大石花蓮の憂鬱(1)

 私は大石花蓮。

 青嵐学院高等学校に通う高校二年生だ。


 私は元々そこまで派手な性格ではなく、どちらかというと引っ込み思案なタイプだ。

 だけど高校生になってからというもの、お洒落やお化粧に気を遣い始めた。


 するとどうだろう、今までだったら絡んでいなかったような派手なタイプの女の子たちーーーーいわゆる陽キャラたちとつるむようになった。


『花蓮って本当に可愛い!どうやったらそんな色白になれるの?』

『髪もアイドルみたいな綺麗な黒髪だし……ほら!天使の輪っか!』

『表参道が似合う女子高生って感じだよね〜』


 私の周りは可愛い女の子が多い。

 それこそ、読者モデルなんかと付き合ってる子もいるくらいだ。

 派手な子達と遊ぶと、これまでの私が体験したことのないような新しい世界に飛び込んだ気分になる。

 門限を破るようなことは今まで絶対してこなかったのに、今では平気で破ってしまう。

 さらには他校の男子との合コンにまで連れて行かれた。


『花蓮ちゃん、よかったら今度俺と遊びに行かない?』

『うち別荘あるんだけど、みんなで旅行行こうよ』

『とりあえず連絡先だけでも!も〜花蓮ちゃんガード堅いな〜!』


 ……私はこういうチャラついた感じの男の子は苦手だ。

 明らかに下心で私に近づいてくるし、何より会ったばかりの人のパーソナルスペースに平気な顔をして踏み入ってくるのが本当に嫌だった。

 でも友達の女の子は『男の子はやっぱりガツガツ来る肉食系の方が良いでしょ。自信に満ち溢れてるっていうカンジ?が良いんだよね〜』と言うけれど、それは人の好みによるものだと思う。

 人の好みにどうこう言うつもりはないけれど、私は嫌だ。

 でも、周囲の意見に呑み込まれてしまって、自分の本当の意見を言えずにいる私は臆病者だとつくづく思う。


 そんな時、私は誠治と出会った。


 私と誠治の出会いは、クラスは違うけれどお互い図書委員になっていたからだった。

 図書委員の大体の人は部活に入るのが面倒で、かといって図書委員としての仕事をするのも面倒な遊びたがりな人が多い。

 私は与えられた仕事はきちんとこなしたいと思うのだが、周りの子たちからカラオケだのボーリングだのと誘われ、断るとノリが悪いと言われるので、私もつい図書委員の仕事をサボろうとしてしまった。


 しかし誠治は


『あ、いいよ行って。俺やっとくからさー』


 委員会の時も誰よりも一番面倒くさそうにしてて、ほとんど寝てるような人が、その時一人でも仕事をちゃんとやろうとしていた。

 私のような頭で思うだけで行動に移せず、周りに流されるような人とは違って。


『え、この本の量……全部一人で?』


『あー……まあ、一時間ちょいでなんとかなるだろ。それよりも、友達まってんぞ?』


 私は思わず息を飲んだ。

 絶対に一時間なんかじゃ終わるような量じゃない。

 目の前の彼を素直に尊敬したし、何よりも彼と私を比べると、どれだけ私は小さな人間なのだろうか。


『ごめん……次は絶対、手伝うから……!』と言い残して、逃げるように友達の元へと走って行った。

 その日の友達との遊びはとてもつまらなかった。ずっと空元気だった。


 そして、その日から私は自分の気持ちに素直に従うように行動するようにした。


 その時私が一番最初に思ったことは



誠治かれと仲良くなりたい』



 それからというもの、友達の目を盗んでは誠治に話しかけるようになり、最初は誠治は面倒そうな顔をしたが、次第に打ち解けていって、共通の趣味である漫画の話しもしたりした。

 図書委員の仕事も、私が積極的に参加すれば周りの人もちゃんと仕事をするのだと気づいた。本当に私はバカだと思う。


 それからある日、お昼休みに誠治がよくいる屋上にいつものように向かうと、


 いつも通り半蔵君もいたのだが、半蔵君はすぐにニヤケ顔で屋上を後にした。


 すると誠治はこっぱずかしそうな顔で


『今度……あのアニメの聖地巡礼行かね?いや、下心とかじゃないんだけど、ほらやっぱり同じアニメ好きと行った方が楽しいじゃん?いやまあそのとにかくー……』


 恥ずかしさを紛らわすので必死で思わず笑いそうだったけれど、それ以上に私はとても嬉しかった。

 ここまで嬉しい気持ちになったのは初めてだった。


 それから私と誠治は聖地巡礼と表したデートを重ね、付き合うことになった。


『笑った花蓮の顔が、何よりも好きだ。よかったら俺とー……』

『お願いします!!!』


 だいぶ食い気味で私もオーケーを出してしまった。

 だって、あんまりにも長すぎるんだもん。

 でもそれだけ私を大事に思ってくれてたってことだよね。


 本当に幸せだった。



 ーーーーしかし、私は誠治と付き合っていることを誰にも明かしてなかった。



 彼氏がいるとみんなに言うのがなかなか出来ずにいた。

 なぜなら、私の女友達はみんな男に対してブランド力を求めるような人たちだからだ。

 誠治のことをよく知っている人じゃないと誠治の魅力はわからない。

 もしかしたら、ちゃんと誠治のことを話せば特に何も言われないかもしれないけれど、私は私が好きな人のことを悪く言われるのがとても嫌なので、どうしても怖がって言えずにいた。

 しかしそれが間違いだった。


 ある日、女友達の綾女あやめがカフェに行こうと誘ってきたので、なんとなくついていった。

 するとその先にいたのは


『こんにちは!君が花蓮ちゃん?』


 綾女曰く、サプライズでモデルをやっている有馬ありま伊月いつき君を紹介したいと言ってきたのだ。


 私は困惑した。

 こんなことになるのなら、最初から綾女たちに誠治のことを話して、なんなら惚気倒してしまえばよかったと激しく後悔した。


 その日はカフェで話して解散となったのだが、後日綾女が女友達に言いふらしていたそうで、周囲の友達からも言われた。


『あの伊月君!?絶対付き合った方がいいよ!ね!』

『なんなら私が付き合いたいくらいなのに!羨ましい〜』


 ……私が本当に好きなのは誠治だけ。私の彼氏は誠治だけ。


 周りになんて言われようと、私は絶対に流されない。


 だから私は、伊月君にも思わせぶりなことはしたくないので、ちゃんと話すことにした。


『ごめんなさい……実は私、彼氏がいるの……』


 伊月君とまたカフェで会って、正直に話した。

 怒るかもしれないなと思ったのだが、伊月君はそんなことなかった。


『そうだったんだ……うん、そんな気がしてた』

『え……』

『僕さ、なんとなくわかるんだよね。恋する女の子は誰よりも美しくて、誰よりも輝いてる。それはその人の容姿とかそんなのじゃなくて、心から溢れてくるオーラっていうかさ……』


『くさいセリフすぎたかな?』と照れ笑いする伊月君。


 それから伊月君は私の誠治との惚気話を笑顔で聞いてくれた。

 普通の人であれば嫌がるものなのに、嫌な顔を一つせず、真摯に私の話を楽しそうに受け答えしてくれた。

 自分の気持ちに正直に話すのってここまで楽しものだなんて知らなかった。

 その後伊月くんは


『これからもよかったら、友達・・として接せないかな?こうやってただ話すだけでもいいし』


 この時の私は、誠治以外に下心なしで接してくれる人がいて嬉しかった。


『はい!もちろん!』


 この人には私が私でいられる。それは誠治も一緒だけれど、誠治には誠治の話ができない。

 ああ、良い友達が出来て良かった。


 誠治にも伊月くんのことを教えた方が良いだろうけれど、多分誠治のことだから余計な心配をされて険悪なムードになりそう……。


 しばらくは黙っておこう。













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