長嶺誠治の林間学校 その1


「うーしみんなお待ちかねのホームルーム初めっぞ〜」


帰りの学活。

うちの担任の根室ねむろ浩輔こうすけ

パーマのかかった髪に、常に目の下に隈を浮かべているような常に体調が悪そうな先生。しかし顔はなかなかに整っているということもあり、一部の女子からは人気があるそうだ。


根室先生は基本的に学活をせず『うし、みんないるな〜?それじゃ、解散!!!』と速攻で終わらせるのだが、珍しく学活をするということは何かあるに違いない。


「お前らの大好きな林間学校の班決めをしたいと思う。教員側としては林間学校なんてまじなサバイバルだけどな」


……まあ良い意味で嘘偽りない人だよな。

しかし、班決めとなると俺の立場としてはなかなかに厳しい状況になるな。

説明しよう!(とあるゲームキャラ風)

ボッチとは、こういった集団行動の場において、そのコミュ障具合を遺憾無く発揮するという社会不適合スキルなのである!!!


……どないしよ。


「誠治どの……」


すると、隣の席から半蔵が声をかけてきた。

その声音はどこか、村に不届きものが入ってきた際に、颯爽と現れた侍のような威厳があった。

振り返るとそこには、清々しい顔をした武士はんぞうがいた……!


「まさか……俺を、班に誘ってくれるのか……?」


「……是非もないこと……!」



腐れ縁に乾杯。



***


「と、いうわけで。班のリーダーは拙者が務めるでござるよ」


俺の班は六人。

剣道部の飯島くん。剣道部の萩谷くん。剣道部の田所さん。剣道部の吉崎さん。


……俺以外全員剣道部じゃねえか!!!!!!!


なんだこれ!?

勇者パーティだったら戦士五人の一人無職が紛れ込んでる超肉弾ガンガンいこうぜパーティじゃねえか!

んで一人だけ荷物持ちの無職で、「お前は使えないからもういらない」って追放されるパターンのやつや!


一人だけ部外者でなかなかに接しづらいのだが……。


「長嶺くん、だっけ?」


班で話し合っていると、剣道部の吉崎さんが話しかけてきた。

赤みがかったショートカットボブに、大きな猫のような瞳が特徴的な女子だ。

この子が剣道部だとは思えん……。


「あ、ども。話すの初めてだよね」


「うん!私、吉崎よしざき綾女あやめ!周りみんな剣道部で内輪に入りづらいと思ってるかも知れないけど、みんな気さくな人たちだから気にしないでね!」


周りの剣道部員も「おう!気にするなよ!」「仲良くやってこうぜ!」「そして剣道部に入るでござる」と言ってくれた。……最後の言葉は間違いなく半蔵だな。


「ありがとう!楽しくやってこうな!」


これを機に、ボッチから抜け出すのも悪くないかもな。



「おーし、班はみんな決まったみてえだな?ボッチはいねえか〜?どこだ〜ボッチ〜?」


根室先生はあからさまに俺の方を見てくる。このじじい……!

周りの生徒もクスクスと笑っている。……え、俺ってクラス全員周知のボッチだったん?


「まあとりあえず、お前らわかってるよな?くれぐれも林間学校ではしゃぎすぎて問題なんか起こすなよ?俺がめんどくせえからな」


……ほんと包み隠さず言う人だな。



***


帰りの学活が終わった後、俺はいつも通り一人で帰路をとぼとぼと歩く。

半蔵はこれから部活動なので、部活が休みの日以外は大体一人で帰る事になる。


思えば、花蓮と付き合いたての頃は学校から少し離れたところで待ち合わせして、こっそり二人で帰ったり、ときには寄り道して遊びにいったなぁ……。


「……いかんいかん、いつまでひきづってんだ俺は」


こんな調子じゃ花蓮と遭遇したときに無視を決め込むなんて無理だぞ……。


そんなことを考えていたら


「お〜い長嶺く〜ん!!」


聞いたことがあるような女の子の声が聞こえてきた。

クロックスの足音が等間隔でこちらに進んでくるのがわかる。


「あ、吉崎さん」


「長嶺く……きゃっ!!」


俺の前で立ち止まりそうになったところで、不意に吉崎さんがこけた。

咄嗟に吉崎さんの体を受け止め、なんとか未然に事故を防ぐことができた。

……え、てか花蓮以外の女子の体に触れたのなんだかんだ初めてだな。

これでセクハラとか言われたら終わりでござる!(半蔵風)


「わ〜ごめんね!ナイスキャッチ!」


「あー気にしないで。ナイスタックル」


「ぷっ!ナイスタックルとか!長嶺くんおもろい!」


「別に面白かないだろ?それより、なんか俺に用事でも?」


「いや、特に?」


「ないんかい……」


だったらわざわざ走ってこなくてもいいだろ……。


「そういや、今日は部活じゃないのか?半蔵と同じ剣道部だろ?」


「私、今日は病院いかないといけないからお休みにしてもらってるの!」


「え、どっか体調悪いのか?」


「あ!女の子が病院行く時は深く追求しない方がいいよ〜?」


「え?そうなん?……あ、すまん」


花蓮と付き合ってからそれなりに女の子に気を遣うこと学んだ気でいたけれど、まだ甘かったっすわ……。


「ふふ。ね、よかったらLINE交換しない?せっかく同じ班になったんだし、お互い連絡先知ってたら何かと便利じゃん?」


「あーそれもそうだな……交換するときって、フルフル?とか言うの使うんだっけ?」


「え、フルフル使ったことないの!?」


「こちとらぼっちなんで連絡先交換する場面がないもんでね……」


ボッチをなめるなよ?

これぞハイスペックボッチの特徴なのだ!

ん?どういうところがハイスペックかって?それは俺も知らん!言ってみたかっただけだ!


「あはは、うける!でもこれでボッチじゃないね!」


「まあ半蔵もいるし、厳密に言えばボッチじゃないんだけどな?ただ、まあ、ありがとう」


なんだか人に本気の感謝を述べるって、ちょっとこっぱずかしいよな……。

やはり社交辞令的な感謝とは違う気がする。


「全然いいよ〜。ほら、これがフルフル!」


「ほうほう……」


それから俺は吉崎さんとLINEを交換して、最寄駅である渋谷で別れた。


しかし少し引っかかるところがあるのだが、吉崎さんが転ぶとき地面に出っ張りも窪みも何もなかった気がするのだが……。

まあ足同士が引っ掛かってしまったのだろう。


さあて、今日も帰りの満員電車に揺られて帰るとするか。





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