彼は決めたーー無視をすると。
『誠治』
か、花蓮……!
久々に会えたな!
『誠治』
どこに行こうか、花蓮の行きたいところに行こう!
『誠治とは、行きたくない』
え……。
『この人とが、いい。もう誠治はいらない』
そ、そいつは……この間の……!
『ね、誠治よりずっとこの人の方が良いの。デートも、何もかも』
う、うわあぁぁぁぁあぁぁ!!!!
やめろやめろやめろ、俺の前で他の男と……!!!
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「……最悪の寝覚だ」
こんな夢を見るということは、やはり昨日見た光景は真実だったのだろう。
まさか花蓮が浮気していたとは……いやまだ浮気と決まったわけではないけれど。
でも、しばらく見れていなかった花蓮のあの笑顔は本物だった。
俺が長らく見れていない、満面の微笑み。あの笑顔に惚れて、俺はあの子に告白したんだ。
しかし、今あの子のあの笑顔は俺には向けられず、他の男のものとなってしまった。
きっと、連絡が遅いのも、俺のことが鬱陶しくなったんだろうな。
別れ話をして俺がゴネてくるのが面倒だから、こういう事態になってしまっているのだろう。
「はあ……」
なんて、ため息を吐いていると、階段をどたどたと登ってくる音がしてきた。
母さんかな?
昨日は夕飯を食べなかったし、おそらく俺を心配してきたのだろう。
申し訳ないな。
しかしドアを開けて出てきたのは……。
「うーっす兄貴、飯だってよ」
妹の
結花とは小学校の頃まではめちゃくちゃ仲良かったのだが、結花が中学生になってからというもの、ほとんど俺とは絡まなくなってしまった。
うむ……思春期って怖い。
「あ、あぁ……サンキューな」
「んー?何しょぼくれた顔してんの?きしょ」
相変わらず口が悪いな……!!!
中学生なってからなんかこいつヤンキーっぽくなったからな……。
「高校生男子には色々とあるものなのだよ」
「は、ウケる」
「(……うぜえ!!!!)」
小さい頃はブラコンって言っても過言ではないレベルにお兄ちゃんっ子だったのに……お兄さんは悲しいよ……ぴえん。
「まあでも……」
「ん?」
「なんかあったら……話しぐらい聞いてやっからな……」
頬を紅潮させながら、結花は言った。
なんだか嬉しいというよりも、少し俺は驚いてしまっている。
「お、おおぉ……ありがとうな」
「母さん待ってっから、早く下来いよな!アタシはもう学校行くから!」
バン!と強くドアを閉めて出て行った。
去り際は乱暴だな……。
まあとりあえず、さっさと着替えて下に行こう。
学費を払ってもらっている以上、サボるわけにはいかねえ。
***
俺の通う青嵐学院高等学校は電車で20分ほどのところに位置している。
先日花蓮を目撃した浮気現場(断定)である渋谷が最寄り駅ということもあり、朝の通学電車はとても混んでいる。
ちなみにうちの高校は大学付属なので、ちょこちょこ大学生の姿も見かける。
「あ〜寝み〜……」
「
「夜勤は稼げるんだよ……それに、仕送りもらってても足りない分は補填しないといかんしな」
「はあ、ほんと苦学生だな」
今の二人組は大学生だろう。
しかし大学生は大学生で大変なんだな……家賃やら何やらで……。
そう考えると俺の悩みなんて、大学生からしたらしょうもないことなのかもしれないな。
「ぬ?そこにいるのは誠治殿ではないか?」
背後からこの時代に沿わぬ口調で話しかけてくる声が聞こえた。
「おお、半蔵か」
「本日は晴天で気持ちが良いでござるな!」
草間半蔵。
スポーツ刈りの頭に、視力が悪いということで掛けている黒淵メガネ。背が高く体型がガッチリしているthe・スポーツマンだ。
中等部の頃からの仲で、なんと四年間同じクラスという腐れ縁。
名前からして忍者のような印象を受けるが、バリバリの剣道部で実家も由緒正しき剣道場である。
そのせいか口調も武士っぽい。しかし何故に道場の息子に半蔵という名前をつけたのだろうか……。
「今日は朝練ないのか?」
「うむ、大会が近いということもあり、無理な鍛練はしすぎないようにしているのでござるよ」
「偉いな運動部は……俺は無理ゲー」
「はっはっは、何を言う。誠治殿こそ、元は空手部であっただろう」
「万年補欠で試合に起用すらされなかったけどな?」
こんな感じで、俺と半蔵はたわいのない話をしているうちに、学校に着いた。
***
授業が始まったが、俺は先生の話に集中することが出来ず、ずっと花蓮のことを考えていた。我ながらメンヘラみたいに花蓮に執着してしまっているなと思う。
やはり人を本気で好きになるということはとても素敵なことではあるが、それと同時に心に傷を負いやすい。
ましてや浮気の現場を目撃してしまったということもあってか、少し体調が悪い気もする……うむ、重症だな。
さて……これからどうしよう……。
古文の先生が歴史について熱く語っているのを横目に、俺は窓の外を眺めながらぼんやりと考えていた。
ーーーー今後、花蓮とどう向き合っていくか。
正直なところ、憤りは感じている。
むしろ、浮気をされて怒らないやつなどいない訳が無い。……まあ人によるか。
でも俺としては、まことに遺憾のイでありますといった心境だ。
かといって、花蓮に面と向かって激昂しようとも思わない。
浮気をされたら大抵相手を嫌いになるものだが、今の俺は何とも言えない。
とてつもなく曖昧な感情、心情。
おそらく、本気で好きであったが故に、本気で嫌いになることができないのだと思う。
「……ぬ?誠治殿、気分が優れないのでござるか?随分と険しい表情であるが……」
「ああ……悪い悪い、ちょっと色々考え事しててな」
隣の席に座っているのは美少女……ではなく、いかつい男子半蔵。
席まで隣とかどんだけ腐れ縁なんだよ!!!
しかし、よっぽどひでえ顔してたんだな俺……。
「そういう時は身体を動かすのが一番でござるよ。よし、剣道部にでも……」
「入らん」
「ぬぅ」と悔しそうな顔をする半蔵を一蹴して、再び俺は虚空を見つめる。
おそらく半蔵も、また考え事しておるな……と心配しているだろう。
しかし……今後花蓮との関係は続けるべきなのだろうか?
もはや終わっている気もするが、ちゃんとお別れの挨拶をしていない。
でもこの場合、俺から別れを切り出すということになる。
何て言う?「浮気したやつとは付き合えない、別れよう」か?
でも絶対、俺は馬鹿だから後悔すると思う。
おそらく、花蓮側からしてみたら、勝手に面倒なやつが離れてくれたラッキー、と思うだろうが。
ああ……もう自分がどうしたいのかわかんねえ……。
自分から別れを切り出す勇気はない。かといって相手から言われるのも癪だ。
ならもういっそーーーー自然消滅すればいいかもしれないな。
花蓮とすれ違うことがあったとしても、もはや他人のように振舞う。
無視をし続ける。これがお互いにとって一番良いのかもしれない。
向こうからしても、面倒なやつから開放されたというメリットがあるし、また俺からしてもちょっとした意趣返しになる。幼稚だけれど。
でもきっと、花蓮と他人になることで、俺も少しずつ前に進める気がする。
ここ最近の俺はずっと花蓮に執着していて、立ち止まっていた。
恋は人を盲目にさせるとはよく言ったものだ。前頭葉がバカになっているのだろう。
自分のためにも、また花蓮にとっても、これ以上曖昧な関係を続けないほうが良い。
今日から俺と花蓮はーーーー他人だ。
そんなことを思っていると。
「おい長嶺!!!お前さっきから窓の外を眺めているが、そんなに俺の授業がつまらんのか!?!?」
「うぇ!?」
この日、誠治は最愛の人との決別を決意した。
しかし一方の花蓮は……?
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作者から皆様へ
投稿一話目で多くの方々から反響を頂けてとても嬉しいです。
更新ペースについてなのですが、出来れば週に2話、3話ほどのペースで更新していきたいと思っております。
ストックはあるのですが、どうしても展開が満足できなくてドーン!(文章削除)してしまうことが多々あります。(過去に炎上したことがあるからピエン)
拙い文章ではありますが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
以後、物語に作者が出没することはありませんので、今回はご勘弁を……!
それでは、これからもよろしくお願いします!!!!
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