長嶺誠治の林間学校 その7

「よっしゃぁぁぁぁぁ!!! 終わったぁぁぁ……」


 時刻は五時前。そろそろ日が落ちて暗くなり始める時間だ。

 なんとか頼まれた物の移動は終わり、女子二人の掃き掃除も完了したようだ。


「うむ、いい運動になったでござるよ。引っ越しのアルバイトをするのも鍛錬の一つにしてもいいと思ったでござる」


「お前めっちゃポジティブでストイックだな……」


 半蔵の『無駄な行動はなにもない』といったスタンスの心構えは素直に尊敬する。

 ここまでストイックになれる奴ならば、まじでそのうちオリンピックにも出ちまうんじゃないかと思う。

 あ、でも剣道はオリンピックに入ってないのか……はよ国際化すればいいのにな。


「ほっほっほ、お疲れ様。いやあすまないねえ大変な作業をお願いしちゃってぇ」


「とんでもないでござるよ。助太刀できてよかったでござる」


「ほっほっほ、相変わらず面白い喋り方だねぇ」


 広いリビングでくつろぐ俺たちに、内藤さんは紅茶と洋菓子を持ってきてくれた。

 うむ、オレンジブロッサムの良い香りするな。まあさっき覚えた言葉なんだけどね。


「さてさて、ではちゃんとお礼をしないとねえ。ちょっと待っておくれな」


 そう言って、内藤さんはリビングを出て行った。

 なんだろうか、何かご褒美にお土産を持たせてくれるのか?


「お、ついにきたね。いや〜楽しみですな〜」


「吉崎さん、さっきも意味深なこと言ってたけど、もしかして見当ついてるの?」


「まあね〜?」


「いや教えてくれねぇのかよ……」


 しばらくみんなで紅茶を飲みながら、内藤さんを待っていると、リビングのドアが開いた。

 そこにいたのは……。



「さてさて、それじゃあ順番にいこうかの」



 如何にも占い師のような格好をしている内藤さん。

 机に紫入りのタオルを敷き、タロットと、その横には悪魔の書のような不気味な本が置かれていた。

 内藤さんって……占い師なん?


「やっぱり! 内藤さんは世界的に有名な占い師Nightさんだったんだね〜」


「占い師……Night……!?」


 俺も占い師Nightのことは耳にしたことがある。

 テレビのニュースや、YouTubeでは都市伝説的な扱いをされているほどの超有名占い師だ。

 番組への出演や取材交渉は一切断っているらしく、世界中の著名人からの占いの依頼ばかり受けているとのこと。

 ネットではインチキ占い師だのと言われていることをよく耳にするが、海外の超人気スターが『Nightは素晴らしい占い師だ。彼女のおかげで僕は歌手への道が切り開かれた』などとインタビューに答えていた記憶がある。


 しかし……Nightの正体が内藤さんとは安直な……。

 しかも美人の若いお姉さんだと勝手に想像していたが、田舎のおばあちゃんだとは思わんかった。


「Nightさんに占ってもらえるなんて……普通ならすごいお金払わないと占ってもらえないらしいよ……」


「ま、まじか……」


 田所さんもNightのことに詳しいらしい。

 しかし大金巻き上げるとは……やはりインチキなのでは……?


「ほっほっほ、確かに大金を巻き上げているように見えるねえ」


「!?」


「でもね、私の占いには必ず『対価』が必要なのさ。一種の呪術的な物だしね。今回あなたたちから『対価』としてもらったのは『時間』と『労働』。まあ家の掃除をしたいと思っていたから、ウィンウィンさね」


「な、なるほど……大金も『対価』の一つということか……」


 てか今俺の心の中読まれた?

 え、めっちゃ怖い! このおばあちゃんこわっ!!


「それじゃあ、時間もあまりないし、一人ずつ占っていくよ。順番においで」



 こうして、まさかまさかの占い大会が始まった。



 ***


「お願いするでござる!」


「ほっほっほ、では占っていくよ」


 お待ちかね、占い大会の先頭打者は草間半蔵選手です!

 意気揚々と打席(椅子)に座ります!


 内藤さん改めNightさんは、半蔵の顔を見るなり、タロットをシャッフルしだしました!

 半蔵選手! 緊張している!

 自身の占いの結果が、吉と出るか凶と出るか!?


「うむ……なるほどねえ」


「し、して……結果は?」


「あんたはとても前向きな性格さね。どんなことに対しても前向きに、悲観的にならず、何にでもプラスに捉えることができる人格の持ち主だよ。ポジティブ足りすぎ。それはこれから先も続けるべきさね」


「そ、そうでござるか……」


「だ、け、ど。無理は絶対に禁物だよ。あんたの腰あたりから黒い渦が見える。黒い渦が見えるというのは、悪い兆しさね。きっと普段から鍛錬を積んでいるんだろう? 時には羽を伸ばすことも大事だよ」


「な、なんと! 確かに最近、ずっと腰の調子が悪かったでござる……」


「……まあ、さっきの掃除のせいで悪化したかもしれないさね」


 半蔵は特に重たいもの運びまくってたからな……。

 なんなら男子メンバーはみんな腰に悪い兆しが見えるかもしれん。


「それと……おや、あんた凄いね。冬休みに大冒険することになるよ」


「大冒険?」


「これはあまり言わないほうが良さそうさね。未来を教えてあげることはできるけれど、知りすぎると運命が変わってしまうものさね。そうなると、周りへの影響が大きくなる……特にあんたの未来は、変えてはならんね」


「そうでござるか……拙者は今後、なにを心がけた方が良いでござるか?」


「まずは、年末までに身体を万全に整えることさね。腰を直すことで、来たる冬休みでの冒険に万全な状態で望むことができるよ」


「左様でござるか……医者に診てもらうことにするでござる。しかし、冒険とは一体何様でござる?」


「あんたにとっても、そしてそこで出会う人々にとってもプラスになることだよ。これ以上は何も言えないさね」


「うぬ……気になるでござるよ。しかし、助言いただけて感謝するでござる!」


「どうもぉ。では次いらっしゃい」


 ……なんだ大冒険って。

 まさか、半蔵ソッチの世界に目覚めちまうとか!?

 冬休みはちょいと避けた方がいいかもしれんな……。


 ***


 次は吉崎さんだ。


「よろしくお願いしま〜す!」


「おや、元気な子さね。どれどれ、では占わせてもらうよ」


「いや〜ドキドキしますな〜」


「……なるほど。あんた、強い執着心を持っているさね」


「……あはは〜確かにそういうところあるかもですね〜」


「自分が欲する物を手に入れるためならば、どんな手段を使ってでも手に入れる。そして今も、その真っ最中ってところさね」


「……」


「悪いことは言わない……その行動で良い結果は得られないよ。物事はいつだって正しい行動をして正しい結果が出るもんさね」


「私は自分が正しいと思った行動してるだけですよ〜?」


「……そうかい。ただ、これだけは言っておくさね。その先に、良い未来は訪れない」


「……」


「まあ、そういうのも若さの特権さね。私は嫌いじゃないよ」


「……あはは」


 内藤さんずいぶん辛辣だな……。

 吉崎さんが執着しているものってなんだろう、しかもその先に良い未来はないって……。

 まぁ、俺には関係ないが、吉崎さんが望んでる未来が叶うよう応援しておこう。


 ***


 さあさあ来ましたきました。

 とうとう俺の番です。


 ……俺もさっきの吉崎さんみたいに辛辣なこと言われたりしないかな?


 つっても、俺が今望んでることなんかないしな……。


「……ありゃ、あんたとんでもないほどの女難の相が出ているよ」


「……へ?」


「ここまで酷いものは久しぶりに見たさね。まるで弁財天様に呪われているレベルさね……」


「呪われてる!?」


 おいおいおいおい。

 俺が何したってんだよ?

 弁財天様に嫉妬されるようなこと一切してないぞ?

 なんなら弁財天様が嘲笑されるような恋愛しかしてないんだが?


「私からできるアドバイスはただ一つ。重要な選択をする時が訪れる。そしてその選択を誤ってはいけないよ」


「重要な選択……? それって、生死に関わることですか?」


「う〜ん、時と場合によるね」


「生死に関わってんだ!?」


 え、何これ。

 この人の占いって確かめちゃめちゃ当たるんだよね?

 もしかして俺相当やばい?


「選択といっても、結局はその時の自分の意思を優先すべきだよ。どんな選択をしても、後悔しない方を選べばいいだけさ」


「後悔しない選択、か……」


 後悔しない選択をしたとしても、結局人間は後悔するものだ。


 この先どんな未来が待ち受けているのかはわからないが、その時に自分が直感的に良いと思った選択をしていこうと思う。


 ***


「な、なぁ……なんか今日の大石さん、変じゃないか?」


「不気味っていうか……ちょっと怖い」


「一人でぶつぶつなんか言ってるし……」


「花蓮〜? どったの?」



「……なに?」



「ひっ……な、なんか今日の花蓮変だよ? 体調悪いの?」


「悪くない」


「そ、そっかそっか! まあなんかあったら言ってね!」


「……」



















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