかる。



「げぇっ、厚化粧!?」



「悪いな、大人しく死んでくれ!」



「ぐべらっ!!」



自身より20mほど山頂に近かったプレイヤーに、パルクールもかくやといった動きで肉薄したプレーンは、一刀のもとにそのプレイヤーを斬り捨てる。


「さて、行くか」


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=レン高原=


高原ではひっきりなしに爆音が響いていた。

それをなしているのはたった1人のローブを纏ったイゴーロナクの混血児。顔と両手に付いた合計3つの口は、ひたすら【エクスプロード】の詠唱をしている。



「ぐっ、どんだけMPあんだよ! 【エクスプロード】連射とか正気か!?」



「ふっふっふ、ほーれ次は左じゃぞ? 避けてみなされ」



「その喋り方……てめぇまさか導師か!?」



「そう呼ばれることもあるのう。……ところで余所見なんぞする余裕はあるのかの?」



「しまっ、ぐわぁぁぁあ!」



ブラックサバス、二つ名「導師」は並列思考の使い手である。流石にどこかのショゴス少女ほどではないが、それでも3つの口で詠唱しつつ近接戦をこなす程度のことはできるのだ。


イベント後、彼の二つ名は改訂され「魔」を冠することとなる。


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3人の他にも何人かのトッププレイヤーが行動を開始した。が、何も動き出したのはプレイヤーだけではない。


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=あやかしの森=


「おかしいな、こっちから物音がしたと思ったんだが」



魔法の森の一画で食屍鬼の男性が1人、他プレイヤーを探し歩いていた。

彼は樫の枝葉が揺れる音を追いかけてここまできたのだが、突然音が止んでしまったのだ。



ガサッ



「っ! そこかっ!」



彼は音に反応して即座に剣を振るう。しかし、回避されたのか彼の剣は樫の樹に食い込んでいた。



「チッ、ついてねぇな……」



彼はボヤきながら剣を引き抜こうと柄を両手で握る。次の瞬間、周囲から現れた小さな影が次々と彼に飛びかかった。



「な、なんだこいつら!? ネズミ!?」



彼の言うように影達は小柄で茶色く、

ネズミに似ていた。ただ、彼らの鼻の下には小さな触手が生えている。



「ぐっ、クソッ! 離れやがれ!」



男は腕を振り回して彼ら……ズーグ達を振り落そうとするが、3匹振り落とす間に5匹がとびかかってくる。



男とズーグ達の戦いはしばらく続いていたが、やがて男の声は止み、そこにはいくらかのアイテムと巣穴へと戻るズーグの鳴き声だけが残った。



「ヂヂヂヂュヂュァァアア……」



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=ングラネク山・上空=



ングラネク山の上空では奇妙な光景が繰り広げられていた。



「アヒャッ、は、はなっ、あひゃひゃひゃ!く、くそ!はなせよっ!」



大柄な巨人の男が翼を持った2匹の黒い生物に空を運ばれながらくすぐられているのだ。



「や、やめっ……っ! ……!?」



男はくすぐりに抵抗するあまり、自分がどこに運ばれているのかに気づかなかった。

2匹の黒い生物ーかっ!ナイトゴーントが男を谷底へと投げ捨てる。谷底では巨大なミミズのような生物がのたうち、獲物を歓迎していた。



「ひいっ! い、いやだあああぁぁぁ……」



遠のいていく嘆きの声は、ナイトゴーントの存在するかも分からない心に響くことはない。彼らにとっては、これが日常なのだ。


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=レン高原=


「あら? このイベントってモンスターも普通に湧くのね」



1人のドライアドの女が、レン高原で灰色がかったヒキガエルのようなブヨブヨの怪物と対峙していた。顔にはピンク色の短い触手が大量に蠢いており、嫌悪感を煽る。



「気持ち悪いわね……。無手みたいだし、悪いけど遠距離から倒させてもらうわ」



女は弓に矢をつがえようと背中の矢筒に右手を伸ばすが、左肩に衝撃を感じてそちらに目をやる。そこには巨大な槍が突き刺さっていた。

驚愕に目を見開き、続いて怪物を見やると丁度虚空から槍を取り出すところだった。



「嘘!? モンスターがインベントリを……ぐぺっ!?」



頭を貫かれた女の身体が崩れ落ち、光となって消える。


怪物……ムーンビーストは何故かその様子を残念そうに見つめていた。



「ガダルダルダ、グラ、ガダラルダガルガ」


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