長嶺誠司の林間学校 その4
「誠司殿、一体どうしたでござる? 急ぎ足で去るものだから、拙者驚いたでござるよ」
「半蔵か……すまなかった」
俺は先に部屋に行き、ベランダで外の風に当たっていた。
他の班の男子たちが先ほど荷物を置きに部屋に入ってきたが、荷物を置いたらすぐに部屋から出て行った。おそらく先生の調理の手伝いにでもいったのだろう。
「……大石殿と何があったのかは知らぬでござるが、無理に聞くほど野暮な真似はしないでござるよ。無論、口外もせぬ」
「はは……そりゃ助かる」
昔から半蔵は、人の空間に無理に押し入ってくるような奴じゃなかった。
相手の気持ちを気遣う武士らしく、優しい性格。それゆえに、俺は半蔵と友達になれた。
事実、直接半蔵には言ってないけれど、半蔵は俺と花蓮の関係を察していると思う。
告白をする直前の放課後も、半蔵に柄にもなく恋愛の相談をしていたりしてたしな……。自分でいうのもなんだが俺わかりやすいな……。
「うむ! 拙者は先生の豚汁作りを手伝いにいく気であるが、誠治殿もどうでござる?」
「あーだから俺はアレだからパス」
「だからアレとはなんでござる!?」
***
花蓮とのエンカウントは、とりあえず今は避けたい。
半蔵には悪いが、俺は昼飯まで精神統一をはかろうではないか。
昼飯まで自由行動ということもあり、俺は施設の周りをウロウロと徘徊していた。
スマホでドラ○エウォークをしながらね。
「しっかし、GPSがちょこちょこ狂うな」
そこまで人里から離れてないと思うのだが、やはり田舎ということもあり、電波が弱い。
まあ、山の中は磁気が強いから(?)それも関係しているのかもしれない。知らんけど。だって俺登山家じゃないからね。将来は有望な引きこもりになる自信があるまである。
「とりあえずどこでも目的地で、クエストクリアしとくか〜……」
「長嶺くん何してんの?」
「おわ!?」
突然背後から声をかけてきたのは、吉崎さんだった。
「なんだよ驚かすなよ……心臓止まるかと思ったわ」
「いやいや、一人でスマホ見ながらぶつぶつ言ってるからさ。なんか気になっちゃうじゃん」
「なんか文書に残してみたら俺めっちゃ不審者っぽいなそれ……」
「あはは! ウケる。そういえば、長嶺くん知ってる?」
「ん?」
「この林間学校の最終日で、毎年肝試しやるらしいんだ。その時一緒に男女でペアになった人は結ばれるっていう噂」
「はあ?」
いやいや、肝試しやっただけで結ばれるなら苦労しねえだろうよ……。
しかも毎年やってるってんなら、とんでもない数のカップルが誕生する超ビッグイベントじゃねえか。
婚活パーティ会社完全敗北案件。
「あ、でも条件があるらしいの」
「条件?」
「肝試しの時の道中、二人で道に迷うことのが条件なんだって〜。吊橋効果ってやつ?」
「いやそれリスキーすぎない?」
命の危険と引き換えにカップル成立ってやばすぎんだろ。
熊に遭遇したら完璧アウト。ってか俺そもそも最近You○ubeで熊の動画みて本気で怖いと思ってるまである。
本当にみんなに忠告しておく。熊に面白半分で近づくな。気づかれる前に逃げろ。熊は数キロ先まで匂い嗅ぎ分けられるから、ターゲットにされたらまじでやばい。
そもそも熊が出没する山にプロのガイドを付けずにいくな。
というような動画を、深夜にYo○Tubeで見て、家中のドアや窓をしっかり施錠して、熊に対してばっちり恐怖心を得たのが最近の俺の出来事だ。
「まあでも、そもそも肝試しの時くじでランダムで決まるらしいから、男同士だったり女同士だったりするパターンも多いみたいだよ〜。結構むずいね」
「なかなかに無理ゲーじゃねえか」
これで俺が半蔵とペアになって遭難でもしたらゾッとするわ。
あ、でも半蔵なら熊が現れても守ってくれそうだな……多分、『誠治殿! ここは拙者に任せて先に行くでござる!』って言ってくるだろうな。
『ここは拙者に任せて先に行けと言ったら、100年経っていた』みたいなラノベのタイトルで、半蔵が学校の伝説になっているみたいな小説書いてみたいな……うん、ブックマーク数2くらいだな。
「いやあ、でも」
「ん?」
「肝試し、私たち一緒だったらいいね」
普通の男子ならドキッとくるものなのだろうが、俺はなぜかゾワっとしてしまった。
なんでだろう……以前から吉崎さんの心は全く読めず、どことなく闇を抱えているような気がしていたからなのか。
「は、それはどういう……」
「むふふ! さ、そろそろお昼ご飯の時間だ〜。戻ろうよ」
「有無を言わせないスタイルかよ……」
なんとなくだけど、この林間学校で何か起こりそうな気がする。
花蓮との連絡が途絶えて、止まっていた何かが、動き出しそうな。
そんな気がするーーーー
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