長嶺誠治の林間学校 その3

 林間学校当日。

 目的地である長野には、バスで行く。


 班ごとに並んで座るのだが、俺の隣は……。


「誠治どの!今の抜き胴見たでござるか!?やはり拙者も全国の猛者と戦ってみたいでござる……!」


 案の定、半蔵である。

 今はスマホでYouTubeを見ながら、俺にやたらと解説してくる。

 悪いが俺は剣道のルールすらほぼ知らん。


「あー……確かにすごいな。うん、すごいすごい」


「うむうむ、やはり誠治殿も一度剣道部に……」


「入らん」


「ぬぅ」


 そんな俺と半蔵の後ろの席には


「やっぱ俺ガ○ルのこの回やべえわ……」

「やべっ……俺何回も見てんのに泣けてきた……」


 萩谷君と飯島君がスマホでアニメを見ながら、二人して号泣していた。ほんと仲良いな……。


「しかし、林間学校かあ……」


 基本的にインドアの俺にとって、こういった野外活動がメインとなるイベントは少々気が重くなる。

 きっと山登りだのをする際に、「やべえ、家帰ってゲームしてえ……」とか思うのだろう。


「今時の若者はずっと携帯をいじっているな……先生がお前らぐらいの時は、バスの中ではみんなでトランプやったり、UNOやったりしていたのになあ……時代の流れとは恐ろしいものだ」


 先生はそんなことを言いながら、タブレットでゲームに勤しんでいた。ドラ○エウォークに最近お熱らしい。

 きっと目的地を旅館に設定して、距離ボーナスを稼ぐつもりなのだろう。

 先生もちゃっかり時代に順応してるのがなんとも言えない。


「誠司殿! 今の面見たでござるか!? 呼吸、気、姿勢、全て完璧であった……!」


 半蔵は勝手に一人で盛り上がっていた。


 ***


「よーしお前ら、各班ごとに部屋分けしてあるから、各自荷物を置いてくるように!」


 旅館につき、とりあえず部屋に移動。

 一つの部屋に、二つの班が同じ部屋だ。やだ! またコミュ障の前に立ちはだかる壁が……!


「そのあとはお待ちかねの飯だ! 先生が愛情たっぷりの豚汁作ってやるからな! 手伝える奴はおにぎりを一緒に握るぞ! いやあ〜忙しい忙しい!!」


 はっはっは! と愉快そうにしているうちの担任。ちなみに独身一筋34年らしいので、自炊スキルが高いそうだ。良いお嫁さんになれそうだな、男だけど。


「さて、と……荷物重いし、さっさと部屋に行くか」


「そうでござるな! 先生殿の料理、拙者もお供しようと思うのでござるが、誠治殿は如何に?」


「あぁ〜俺はちょっと、アレだ。アレだからパス」


「アレとはなんでござる!?」


 なんて半蔵と話していると、背後から人気を感じた。


 俺はなんとなく、この気配の人物が想定できる。



「せ、誠司?」



 ーーーー花蓮だ。



「ぬ?」


 花蓮が俺に声をかけてきたことに気づいた半蔵が反応する。


 しかし俺はーーーー


「半蔵、行くぞ」


「……!? せ、誠司……ちょっと待っ……!」


 俺は一切振り返らず、その場を逃げるように歩き始めた。


「誠司殿! どうしたでござる!?」


 ***


 意味がわからない。


 なんで今更話しかけてくる?


 今まで俺のことを蔑ろにしてきたくせに、なんで声をかける気になった?


 そもそも学校じゃ俺たち二人の関係は秘密だったじゃないか。


 今カレがいない旅先では俺で気を紛らわせようってか?


 お前は一体何がしたいんだよ。


 そもそも浮気するくらいなら、別れてからにしろよ。


 こっちをその気にさせるなよ。


 勘違いさせるなよ。



 これ以上、俺の気持ちをぐちゃぐちゃにしないでくれ……。










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