Iridescent Nightmare4



プレーンを無事に出荷したコロナはしばらく狩りを続けた後、北へ北へと歩いていた。


日は既に傾き、常昼のモンスタにしては珍しい夕陽を見せている。



「どうやらドリームランドには昼夜があるみたいですね」



「くたばれオラァ!」



「はい残念でした、くたばれオラァです」



「ギャー!」



背後からの襲撃者をカウンター気味にキルしつつ、コロナは随分と久しぶりに感じる夕陽を眺めた。



「リアルじゃ日没時は夕食中ですからね。綺麗です」



これなら偶には夕陽を見にいくのもいいかもしれない、と妙な感慨を抱いていると、目的地が見えてきたので足を止める。

ングラネク山の北、いくつかの丘の上に造られた封建時代風の都市、ウルタールだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


【コロナ視点】



「へぇ、ここがウルタールですか。……猫でいっぱいですね」



視界を埋め尽くす猫、猫、猫。道にも屋根にも家の中にも、ありとあらゆる場所に猫がいます。

ウルタールは非常に猫を大切にする街です。なんと、「何人たりとも猫を殺してはならない」と法律に明記されているほどに。


猫をかき分けつつ、通りを進んでいきます。道の両脇の人家は上階部分がせり出しているため、見た目ほど通りは広くありません。


道端では住民の方が猫に餌をやったり、世間話をしています。住民のほとんどが商人か農民か猫であり、何処と無くのんびりしているためか眠くなってきました。



「もう日没ですし……ここらで宿をとるとしましょうか」



睡眠不足はお肌に悪いですし、そもそも《人間を引き寄せる》と《ナイトゴーントの従属》のせいでMPがありませんしね。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


夜中、宿のベットで寝ていた私は天井からの物音に目を覚ましました。猫……でしょうか?静かにしてもらえないか頼んでみましょう。この街の猫は賢いですからね、言えば聞いてくれるかもしれません。


猫たちに声を掛けようと宿の外に出た私でしたが、予想外の光景に思わず声をあげます。



「おおおぉぉ……」



そこには夢のような(夢ですが)光景が広がっていました。


屋根の上にいた猫が青白い光に包まれたかと思うと空に向かって跳躍し、そのまま月に向かって飛んでいきます。

そんなことが街の至る所で起こっており、まるで反転した流星群のようです。


それだけではありません。

空からもこぶし大のボンヤリとした光が、雪のように降ってきました。

地面に降りたソレを手にとって確認します。ん? 若干MPが減りましたね。

光の正体は『ランプイモリ』といい、夜の間だけ降りてくることがある発光性のイモリのようです。


────────────────


ランプイモリ

・暗いところで魔力を消費して発光するドリームランドの生物

・名前通りランプとして利用可能

・モンスターだが、アイテムに分類される

・1日に1度、餌として魔力を与えないと空に帰るか飢えて点滅し始め、やがて死亡する


────────────────


ウルタールからは空に向かって流星が遡り、空からはウルタールに向かって光の雪が降る。

妖しくも幻想的な光景に、眠気も忘れしばし魅入ってしまいました。





10分ほどでウルタールの猫は全て月へと跳び終え、ランプイモリも空へ帰り始めます。


あ、君は帰っちゃダメですよランプイモリくん。働かざるもの食うべからず、です。きっちりランプとして働いてもらいます。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


おはようございます。イベント2日目、最終日です。

まずは悲しいお知らせがあります。


残りMP:21。


お金も200トゥルしかないので、無い無い尽くしの無い尽くしです。



「ショゴスはMPが自動回復しないなんて聞いてないんですが……」



確認してみたところ〈ショゴス〉の効果にしれっと加わっていました。どうやら、認識するまで表示されない隠し効果というものが存在するようです。



「運営ェ……」



本当にっ! 本当にマジックラフト社というやつは! どうしていつもこうなんですか!? 不定の狂気のことといい本当に君は!




……ふぅ、落ち着きました。嘆いても何も変わりません。とりあえず、このイベント中に魔術は、というよりもMPが必要な行動は取れないと考えていいでしょう。


なんとこのゲーム、未だに能動的なMP回復の手段が存在しません。それどころかRPGの定番、ポーションすら見つかっていません。

だというのにショゴスからMP自然回復まで奪ったマジックラフト社はド畜生に違いありません。ソフトをくれた恩など知ったことか。


ウルタールで回復アイテムが売っているという僅かな可能性に賭け、宿の外に出ます。

いえ、売っていても200トゥルじゃ買えないでしょうが。



「え! お姉ちゃん!?」



「あれトーカ、なんでここに?」



「お姉ちゃんこそなんでここにいるの?まだ脱落してなかったと思うんだけど……」



これは……まさか脱落者と非脱落者でマップが分かれていないんでしょうか? 運営に連絡ですね。







……返信が来ました。



「『この度は貴重なご意見ありがとうございます。

本件に関しては仕様ですので、問題ございません。勿論、脱落者はウルタールから出ることが出来ません。また、ウルタールは戦闘不可となっております。

これからもMongrel Stackerをお楽しみください』…だってさ」



「ほぇ〜、仕様かぁ……え、じゃあやっぱりお姉ちゃんは脱落してないってこと?」



「もちろん」



あ、今若干残念そうな顔をしやがりましたね。夕食はピーマン増し増しにしてやりましょう。



「そっかぁ〜……ねぇ、お姉ちゃん。暫定1位様な上に、暫定2位ともダブルスコアで勝ってるんだし午前中は一緒にウルタール観光しない?」



「え、暫定順位の発表あったの?」



というより、暫定1位ですか……。《人間を引き寄せる》が効いてますね。あれだけで1かなりのポイントを稼げました。



「うん? ウルタールの広場のモニターでずっと表示されてるよ?」



あぁ、脱落者用の観戦モニターですか。

ングラネク山で戦っているときに北からの私狙いの即席パーティがやたらと多かったのはこれが原因だったんですね。優勝候補を潰したかったんでしょう。即席なので、連携はお察しでしたが。


それはそうと観光ですか。正直、昨夜の猫とイモリがこの街1番の見所な気もしますが……まぁいいでしょう。



「いいよ、どこ行く?」



「やたっ! もちろんあそこ!」



トーカが指差したのはウルタールで1番高い丘にある神殿でした。



「やっぱり。おバカと煙は高いところが好きだもんね」



「なんか昨日からお姉ちゃん非道く無い!?」


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