古代兵器ゴーレム×影次の切り札

魔族によって永い眠りから覚めた古代兵器ゴーレム。

事態に気付きディプテス山に向かった影次たちが目撃したのはその全貌が視界に収まりきらないほどの余りにも巨大過ぎる破壊兵器の姿だった。



「い、いくらなんでも大きすぎるでしょう……洞窟喰いダンジョンイーターの倍以上はありますよ」



「魔獣の類では無さそうだが……まさかこれも魔族の仲間なのか?」



既にビションフリーゼの街のすぐ近くまで迫っていたゴーレムの姿がはっきりと目視できる距離までやってきた影次たちだったが改めて間近で目の当たりにするとその常識外れの巨体に完全に圧倒されてしまっていた。



「もしかしてコレってゴーレムってやつじゃない?ほら、大昔にあった人間と魔族の戦争で使われたってアレ」



「ゴーレムって……魔族同様伝説上の存在として語り継がれているものじゃないですか!そんなものが実在するなんて事……」



「いやぁ実際こうして魔族アタシも実在してるじゃんか。キヒヒッ、でも確かにマーちゃんの言う通り本当にこんなモノがあったなんてねぇ」



山のような巨人を目の前にして困惑しているマシロやサトラに引き換え楽しそうにゴーレムを見上げ観察しているシャーペイ。

試しこの巨人を止める、破壊する方法を訪ねてみたが流石に専門外だそうだ。



「そもそも存在自体が眉唾物だったからねぇ、そりゃ実物に関する情報なんて無い無い。……ああ成程ね。あのナイトステークとか言うのはゴーレムコレにアタシたちを近づけさせないようにしてたって訳だ」



「と言う事はやはりこのゴーレムは魔族のもの、と言う事でしょうか」



「……いや、どうもそういう訳でも無さそうだ」



ゆっくりと、だがその大きすぎる歩幅でどんどんこちらへと迫ってくるゴーレムの足元の人影に気付く影次。どうやらゴーレムから必死に逃げているようだが……その二つの人影、いや魔人の姿はどちらも見覚えのあるものだった。

片方はこのディプテス山に初めて来た時に遭遇した狂乱魔人ナイトステーク。そしてもう一人は因縁深い死霊魔人アッシュグレイだ。



「あれは……魔族!?やっぱりこのゴーレムは魔族の……!」



「いや、だが様子がおかしくないか?まるで必死にゴーレムから逃げているように見えるのだが……」



サトラの言う通りアッシュグレイもナイトステークもゴーレムを従えているよりはむしろ襲われているように見える。魔人たちが突然現れたゴーレムと無関係という事は考え難いが少なくともゴーレムを操っているという訳では無さそうだ。



「ゴーレムって詳しい事が分かってないからそもそも魔族が作ったのか人間が作ったのかも不明なんだよねぇ。昔の戦争の時もどっちの味方だったってのも分かんないし。キヒヒッ、案外間違って起こしちゃってアイツらもどうしていいか分かんないんじゃない?」



「いくらなんでもそこまで間抜けな話は無いと思いますけど……



「エイジ、どうする?」



「……魔人あいつらよりも先にあのゴーレムってのをどうにかしないと。このまま麓まで来られたら街が滅茶苦茶にされるだろ」



〈Standby〉



左手首に『ファングブレス』を出現させ街に向かって突き進んでくるゴーレムと、それに追われる魔人たちを迎え撃とうとする影次。

ジェンツーの街での一件で魔族に、特にアッシュグレイには個人的な因縁がある影次ではあったが今はゴーレムを止め、街を守る事を優先する。



「マシロとサトラは少し離れていてくれ。俺はあのデカいのをどうにかしてみる」



「気をつけてな。いざとなったら私たちも加勢する。魔人相手でも時間稼ぎくらいはしてみせるさ」



「こっちの事は気にせず思う存分やっちゃってください」



「ああ」



〈Riser up! Blaze!〉



「騎甲変身っ!!」



〈It's! so! WildSpeed!〉



光に包まれ、一瞬にしてライザーシステムに身を包んだ騎甲ライザーファング影次。相手は天をも衝くような巨人、最初から出し惜しみはせず全力で行く。

雪を巻き上げ勢いよく駆け出すと高々と跳躍するファング。魔人たちの頭上を飛び越えゴーレムに真っ向から必殺の一撃を繰り出す。



〈Blaze! vanishingbreak!〉



「ファングスパート!!」



流体因子エネルギーブラッディフォースを右足に集中させ深紅に染め上げたファングの飛び蹴りがゴーレムの腹部に猛然と叩き込まれ……巨体を大きく揺るがし、その足を止めさせた。



「随分とまたデカい相手だけど……取り合えずワイルドに行こうか」









「ハハッ!いいところに来てくれたぜ騎甲ライザー!助けてくれてありがとよ」



「冗談は性格と見た目と存在だけにしろ。ゴーレムあれを止めたら次はお前らだ」



ジェンツーの劇団お友達の件で随分恨まれちまってるみたいだなぁ、怖い怖い。クックッ、それじゃあさっさと退散させて貰うとするか」



「ふざけるなよ……逃がすと思うか?」



ほんの一時ではあったが劇団の仲間として苦楽を共にしたギンを貶め、間接的ではあるが命を奪ったアッシュグレイに対し込み上げる怒りを隠そうともしないファング。

この場から避難しようとする魔人たちを当然逃がすまいと追いかけようとするが……。



「俺らの相手なんかしてる暇があるのか?お前さんの言う通りアッチを優先しないと大変な事になるぜ。ほらほら街まで行っちまうぞ」



アッシュグレイの言う通り一瞬ファングの一撃で怯み、動きを止めたゴーレムだったが既に動き出しており、再び麓にあるビションフリーゼの街へと続く山道をゆっくりと直進し始める。



「助けてくれた礼に一つ教えてやるよ。アレは大昔の戦争で破壊の限りを尽くしたと言われてる古代兵器ゴーレム、それも『終末の六機』と呼ばれる最凶最悪のゴーレムの一体、通称『大地のティターン』だ。街の一つ二つなんざあっという間に滅ぼす代物だ」



「で、そんな物騒なものを蘇らせたが扱いきれず、ってところか。随分と間抜けな話だ」



正解ビンゴ!返す言葉もねぇや。まぁ後は任せたぜ騎甲ライザー。せいぜい頑張ってくれや」



「必ず生き残れよ……俺はまだお前の事を刺し足りないんだ」



軽薄な台詞と物騒な声援を残し山道脇の山林へと逃げ去っていくアッシュグレイとナイトステーク。咄嗟に追いかけようとしたファングだったが目の前のゴーレム、ティターンが巨大な足を振り上げ、凄まじい轟音と衝撃を響かせ足元のファングを踏み付ける。

頭上から勢いよく落ちてきた空も見えなくなるほどの巨大なゴーレムの足の裏から間一髪回避したファングだったが、既に振り返った先には魔人たちの姿は影も形も無くなっていた。



「クソッ……!こんなデカいのどうすればいいんだよ……」



腹部に叩き込んだ必殺技バニシングブレイクもティターンの外部装甲に亀裂を入れる程度のダメージだ。あらゆる物を破壊する流体因子エネルギーブラッディフォースだが相手との質量差が大き過ぎて十分にエネルギーが伝わり切ららないのだ。



(同じ個所を連続で……いや、倒しきる前にこっちがガス欠になるか)



「エイジ!」



巨人ゴーレムの攻略法を思案しているファングの元にマシロたちも合流してきた。だが近くまで来たのはいいが山一つ分程のサイズの相手を前にサトラもマシロも何も出来る事など無くその場に立ち竦んでしまう。



「さ、流石に剣ではどうにもならないな……」



「氷漬けにするには魔力が全然足りませんね……」



マシロたちからやや距離を取って後方の十分安全な位置からゴーレムを見上げているシャーペイだけは一人場違いに楽しそうにはしゃいでいた。



「キヒヒッ、間近で見るとホントに冗談かってくらいデカいねぇ。こんなの街の中で動き回ったらあっという間に瓦礫の山だろうねぇ」



「実物を見てどうだ?弱点ぽい場所とかわかるか?」



「全然?まぁ人型なんだし頭潰すとか?後はどっかに必ず動力源があるだろうからそこを壊すとか」



「成程。微塵も役に立たない意見をありがとうよ」



シャーペイの言うような動力源のような箇所はざっと見回したた限りティターンの体のどこにも見当たらない。あるとすれば当然内部なのだろうが。


ならば狙うは頭部。ファングは自身目掛けて振り下ろされるティターンの拳を空中に飛んで避け、そのまま巨人の腕に着地し頭部を目指し駆け上がっていく。

自分の体の上を走るファングを払い落とそうとする巨人の腕を掻い潜り、ファングは肩まで一気に駆け登ると頭部へ目掛けて高々と跳躍しティターンの顔の真正面まさに目の前へと躍り出る。



「届いた……!」



天を衝く巨大ゴーレムの頭部へ会心の一撃を放つべく再び『ファングブレス』のボタンを押し必殺技バニシングブレイクを発動しようとするファングだったが……。

その前に間近に迫ったティターンの双眸が一瞬強烈な光を放ち、数瞬遅れてゴーレムの両目から熱線が発射される。


完全に不意を突かれたファングは成すすべもなく熱線に飲み込まれ……遥か下の地面へと撃ち落とされてしまった。



「え、エイジっ!?」



上から落ちてきたファングへと慌てて駆け寄っていくマシロたち。ティターンの目から発射された熱線はディプテス山の地面や木々を焼き削り有に数百メートルに至る一筋の焼け跡を山肌刻みつける凄まじい破壊力だったが……。



「……油断したな、巨大ロボと言えば目からビームはお約束か」



そんな強力な熱線をまともに浴びたファングを案じるマシロたちだったが彼女たちの心配を余所にクッション変わりになった雪の中からファングが姿を現し無事を告げる。装甲のあちこちが焼け焦げてはいるので流石に無傷とは言えなかったが。



「良かった。大事には至らなかったみたいだな」



「正直死ぬかと思った……」



頭部が弱点だとしても迂闊に近づけばまた熱線の的になるだけだ。それにティターンが積極的に熱線を使い出したら最悪の場合麓の街に流れ弾が飛んでいく可能性もある。

一刻も早くティターンを止めなければならないのだが一向に有効策が浮かばない……。



「エイジ、以前洞窟喰いダンジョンイーターを倒した力は使えないんですか?」



「ああ、アレか……。破壊力は足りるかもしれないけどこれだけデカいと倒す前にエネルギーが持ちそうにないな。それにアレは細かな加減が出来ないから派手に炎や嵐を巻き起こしてここで雪崩でも起こしでもしたら……」



「間違いなく麓のビションフリーゼの街に甚大な被害が出てしまうだろうな。エイジの奥の手も使えないとなると……」



以前巨大モンスターを跡形もなく吹き飛ばしたファングの切り札である最強形態エクストラブラッドもティターンの巨大さと街から近い雪山という条件の悪さから迂闊に使えない。ティターンは今もこうしている間にもどんどん街に迫っているというのに八方塞がりの状態だ。



(切り札は一つじゃないんだけどな……。クソッ、異世界こっちでもアレ・・が使えれば……!)



〈提案。『DRシステム』をこちらの世界で再現する可能性があります〉



唯一この状況を打破する事が出来る心当たり、騎甲ライザーファングのもう一つの切り札・・・・・・・・。異世界に来た影次は今までそれ・・をこちら側の世界で使えるなどと夢にも思っていなかったのだが『ルプス』は異世界においてもその切り札を使えるかもしれない、と言い出した。



(いや流石に無理があるだろ。変身とは訳が違うんだぞ)



〈不可能ではありません。可能性は確かに高いとは言い難いですが『神の至宝』、そしてマシロ・ビションフリーゼの協力があれば〉



(『神の至宝とマシロ……?お、おいおいまさか)



〈やってみる価値はあるかと。ご検討ください〉



『ルプス』の提案は影次からすれば無茶もいいところではあったが事実今のこの状況を打破するアイディアが他にある訳でも無く、『ルプス』の言う可能性の低い策に賭ける事にした。



「何か手があるんですね?」



「勝ち目の薄い博打みたいなものだけどな。……マシロ、力を貸してくれるか?」



「何を今更。いちいち聞かないでください」



話も聞かず二つ返事で頷いてくれるマシロの何と頼もしい事だろうか。後は『神の至宝』さえあれば条件が整うらしいのだが……。



「『神の至宝』が必要なのか?だがあれは今マシロの家の裏手でジャン殿を寝かせるのに使っているぞ。今から取りに行っても間に合うか……いや、とにかく急いで持ってこよう」



「その必要はありませんぞ」



サトラが大急ぎで下山しようと踵を返したその時、放物線を描き手の平サイズほどの純白の球が投げられファングの手元に収まる。それはまさに今必要とされていた『神の至宝』だった。



「ふむ、どうやら丁度良いタイミングだったようですな」



『神の至宝』をファングに投げ渡した人物、防寒具を着込んみ過ぎてほとんど丸状になってしまってはいたがマフラーの間から覗くその顔は影次たちも良く知る人物……もといハムスター物だった。



「ジャン!?」



「おはようございますエイジ殿。随分とまた凄い状況になってますな」



「大丈夫なのかジャン殿。鼠獣人族チューボルトにはこの寒さは相当辛い筈では……」



「ハッハッご心配無く。この通り毛皮の上からたっぷりと着ておりますので。それにこれだけの騒ぎの中で冬眠するほど呑気者ではありませんぞ」



見た目はマフラーやコートでモコモコの達磨状態のハムスターというファンシー極まりないものではあるが心強い援軍が来てくれた。



「『ルプス』、これで条件は整ったんだな?後はどうすればいい」



〈リザをお呼びください。必要なデータを渡し『DRシステム』を再現して頂きます〉



『ルプス』の指示通りジャンから受け取った『神の至宝』を起動させ本来の姿である『竜の宮殿』を出現させるファング。雪山に突然現れた巨大な宮殿の入り口には既に案内人ナビゲーターであるリザが待機しており刻々とこちらに迫る古代兵器ティターンをいつもの無表情で見上げている。

……何故ウェイトレス姿なのかはそれどころではないので触れないでおこう。



「状況は把握しております。『ルプス』様、早速お願い致します」



〈了解。これから『神の至宝』に『DRシステム』のデータを転送します〉



正直科学的な知識のないファング影次には『ルプス』とリザの間でどういう原理で情報のやり取りをしているのか皆目見当も付かなかったが興味深そうに頷いているリザの様子から察するにちゃんと『ルプス』からのデータは伝わっているようだ。



「……確認しました。『神の至宝』に内包されている魔力に加え周囲の地脈から供給しても稼働時間は持って3分が限度となりますが、宜しいでしょうか」



「十分だ。……出来るんだな?」



「相当な無茶ではありますがご主人様のご要望には十分応えられるかと」



マシロと言いリザと言い、この右も左も分からない異世界に来てこんなにも頼もしい仲間たちに出会えた幸運を改めて実感する。相変わらずの眉一つ動かない鉄面皮のまま両手でピースサインしているリザの姿は何ともシュールではあるが……。



「よし……行くぞ。『ダイナミック・ライザーシステム』起動!!」



迫りくる巨大ゴーレムティターンに向けてファングが手に持った『神の至宝』を頭上へと掲げ、叫ぶと『神の至宝』から周囲一帯を包み込むほどの眩い光が放たれファングやマシロたちを飲み込んでいき、それに合わせ雪山の中に現れた『竜の宮殿』が姿を消していく……。

否、正しくは別のもの・・・・へと変わっていく。



「……はは。もう何でもありなんだな、君というやつは」



「キヒッ、流石にアタシもヒくよこんなの……」



「おぉ……何でしょうなこの男心をくすぐられるような気持ちは」



巨大ゴーレム、ティターンの前に現れたのは『神の至宝」が姿を変え、再現した異世界の巨人。

騎甲ライザーを彷彿させる装甲、関節部から噴き出す流体因子エネルギーブラッディフォースの赤い輝き。

それは現代で『結社』との戦いの中、騎甲ライザーが使用していた巨大機動兵器の姿…そう、巨大ロボットだ。



《ダイナミック・ライザーシステム。出力、エネルギー制御、流体因子エネルギーブラッディフォース循環率、問題なしオールグリーン



「行くぜ……『騎甲巨神ダイライザー』、アクション!!」



深い眠りから目覚めた古代兵器ゴーレムと異世界の巨神。永い刻と次元の壁を越え、二体の巨人が真っ向からぶつかりあった。

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