地下水路の決戦×織り成す炎
「サトラ様!」
「ご無事ですか隊長!」
一体何が起きたのかと唖然とするサトラたちの元にさっきまで天井の巣にぶら下げられていた筈のマシロや第一部隊の兵士たちが駆け寄ってくる。
「みんな無事なのか? な、何がどうなって……」
「それが我々にも状況がよく……。魔獣に捕らわれていた住人たちも全員救出されております。衰弱の激しい者ももいましたが犠牲者は一人も出ておりません。これはもう奇跡としか……」
「もしかして、あの黒い鎧が助けてくれたのか……?」
「は、はい……。突然現れたかと思った次の瞬間には稲妻のような速さで次々と我々を含む捕らわれていた者たちを……。救出したパロマの住人たちは既に他の団員が先導し避難させております」
部下から報告を受けたウェルシュはダブルメイルと交戦し始めた黒い鎧、騎甲ライザーへと改めて視線を向ける。あれがサトラが王都に報告に挙げた正体不明の謎の異形。魔族をも凌駕する圧倒的な力を持った未知の存在……。
(騎士団を、街の人たちを助けた……?)
魔人と戦っている騎甲ライザーを敵か味方か未だ判断つかずにいるウェルシュを他所にサトラは目の前で連れ去られていったマシロがこうして無事でいてくれた事にほっと胸を撫で下ろしていた。
「マシロ……よかった、無事で何よりだ」
「サトラ様もご無事で。すみません重ね重ねお恥ずかしいところを……」
「いや、
「さっき魔力を補充しておきましたが、私ももうほとんど魔力が残っていなかったのであとどれだけの時間戦えるかは……。でも、魔人まで現れては彼に頼るしかありません」
第一貯水池で
「サトラ、君はやっぱりあの黒い鎧の素性を知っているんだね?」
「話は外に出てからいくらでも。今は
「……味方だと思っていいのかな」
「ああ。彼は……騎甲ライザーは紛れもなく私たちの味方だ」
流石にこの状況では隠し切るのも無理だろう。全てが片付いたらウェルシュたちに出来る限りの事情は説明しなければと腹を括るサトラだった。
〈Thunder Revolver!〉
ファング・サンダーブラッドの右手に専用の回転式拳銃『サンダーリボルバー』が出現し、ダブルメイル目掛け
だがダブルメイルは撃ち出された弾を大剣の腹を盾にし防ぐと返す刀で大剣を振り上げ反撃へと興じる。
「ヌぅん!」
「くっ……っ!」
銃身でダブルメイルの剣を受け止めるファング。ダブルメイルの膂力に押し返す事が出来ず鍔迫り合いの状態になり、今度はこちらの番だとばかりに兜の額部分の宝石から放たれた熱線がファング目掛け放たれる。
至近距離からの熱線を文字通り電光石火のスピードで躱し一旦距離を取るファング。全フォームの中でも最もパワー面に劣るサンダーブラッドとは言え、真っ向からの力比べで押し切れないとは……。
(あいつ、以前よりパワーアップしてないか……?)
〈肯定。パワー、スピード、出力全てにおいてこれまでの戦闘データと比較し約20%向上しています〉
(今までは本気じゃなかったってことか? いや、それとも……)
前に戦った時より明らかに強くなっているダブルメイル。魔族もまた成長するのだろうか、それとも後天的に強化されたのか。
どちらにしてもこのままでは分が悪いと判断したファングは左手の『ファングブレス』を展開し赤いボタンを押すとスピード特化のサンダーブラッドからバランス型のブレイズブラッドへと
〈Riser up! Blaze!〉
「ブラッドチェンジ!」
〈It's! so! WildSpeed!〉
格闘戦を得意とする
「こんなところデ貴様とも出くワすとは好都合だ……今日こソ決着を付けルぞ、騎甲ライザー!」
「それはこっちの台詞だ。この巨大蜘蛛で一体何をするつもりだったんだダブルメイル!」
ダブルメイルが振るった剣を宙を舞って回避したファングはそのまま空中から飛び蹴りを放つが剣で受け止められてしまい攻撃が通らない。パワーアップした
〈警告。エネルギー残量が50%を切りました。これ以上戦闘時間を長引かせるのは得策では無いかと〉
(ったく、つくづく燃費の悪さが嫌になるな)
長期戦になればエネルギー消費の激しい自分がが不利になるので状況を打開するべく一気に必殺技で勝負に出ようと『ファングブレス』に手をかけるファング。ダブルメイルもまたファングが仕掛けてくる気配を察知し応戦せんと身構える。
次に仕掛けた時に勝負が付く。周囲の空気が張り詰め緊張感が高まっていく。
だが、この状況を先に破ったのはファングでもダブルメイルでも無く両者とも予期せぬ相手だった。
「なニ……ッ!?」
つい今し方までピクリとも動かず完全に息絶えたものと思われていた
完全に虚を突かれた形となったダブルメイルは巨大蜘蛛の痛打に勢いよく十数メートルほど吹き飛ばされていき、巨大蜘蛛は更に今度はファングへと狙いを変え鋭利な爪の生えた前足を振り下ろす。
「うおっ!!」
「ひゃっ!?」
片方の前足をダブルメイルに切り落とされ、全身切り刻まれ、撃ち貫かれ鼻を突く体液をまき散らしながら
「このっ……! その図体で暴れるんじゃねえよっ!!」
サトラやマシロたちに迫ろうとしていた
支えを失った第二貯水池の天井は次第に真上にある第一貯水池の重さに耐えきれなくなり始めメキメキと嫌な音を立てながら次々と天井に亀裂が走り、第一貯水池の溜まっていた大量の水がその隙間から滝のようにファングたちがいる第二貯水池へと流れ落ちてくる。
「まずい……このままじゃ上が崩れるぞ」
生じた亀裂から流れ込んでくる水流が更に亀裂を広げ、上から流れ落ちてくる水の量が加速度的に激しくなっていき足元の|水嵩(みずかさ》がどんどん上がっていく。
貯水池の広さから溺れ死ぬ心配は無いだろうが天井はいつ完全に崩落してきてもおかしくない状況だ。こうしている間も
「天井が崩れるどころの話じゃない、このままじゃ地盤ごと地下水路そのものが崩落するぞ!!」
「そ、そんな事になったら私たち全員生き埋めじゃあ……パロマの街だって!」
「これ以上あの巨大魔獣を暴れさせる訳にはいかない……何としても止めるぞ!!」
サトラは何が何でも
「くっ! 相手が大きすぎる……っ」
「下がれサトラ!! 爆ぜろ炎、穿ち貫く楔となれ!
剣が通じないと判断するや否やウェルシュが放った火炎魔法による炎の槍が
サトラやウェルシュが必死に動きを止めようとするのを嘲笑うかのように更に貯水池の柱を破壊し崩落を加速させていく
「ライザースパイク!!」
足元のサトラたちを狙う訳でもなく見境なく暴れ続ける巨大蜘蛛に向かってファングが跳躍し頭部目掛けて飛び蹴りを叩き込む。騎甲ライザーの強烈な一撃にぐらりと巨体を揺るがせた
「クソッ、デカ過ぎだろ! こうなったら一気に……」
〈警告。エネルギー残量40%を切りました。
「つまり一撃で仕留めなきゃガス欠って事か……けど他に手は無いんだ、何としても守り切るぞ」
暴走状態とも言える状態の中でも自身に対し唯一痛打を与えてきたファングに本能的な危機感を覚えたのか、それまで滅茶苦茶に貯水池の中を暴れ回っていた
糸弾を回避しながら
強引に
何とか全力の一撃をクリーンヒットさせる事が出来れば……。
こうしている間もどんどんエネルギーは消費され続け戦える時間が無くなっていき焦り始めるファング。再び蜘蛛が放った糸を避けようと身構えた次の瞬間、白い炎が蜘蛛の糸を焼き払い、火炎魔法を放ったウェルシュがファングの元へと駆け寄ってきた。
「騎甲ライザー、だっけ。何か手伝える事はあるかい?」
君ならあの巨大蜘蛛を何とか出来るんだろう?と期待を含ませたウェルシュの問いにファングは無言で頷くとこうしている間も糸を次々吐き出している
「あの糸を何とか出来るか」
「ああ、任せてくれ」
剣を一度収めるとウェルシュは高位魔法の詠唱へと入り始める。ウェルシュの魔法の準備が整うまで注意を引き付けるべくファングが
「万物を焦がす灼熱、仇なすものを焼き払う紅蓮の刃となりて顕現せよ!
ウェルシュの周囲に白色に燃え上がる炎が次々と形成されていき、それらは見る見るうちに燃え盛る炎の剣と形を成していく。完成された炎の剣はウェルシュが手を
さながら指揮者のようなウェルシュの手の動きに合わせ縦横無尽に舞い踊る炎の剣。蜘蛛の糸が白炎によって焼かれていき文字通り活路が切り開かれていく。
「今だ、決めるぞ!」
〈Blaze! vanishingbreak!〉
「……っ!?」
ファングが必殺技を放つべく空中で身構えようとしたその時、
およそ知能らしいものを感じさせない外見で忘れていたが、そもそもこの巨大蜘蛛はこの地下水路から糸だけを地上に伸ばして密かに獲物を引きずり込み続けていた。知能が無いどころかむしろ狡猾とさえ呼べる知恵があるのだ。
(突き破って倒しきれるか……? いや、絶対に倒す!)
エネルギーが足りなければ自分の生命力を代用すればいい。この巨大蜘蛛は何としても今ここで倒さなくてはならない。でなければバロマの街が、大勢の人々が危険に晒されてしまう。
覚悟を決め、繭上の糸で防御を固める
「
「お前、なんで……?」
「こンなところで巻き添エなど御免だ。さっサとその害虫を駆除シろ騎甲ライザー!」
「ご尤も……それじゃあワイルドに行こうか!!」
蜘蛛の繭を切り裂いたのは
「爆炎――」
糸を焼き切るウェルシュの白炎と繭を両断したダブルメイルの紫炎、そしてファングの右足に煌々と宿る紅蓮の炎が入り交じり……三色の炎は渦を巻き一つの焔となっていく。
「ファングスパート!!」
「トリャアアアーッ!!」
黒い流星と化したファングが蹴り込んだ眉間からそのまま巨大蜘蛛の体内を撃ち抜き、貫き通す。
炎に包まれ、破壊エネルギーを注入された巨大蜘蛛……
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