黒野影次×異世界来訪
-異世界人、黒野影次の談-
えーっと……。
まずは自己紹介と行きたいところなんだけど申し訳ない。只今絶賛取り込み中なので少し待ってほしい。本当にすみません。
「――では改めて聞くぞ」
「何なりと」
「名前は?」
「黒野。
「クォーノエージィ……随分変わった名前だな」
失礼な。何か発音変だし。
「年齢は?」
「22です」
「ほう、私と同じか。そうは見えないな」
老けてるって言いたいならハッキリそう言ってくれ。今更傷つきはしないから。
「出身は?」
「S県K市」
「……聞いたこともないぞ」
全国のS県民に謝れ。そこまで田舎じゃないぞ、多分。
「では最後の質問だ。君は、ここで何をしていたのだ?」
「気が付いたらここにいました」
「なるほど。……うむ、よくわかった」
おお、やっとわかってくれた。流石に同じ問答を7回も繰り返したら当然だよな。よかったよかった。
事情を理解して貰えたのなら早速こっちに槍を向けている怖い顔した兵隊さんたちをどうにかして……。
「お前たち、この者を拘束しろ」
「何で!?」
まぁ、要するによくある類の話です。
気が付いたら右も左もわからない異世界にいた……よくあってたまるかこんなもん。
原因は……まぁ心当たりが無い訳じゃないが別の機会にします。何よりこの連中に言ったところで理解してもらえるとは思えない。あ、手枷かけられた。
「副隊長、どうしますか」
「……仕方無いな。ここに縛り付けて置く訳にもいかないだろう。モンスターのエサになってしまう」
え、モンスターとかいるのか? 益々ファンタジーって感じだ。あまり嬉しくはないけど。
「連れていく。処遇については街に戻ってから隊長と相談することにしよう」
処遇て。いくら何でも理不尽過ぎるだろ。そりゃあこの人達からすれば俺はどこからどう見ても怪しい……。
ああ、無理も無いのかチクショウ。
「とある事情」により見覚えのないこの森の中で目を覚ました俺の目に真っ先に飛び込んできたのは空に浮かぶ大きな月だった。
真昼の月。まぁそれだけならば別に何も珍しくはない話なんだけど……月は何故か三つあった。
しばらく茫然と空を見上げていたら今度は茂みから俺の身長より大きな動物が飛び出して来て危うく正面からぶつかるところだった。
いやぁビックリした……。耳が長かったしモコモコしていたしウサギのように見えたけど、あんなデカいウサギっていたっけ?
他にも色々、紫色のカブトムシが木に止まっていたり、その木の枝先にスイカが生っていたり、そのスイカを啄む野鳥がブモーと鳴いたり、もう滅茶苦茶だ。多分一人じゃ無かったらとっくにツッコミ疲れで声も枯れていたと思う。
そんなこんなでしばらく森の中をふらふらと歩きながら周囲の珍妙な生態系に混乱しすぎて段々楽しくなってきたところで、鎧姿の集団に取り囲まれてしまい、現在に至る。
「あのー……」
「何だ?」
「聞きたい事が。いいですか?」
「見逃してくれ、というのは無しだがな」
「そりゃ残念、じゃなくて。どこに連れて行く気ですか」
「なに、別にそう遠くまでではないよ。安心してくれ」
そっか、なら安心。
「この近くに未開発のダンジョンが発見されてな。我々は今からその調査に向かうところだ。ひょっとしたら凶暴な魔獣や性質の悪い野盗が住み着いたりしているかもしれないが」
前言撤回。安心材料は一体どこですか。
「すまないが君も付いてきてもらうよ。なに、まだ君は罪人かどうかもわからないんだ。無下にはしないよ」
「中途半端な気遣いだな……」
「さて予期せぬ事で予定より随分時間がかかってしまったな。先を急がねば」
お急ぎでしたらどうぞ俺の事などお構いなく
「さぁ行くぞ。調査には半日も掛からない。終わったらちゃんと街に連れていってあげよう」
いやいや結構ですお構いなく本当にお構いなくあっ力強いですねちょっ本当にお構いなく!!
〈スキャン完了。データに該当する地形、無し〉
(やっぱ別の世界って事なのか?)
だよなぁ……。だって空に月が三つあるし。ここは森のようだけど……木も鳥もたまに見かける動物や昆虫も知っているものとはどこか微妙に違う。
そもそも2mサイズのウサギとか日本にいないと思う。モフりがいありそう。いや無理、牙凄ぇ怖い。
(原因はやっぱり
思い当たる節と言えばたった一つしか無い。とは言えこうして生きている事だけでも幸運と思うべきなのか、右も左も分からない世界に放り出されて不幸だと嘆くべきなのか。
〈肯定。装置の暴走の結果次元の歪みが発生したと推測〉
(
「どうした? 何をブツブツ言っている」
「えっ?あ、ああ気にしないでください。ただの発作です」
「そ、そうか……。お大事にな」
さっき俺を取り調べ(尋問?)した金髪の女性に何故か憐れむような目で見られた。周りの兵士たちの態度からするに彼女がこの連中のボスらしい。
騎士団云々、とか言っていたから騎士なのだろう。鎧を着てるし槍とか剣とか持ってるし。昔遊んだRPGゲームみたいだ。
本当にこんなファンタジーな世界っていうのがあるんだな……。いや、ある意味
(今更だけど言葉が通じるのは何でだろうな? さっきチラッと連中の荷物覗いてみたけど文字も読めるし)
〈別次元に転送された際に生じたバグの一種と推測。現段階では情報が不足。憶測の域を出ないかと〉
(こちらとしては都合が良いし助かるけどな…しかしどうする?このまま大人しく連れ回されるのもどうかと思うが)
〈システムはいつでも使用可能。強行突破しますか?〉
(それも良いかもしれないけど……この世界の情報が欲しいな。様子を見よう〉
「どうした。誰と喋っているんだ?」
「えっ?ああ、見て見ぬフリしてて下さい。ただの持病です」
「そ、そうか……早く良くなるといいな」
何故かとても優しい目でポン、と肩を叩かれた。優しくしてくれるなら今すぐ解放してくれたほうが嬉しいんだけどな……。
__________________________
-ダメだ、もう止められない……-
-早く逃げろ!! このままじゃあみんな飲み込まれるぞ!-
-…………先に行ってくれ-
-おい……、何言ってるんだよ?お前まさか-
-誰かがこれを何とかしないといけないだろ。いいからさっさと行け。間に合わなくなるぞ-
-だったら俺も一緒に……!-
-後の事、頼むからな-
-……っ! 待てよ! どうしてお前だけ……!-
-影次っ!!-
__________________________
「………さい、起きなさい!」
「ふな?」
ああ、いつの間にか寝てたのか……。ウトウトしてたらいつの間にか完全に落ちていたらしい。自覚症状は無いが思ったよりも疲れていたのかもしれない。
「随分と肝の太い賊ですね」
「賊じゃないって」
(夢……じゃないよな。じゃあやっぱり
さっきのリーダーっぽい金髪の女性とはまた別の、今度は銀髪の女の子がこちらを睨んでいる。随分小柄だけどこの娘も兵隊なのか? 社会見学……という訳でもなさそうだが。
「お嬢ちゃんはお手伝いか何かかな」
「この場で消されたいのですか?」
どうやら違ったらしい。ほんの軽口のつもりだったんだが少女の目つきが益々険しくなり持っていた杖を突き付けられる。
他の連中と違い鎧のようなものは一切着ておらず代わりにダボダボのローブを羽織って魔女みたいな帽子を被っている。見たまんまなら魔法使いか何かなのかな。という事はここは魔法とか存在する世界なのだろうか。
「まさかな」
「消されたいようですね」
どうやらまた違ったらしい。少女の杖の先端が光りだしたので取り合えず謝罪しておく。
そうか、魔法とかアリな世界か……つくづくファンタジーだな。
「目的地に到着です。降りなさい」
「お構いなく。ここで留守番してる」
「降りなさい」
また杖を向けられたので素直に降りる事にする。……で、ここは一体?
「洞窟?」
「ダンジョンも知らないのですか?」
「知らないです」
「それが本当ならどれだけの田舎者なのやら……」
銀髪娘の冷ややかな視線はさておき、連れてこられた場所に改めて目を向ける。……うん、洞窟だ。
あれからどれだけ森の奥に進んで来たのかは分からないが深い森の中に不自然に開けた空間があり、俺を連れてきた兵士(?)達はここで馬車を止めていた。
「あの洞窟……ダンジョンだっけ。あの中に何かあるのか?」
「それをこれから調べに行くんですよ」
岩壁に大きく空けられた穴。おお、本当に洞窟だ。魔法がある世界ならスライムとか居るんだろうか。不自然にアイテムが入った宝箱とか設置されているんだろうか。奥にボスでもいるんだろうか。
「ついてきてください。サトラ……副隊長達はもう先行しています」
「俺も?」
「本来ならここに置いていくのが当然ですが今回は調査目的で来ているので見張りに割くほどの人員がいないんです。つべこべ言わずに来なさい」
人手不足なのはどこも同じか。調査に不審者を連れていくのはどうかと思うが、少ない人員を監視に割くよりはマシだという事だろうか。正直どっちもどっちだとは思うが。
「言っておきますが妙な真似をすれば容赦はしませんからね? 自分の身が可愛かったらせいぜい大人しくこちらの言う事を聞いていることですね。そうすれば最低限の安全は保障しましょう」
「その最低限が具体的にどれくらいのものなのかを是非聞かせて欲しいんだけど」
案の定というか何というか、銀髪の少女は何も答えてはくれなかった。
side-???-
「おやぁ? 誰かがここに向かってきているようだねぇ」
日の光も射さない深い闇の中、ダンジョンの最深部にて二つの影が人知れず暗躍していた。
「これは好都合。わざわざ付近の街まで出向く必要も無いという訳だ」
「キヒヒッ、
片方の女性の声はダンジョンの奥地に散乱していた「モノ」を一通り回収し終え、もう片方の男性の声もこちらに近づいてくる騎士団の存在を察知し、それぞれ上機嫌な声を上げる。
「さぁ、では歓迎の準備をせねばならないな」
「それじゃアタシは先に戻ってるよ。あんまり遊び過ぎて素材を痛めたり減らしたりしないようにねぇ?」
「さぁて、それは少々自信が無いが、まぁ善処はしよう」
女性の声と気配がその場から消え、残された男はこれから何も知らずにやってくる者達をどうやって出迎えようかと笑みを浮かべる。
光の無い闇の中で響く歪な笑い声。影次達が目指すダンジョンの奥深くでドス黒い悪意が虎視眈々と獲物の来場を待ち構えていた……。
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