第8話



ログインするとキャラメイクルームに飛ばされました。おそらく緊急メンテの補填の受け渡しでしょう。

正面に浅黒い肌の不健康そうな男性が現れます。



「……」



男性は無言で白色の立方体を投げて寄越すと、そのまま去っていきま…ちょ!? 待ってください、他にもっとこう何かないんですか!?



「すみません!」



「……?」



私が声を掛けると彼はキョロキョロと辺りを見回した後、自身を指差して首を傾けます。

いや、ここには貴方と私しかいないでしょう。



「必要なもの(ニードフル・シング)の御用達、リーランド・ゴーントだ。よろしくはしなくていい」



「……マジですか」



衝撃的な名前に唖然としている間に、ゴーントさんは姿を消してしまいます。

リーランド・ゴーントってニャルラトホテプの化身では?


……気を取り直して運営からのメールと謎の立方体を確かめてみましょうか。

さて、まずはメッセージボックスを……おや?

足下が光り始めました。この光景、キャラメイク終了時にも見ましたよ?


視界が光に満たされます。

光が引くと目の前には噴水が現れました。これはおそらく紹介動画で見たソロンの中央広場のものですね。


取り敢えずは噴水の縁に座り、周囲を見回します。

おぉ、思ったより綺麗ですね。中世都市みたいな汚物に塗れた街だったらどうしようかと思っていましたが、杞憂だったようです。


……ゴミ処理場スタートの時点で大差ないどころかそれ以下ですが。


さて、今度こそ気を取り直してメールを確認するとしましょ……



「ヘイ彼女、今1人?」



……なんですか、このタイミングが悪い上に軽薄そうな人達は。縊り殺しますよ?



「…そうですが、何か?」



「オレ達とパーティ組まない?」



「オレ達は結構強いから色々教えてあげられるぞ」



「そうそう、君みたいな可愛い子なら大歓迎!」



やはりナンパですか、というか今時珍しいくらいのコテコテのチャラ男ですね。もはや天然記念物なのでは?



「いえ、遠慮しておきます。では」



「待ってよ、見たところ初心者装備みたいだし始めたばっかっしょ?」



最初に話しかけてきた狼の獣人の男性が右腕を掴んで引き止めてきます。

…ふぅ、まさかこんなに早く「百音式並列思考術四十八番」の番外「ナンパ撃退の部屋」を使うことになるとは。



「…恨まないでくださいね」



「え?」


掴まれた右腕の人化を部分解除、そのまま狼獣人男性の腕を飲み込みます。



「「なっ!?」」



「っ!? おい何しやがる、離せよ!クソッ!」



男性らが何やら驚いたりわめいたりしていますが、構わず飲み込んでしまいましょう。



「う、うわぁ! た、助けてくれ!」



「デーチンになにしやがる!?」



「気をつけろキューピー、コイツ、人化してるけど魔物系だ!」



キューピー…見た目はワニの獣人なので違和感がすごいです。キューピーさんと山羊の獣人男性は剣を抜き、斬りかかってきました。


ふむ、ついでに試してみますか。

私は敢えて斬撃を受けます。



「はっ、避けられもしねぇか!」



「デーチンは解放してもらうぞ」



…まぁ、100種類以上ある種族の特性を把握してるわけもありませんか。

2人の持つ剣を伝い、3人まとめて飲み込みにかかります。



「なに!?」



「攻撃が効いていないだと!?」



「種族特性で私に物理攻撃は効きませんよ」



全身の人化を解除し、3人を完全に飲み込みます。

さてさて、夏季休暇課題をやりながら考えた撃退術、とくとご覧に入れましょう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


=sideデーチン=


気がつくとオレは、キューピー、エヌラと一緒に見知らぬ小部屋にいた。約2m四方で壁と床、天井が七色に輝いている。



「クソッ、なんなんだあの女!」



「まて、そもそもここはどこなんだ?」



キューピーが悪態をつき、エヌラが至極真っ当な疑問を口にする。



「知るか。兎に角早くここから出て、あの女に落とし前つけさせに……待て、何か聞こえるぞ?」



なんだ、この鈴みたいな音は?



「本当だ、俺にも聞こえるぞ」



「あ? そんなの聞こえな…~っ!?」



その瞬間、ゾワリと。



壁、天井、床が目を見開いた。




「な…っ!?」



「あ、あぁぁ……」



「これは、一体……!?」



更に、目に引き続き夥しい数の口が開かれるとそれらが一斉に叫び出した。



「テケリ・リ! テケリ・リ!」



「「いやだ、いやだよ」」

「「「痛い、いたい、イタイ」」」



「テケリ・リ! テケリ・リ!」



「「「助けて、助ケ、テ……」」」

「「「「ヤメテ、ヨ、ヤメ、テヨ」」」」



「テケリ・リ! テケリ・リ!」



「「「ひいっ!?」」」



周囲から聞こえる呪詛が意識を蝕む。

嘲るような奇怪な叫び声のなか、薄れゆく視界の端にメッセージ画面が浮かび上がる。



『状態異常:不定の狂気になりました』



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


処理し終えた3人を吐き出すと、なかなか愉快なことになっていました。


デーチンさんは自分のお腹に剣を突き立てており、キューピーさんは昏倒するエヌラさんを斬りつけています。


……思ってたより不定の狂気がエグくて若干引いてます。


ともあれ、上手くいったようで何よりです。

随分と野次馬も集まったようですので、3人に注目がいっている間にお暇させていただきましょう。

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