第6話



現在、姉川家の家事はそのほとんどを長女である百音が受け持っている。

父の一と母の千金は仕事で東京に赴任中、次女の十華は運動以外がからっきしなためだ。


そのため、今日も今日とて十華は食卓に座って夕食を待っていた。

しかし、待てども待てども百音は姿を現さない。



「んがーっ! ゲームか、ゲームの方が妹の夕食よりも大事だというんだな!?」



十華の数ある欠点の一つは、待つのが苦手なことである。



「お姉ちゃーん! 可愛い妹が餓死しちゃうー!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…。


意識ガ浮上スル。



「…………ん!」



天井ガ目に映る。



「お……ゃん!」



目が覚める。



「お姉ちゃん!? 大丈夫!?」



「…っ!」



心配そうにこちらを覗き込む十華の顔が視界に入ります。

時計を確認したところ、どうやら強制ログアウトから2時間程放心していたようです。



「大丈夫……たぶん。けど体調悪いからお風呂入って寝る。んじゃ」



「え!? 待ってご飯は!?」



「自分でやって」



「待って、いや待って下さい百音さん! 私の得意料理知ってるよね!?」



あーあーあー、聞こえなーい。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


8月1日午後5時18分。

コロナの強制ログアウト直後、「Mongrel Stacker」に緊急メンテナンスが入った。

終了予定時刻は翌日の午後6時。


当然、予告なしの長期メンテナンスには幾らかの苦情が寄せられたが、サービス開始初日ということもあり、概ね「仕方のないこと」として受け入れられたようである。


問題のメンテナンス内容はというと

・一部狂気の症状の修正

・一部状態異常の修正

・初期スポーン地点に立入禁止区域が含まれていた不具合の修正

の3つである。


それぞれ詳しく述べると

・PLの意識が完全に途絶える仕様であった異食等の一部の「狂気の症状」

・高すぎる技術力によって再現された「状態異常:不定の狂気」

・立入禁止区域「ゴミ処理施設」での初回スポーン

が修正を受けた。


…ちなみに、この3つ全てを踏み抜いたのはコロナだけだ。

また、不定の狂気による強制ログアウトは場合によっては大スキャンダルになりかねないため、コロナの元には謝罪のメールと大量の詫びアイテムが送られることとなるが、それはまた別の話である。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


=翌朝=


皆さん、おはようございますっ!

いい朝ですねっ!


え?昨日のダメージはどうした、ですって?

ふふふ、あの程度「百音式並列思考術四十八番」にかかればチョチョイのチョイですよ。


さてさて、どうやらモンスタはメンテ中のようですし…引退済のゲームでもするとしましょうか。



「んー、このあたりですかね?」



再プレイの候補は3つあります。

1つ目は「ヒットマン・ダブル」。

プレイヤー全員がツーマンセルを組んで戦う2人協力型のFPS…として売り出されたはずだったのですが、相方をキルしてからバトルが終了すると2人分の報酬を総取りできることが発覚したため、フレンドリーファイアが恒常化した所謂クソゲーです。

愛称は「ゴルゴDX」。やはり殺し屋といえばゴ○ゴ13なのでしょう。

DXの方は「DX→Double X→ダブルクロス=裏切り」です。


2つ目は「デュアル」。

2曲同時に流れてくる譜面をリズムに合わせて撃ったりする音ゲーです。

難易度調整が絶妙であり、音ゲーの金字塔の1つとされています。

元が短いので愛称はありません。


3つ目は「グラデュアル・デュエル」。

最大4on4まで可能なチームバトル形式のゲームで、剣士や魔法使いなど8タイプのキャラを自由に創って戦うことができます。

愛称は「グラデュエル」です。

モンスタの1つ前にやっていたゲームでもあります。



「うーん、ゴルゴDXとデュアルはブランクがありますし……。ここは無難にグラデュエルにしておきましょうか」



というわけでグラデュエルを起動し、コントローラーを2つ用意します。


おや、フレンドが2人ログイン中ですね?しかもこの2人、現在のタッグデュエルランキング1位の2人じゃないですか。

対戦申請してみましょう。


…承認されたようです。

一ヶ月ぶりとは言え、これでもタッグデュエルランキングの元1位。

負けるつもりは毛頭ありませんよ。

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