VSゴーレム×降臨、騎甲巨神

 〈ダイナミック・ライザーシステム。出力、エネルギー制御、流体因子エネルギーブラッディフォース循環率、問題なしオールグリーン



 『神の至宝』によって異世界の地に再現された騎甲ライザーの駆る巨大兵器『騎甲巨神ダイライザー』が古代兵器ゴーレムの前にその雄姿を現した。


 騎甲ライザーの外観をよりマッシブにしたような力強いフォルム。胸部には『ファングブレス』と同じく肉食獣の頭部を象った装飾。メカニカルな装甲に対し関節部を流れる流体因子エネルギーブラッディフォースが流れる生物的な印象を併せ持った鋼鉄の巨人。


 元々は『結社』によって開発された広域殲滅兵器であったものを騎甲ライザーが奪取し自分たちの戦力としてカスタマイズしたのがこの騎甲巨神、ダイナミック・ライザーシステム。通称ダイライザー。

 その大きさは僅かではあるが古代兵器ゴーレムティターンには及ばないが十分匹敵するサイズだった。



「『神の至宝』より魔力を『ライザーシステム』に移行。マシロ様、お願いします」



 騎甲巨神ダイライザーの頭部にある操縦席コクピットには操者であるファング影次とマシロ、そしてリザの姿があった。

 人三人も乗り込むのが精一杯の狭い空間の中、中央に設置された左右一対の操縦桿ハンドルを握り巨神を操るファング。周囲にはシステムや周囲の状況を掲示するモニターが宙に映し出されており、ダイライザーの残り活動限界時間のリミットが表示されている。


 リザが『神の至宝』の魔力を『ライザーシステム』に供給し、マシロがその際魔力を『ライザーシステム』のエネルギーに変換する。そうする事によって本来ならこの異世界に存在する筈のない、現代に置いてきたこの巨大ロボを完全再現する事が出来たのだった。



「マシロ、大丈夫か?」


「は、話しかけないで……ください……! 魔力の調整が物凄く難しいんです……っ!」



 元々この異世界に存在しないエネルギーへと魔力の波長を寄せて疑似的な模倣品として供給しているのがマシロが普段行っている『ライザーシステム』への魔力譲渡マジックギフトだ。

 だがこのダイライザーは騎甲ライザーとは遥かに規模が違う。当然流し込む魔力の量が増大すれば難度は飛躍的に跳ね上がる。

 凄まじく繊細な調整をしながら大量に流れ込んでくる魔力を注ぎ込み続けなければいけない。少しでも調整が狂ったりリザから送られてくる魔力を取りこぼしてしまえばその瞬間ダイライザーは機能を維持出来なくなり消えて無くなってしまうだろう。

 この『騎甲巨神ダイライザー』が起動し続けられるのは全てマシロの手に掛かっていると言っても過言では無かった。



「いいからエイジは構わずゴーレムを倒してください……これくらい、姉さんとやりあう事に比べればどうってこと……!」



 心身を擦り減らすような負荷が掛かっているにも関わらず影次を戦闘に集中させようと虚勢を張るマシロ。痩せ我慢なのは一目瞭然だがここは彼女の言葉に甘え、任せるしか無い。



「……分かった。『ルプス』、すぐにカタをつけるぞ」


〈了解。まずは場所を移しましょう。ここでの戦闘行為は周囲に大きな被害が出る可能性が高いかと〉


「そうだな。…サトラ、ジャン! 出来るだけ離れていてくれ!」



 足元にいるサトラたちに声をかけるとファング影次はハンドルを握り込み騎甲巨神を動かし始める。操者である騎甲ライザーの意思が、イメージがハンドルを介し巨神の動きへとフィールドバックされ古代兵器ゴーレム目掛けて大きく腕を振り上げる。



「始まったぞ……エイジの言う通り早く離れるんだ!ここにいては邪魔になってしまう!」



「じっくり近くで見物したいんだけどなぁーって、流石に言ってられないねぇコレじゃ」



「お、思うように走れませんぞっ。着込み過ぎましたかな……っとと」



 足元の様子を映し出しているモニターでサトラたちが避難していくのを確認するとゴーレム、ティターンに向けてダイライザーがその剛腕を振るう。

 テイターンの腕を、肩を掴むと背部の装甲が一部展開し内蔵されたジェットエンジンが点火しテイターンの体を掴んだダイライザーの巨体が浮かび上がる。



〈街の外の雪原へこのまま移動しましょう。あの辺りならばや山への影響を最小限に出来るかと〉


「よし……。飛ぶぞ、マシロもリザもしっかり捕まっていてくれ!」


「と、飛ぶ……!?」


「畏まりましたマシロ様、私にお掴まりください」



 ファングの言葉に慌てふためくマシロの体をリザが支える。次の瞬間ダイライザーの足裏に内蔵されたバーニアが点火し二体の巨人が宙を舞う。

 ディプテス山を飛び立ち麓のビションフリーゼの街を飛び越え、そのまま向かうは街から離れた広い雪原地帯。影次たちがジェンツーの街のトンネルを出て街に行くまで通ってきた雪原だ。



〈周囲に人間の反応無し。戦闘行動問題ありません〉



『ルプス』の報告を聞いてティターンの巨体を雪原の上に放り落とすファング。地響きを立てて降り積もった雪を激しく巻き上げるティターンに続きもう一体の巨人が降り立つ。

 止むことの無い吹雪の中、一面を真っ白な雪で覆われた雪原に二体の巨人が立ち並び、向かい合う。



「ご主人様。残り活動時間二分です」


「分かってる。一気に行くぞ!」



 巨人同士の戦い、まずはゴーレム、ティターンが先手を取り仕掛ける。突然現れた得体の知れない巨人に対し瞳から山肌をも削り取る超高温の熱線を放つ。

 ティターンの放った熱線ビームがダイライザーの胸部にクリーンヒットし、その際に生じた熱気が周囲の雪を蒸発させ水蒸気を発生させる。自身と同等のサイズのダイライザーを脅威と認識したのか立て続けに熱線を発射するティターン。十数発にも及ぶ掃射で辺り一面に積もっていた雪が溶かされ二体の巨人の周囲だけ雪の下にずっと埋もれ続けていた土の大地が露わになっていく……。



「『ルプス』、ダメージ確認」


〈装甲部の損傷約4%。問題ありません〉


「今度はこっちの番だ。ナックルブラスター!!」



 ティターンの放った熱線によって発生した大量の水蒸気の中からほぼ無傷の騎甲巨神が姿を現す。握り込んだ拳に流体因子エネルギーブラッディフォースが収束していき、腕を突き出すと同時に拳を象った破壊エネルギーの塊が放たれ、ティターンの胴体に命中しその分厚い装甲を砕いた。



「畳み掛けるぞ……! スピンリッパー!!」



 ファングの掛け声と共にダイライザーの両肩、両膝の装甲の一部が切り離され合体し二枚のカッターとなる。ブーメランのようにティターン目掛け投げ付けるとそれは高速で回転し始めティターンの関節部を的確に狙い……刃がダイライザーの手に戻ってくるのと同時にティターンの両腕が胴体から切り離されドスン、と地鳴りを上げて地面に落ちた。



「凄い……圧倒的じゃないですか」


「ダイライザーは搭乗した騎甲ライザーをコアとして流体因子エネルギーブラッディフォースを増幅し動力や攻撃時のエネルギーに活用する事が出来るのです。更に装甲に使用されている特殊合金ライズメタルは強度と柔軟性を兼ね備えているのです」


「どうしてリザさんが誇らし気なんですか……?」


〈残り活動時間まもなく1分を切ります〉


「モタモタしてたらこっちが時間切れになるな、このまま……」



〈警告。ゴーレムの体内から高濃度の圧縮エネルギーを確認。このまま破壊してしまうとゴーレムの動力炉が大規模な爆発を起こしてしまいます〉



 両腕を失い全身からバチバチと火花を散らし機能停止寸前のティターンに止めをさそうとするファングを『ルプス』が制止した。

 ティターンの胸部、破損し内部が露出した装甲の隙間から赤い光が点滅している様子がモニターに拡大されこのまま破壊するとあの動力部分が大爆発を起こすと言うのだ。

 十分に街から離れたとは言え流石にこの巨体が吹き飛ぶほどの爆発ではビションフリーゼの街もただでは済まないだろう。



「え、エイジ……」


「任せろ。お前の故郷は絶対に守って見せる」



 爆発と聞いて思わず不安気な声を漏らしたマシロにそう、自分自身に言い聞かせるように言い放つファング。どのみちここでゴーレムを破壊しなければ街は危険に晒されるのだ。ならば、被害が出ないように破壊すればいい。



〈残り活動時間40秒〉


「ライジングファイヤー!!」



 ダイライザーの胸部、獣の頭部を模した装飾の口部が展開し紅蓮の竜巻を放ち大破したティターンを飲み込んでいき、ティターンの巨体が空高く、山々を超え、雲をも抜け、空の彼方まで舞い上げられていく。

 地上から遥か上空へと飛んで行ったティターンを追いダイライザーも背部と足裏に内蔵されたバーニアを展開、点火し上空へと飛翔する。



〈残り30秒〉


「分かってる! これで決める……ライザーソード!」



 上空へと飛ばされたティターンを追い上昇するダイライザーの両足の装甲が展開し左右からそれぞれ柄と鍔が射出、合体しダイライザーが手にすると流体因子エネルギーブラッディフォースによって精製された刀身が伸び出る。



〈活動限界時間まで残り20秒〉


「エイジっ! もう時間が……っ!」




 雲を抜け、炎の竜巻に吹き飛ばされたティターンへと追いついたダイライザーは刀身を真紅に輝かせる大剣ライザーソードを両手で大きく振り上げる。

 ライザーソードが輝き、真紅の光はそのまま刀身の延長となり振り上げられた剣は天をも衝く光刃となる。



「光刃一閃……バニシングソードブレイカーッ!!」



 両腕を失いボディにも激しい損傷を受けたにも関わらずティターンはなお戦いを止めずダイライザーに向けて両目から熱線ビームを放つ。

 それは苦し紛れの一撃でも一矢報いるといった行為でもなく、魂無き古代兵器ゴーレムにインプットされた「標的を殲滅する」というプログラム故の行動だった。

 もしゴーレムに思考する能力があったならば目の前にいる異世界の巨神を相手に戦いを挑みはしなかっただろう……。


 ダイライザーが振り下ろした光の刃はティターンの放った熱線を掻き消し、ティターンの頑強な装甲をまるでバターのように易々と切り裂く。真っ向から縦一線に振り抜かれた光の刃はティターンの巨体を文字通り真っ二つにし……

 ディプテス雪原の上空で古代兵器ティターンは跡形も無く爆発四散したのだった。



「ふぅ……、何とかなって良かった」


〈爆発したゴーレムの残骸による街への被害無し〉


「まぁ、下の雪原は滅茶苦茶になっちゃったけどな……」



 雪雲をも吹き飛ばす凄まじい爆発を起こしたティターンの残骸がディプテス雪原に降り注ぐ。粉々にされた事で地上に被害を出す程の巨大な破片などは無かったが折角真っ白で奇麗だった雪原がもはや見る影も無くなってしまっていた。



「それくらいは仕方ないですよ。それにしても……本当にエイジは何でも有りですね」


「何でもは流石に大袈裟だよ。俺の隠し玉は正真正銘、これで打ち止めだしな」


「本当に良かった……。ありがとうございますエイジ。街を守ってくれて」


「何言ってるんだ。マシロのお陰でどうにかなったんだ、礼を言うのはこっちだよ」



 地上へと着地したダイライザーの操縦席コクピットの中でゴーレムの脅威から街を守り切りお互い胸を撫で下ろすファング影次とマシロ。責任ならぬ功績の押し付け合いをしているとそれまで黙っていたリザが不意に口を開いた。



「イチャコラしているところを大変恐縮なのですが」


「い、イチャコラなんてしてませんっ!」


「ご主人様、時間です」


「えっ?」



 リザがそう言った瞬間タイムリミットを迎え存在を維持出来なくなった騎甲巨神ダイライザーが突然小さな宝玉に、『神の至宝』へと戻ってしまいリザの姿も消えてしまう。中にいた影次たちは当然いきなり外に放り出される事になり……

 コクピットがあった頭部約20メートルの高さから地上へ向かって真っ逆さまに落下し始めた。



「わあぁぁぁっ!! わ、私もう魔力残ってませんよ!? エイジ、エイジっ!!」



 ゴーレムの危機という脅威を退けたのも束の間の絶体絶命の危機に魔力も切れ成す術も無いマシロは思わず助けを求めるが……横にいたのは同じく絶賛落下中の変身が解けた影次の姿だった。



「どうすりゃよかどこげんの!?」


「エイジもダメじゃないですかーっ!!」












 side-???-



 ティターンを押し付け安全なところまで逃げたアッシュグレイとナイトステークは騎甲ライザーが駆る異世界の巨人によって古代兵器ゴーレムティターンが木っ端みじんに粉砕される一部始終を目撃していた。



「……マジか。ヤバいとは思ってたがここまで酷ぇと流石にヒくわ……」



 騎甲ライザーを倒してくれたら最良。それが無理でも痛み分け、相応のダメージを与えてくれればと期待していたのだが完全に宛てが外れてしまった。まさか向こう側にも同等の巨大兵器があるとは夢にも思わなかった。

 かつてこのシンクレル大陸で猛威を振るった伝説のゴーレムがああも一方的に破壊されてしまった事に改めて自分たちがとんでもない相手を敵に回してしまった事を思い知らされるアッシュグレイであった。



「けどまぁ今まで使わなかったところを見るとライザーもあのデカブツをそうホイホイ使えるって訳じゃなさそうだな。でなきゃ俺らもとっくに踏み潰されてるだろうしよ。……って聞いてんのかステーク」


「ああ、ゴーレムが……串刺しにしたかったゴーレムがバラバラに……」


「ったく、落ち込みたいのは俺の方だっつーの……。さてこの件を主様マスターにどう報告すりゃいいんだか」



 創造主たる自分たちのマスターに今回の失態を伝えなければならないと考えるだけで億劫な気分になる。マスターはゴーレムに対しさほど強い関心を持っていなかったが、かと言って無駄に失わせてしまったのは紛れもなくアッシュグレイたちの失態だ。

 どんな処罰を受ける事やら……下手をすれば役立たずに用は無しだと始末されてしまう可能性だってあるかもしれない。



「今からでもシャーペイみたいに俺もライザーに擦り寄るか……流石に無理か」


「その発言は我らが創造主様マスターへの反逆と捉えて宜しいのですか?」


「うおっ!?」



 突然、音も無く背後に立っていた人物に声を掛けられ思わず声を上げて驚くアッシュグレイ。いつの間にかこの場に自分とナイトステーク以外の第三者へと振り返るとそこにいたのは自分たちの良く知る人物だったので警戒を解き安堵の溜息を漏らす。



「なんだよお前かノイズ・・・……。脅かすなよ」


「様子を見に来て見れば折角発掘したゴーレムを台無しにしているとは……。何をしているのです死霊魔人、狂乱魔人」



 アッシュグレイにノイズと呼ばれた人物は呆れたような声で遠巻きに見えるゴーレムの残骸から二人の魔人へと視線を移すと冷たく抑揚のない口調でアッシュグレイたちを叱責する。

 目深に被ったフードとローブで顔と姿を隠した新たな魔人。辛うじて分かるのはその声から若い女性のようだ、と言うだけだった。



「あなたが任せてほしいと言ったから創造主様マスターも一任したのですよ。それをよもやこのような……。大方玩具にしようとでも思っていたのでしょう。あなたが創造主様マスターより与えられた仕事の傍らで遊び惚けているのを黙認しているのは偏に創造主様マスターの慈悲だと言う事を努々忘れないように」


「いやぁ主様マスターは単に興味ねぇ事はどうでもいいってだけじゃ……って冗談、冗談だって。そう怖い顔すんなよノイズ。……ま、顔見えねぇんだけど」


「んあ? ノイズじゃないか久しぶりー。ちょっと串刺しにしていいか?」


「あなたも相変わらずですね……。まぁいいです、私も別に遊びに来た訳ではありませんので本題に入らせてもらいます。

 死霊魔人、狂乱魔人、あなた方には一旦暗黒大陸本拠地に帰還して頂きます。創造主様マスターの研究が次の段階へと移るのであなた達二人に新しい仕事を頼みたいとの事です」



 突然の帰還命令に思わず顔を見合わせるアッシュグレイとナイトステークだったがノイズは二人の返事も待たずに徐に手を翳し宙に薄暗い光と毒々しい靄を放つ黒い大穴を発生させる。

 シャーペイが使用しているものと同じ転移魔法。だがノイズのそれはシャーペイのものよりも遥かに精度の優れた高次元のものであった。



「いつ見ても羨ましいよなぁ。お前だけそうやってゲートを自由自在に使えるんだからよぉ」


「それだけ創造主様マスターは私を重用して下さっているという事です。さぁ創造主様マスターがお待ちかねです。くれぐれも失礼の無いように……と言っても無理でしょうね。特にあなた方は」


正解ビンゴ! 俺というものをよく分かってるじゃないか嬉しいねぇ」


「一突きだけでいいから刺しちゃ駄目か? そろそろ我慢が……あぁ手が震えてきた」


「……いい機会ですしこの失敗作たちを造り直して頂きましょうかね」

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