オードロブ初陣/復讐のぶつけ方

 

「止まれ!警察だ!」


「迷子の迷子の……」


 その男は、ゆっくりと歩いていた。

 拳銃を向ける警察へ向かって、ゆっくりと。


「止まらなければ撃--」


「腐れ警察共ォ!」


 ドクロの剣がなぎ払われた瞬間、警察の胴体がすっ飛んだ。

 その男は死体まで駆け寄ると、無造作に踏みつけ始めた。


「てめえらが!無能だから!無能だから!保身という迷路に迷子ですカァ!?」


『オードロブ、行クゾ。』


「待てよ、せっかくなんだ。もう少し楽しませろ。」


 オードロブこと、元江角えすみ 順也じゅんやは深くドクロの剣を構えた。


「奥に何人いる?」


『12人。』


「そいつらが一瞬でスパッと切れるとこ……見てみてぇ〜」


 歪みきった能面のような笑みを見せたオードロブから、黒い血管が浮き出過ぎる。


『好キナダケヤレ。オ前ガ復讐ダト思ウナラ、オ前ノ力は増幅スル!オ前ガ復讐心ヲ抱ク限リ!力ハ尽キナイ!力ヲ振ルエ、オードロブ!』


「イヤッホオオオオオオオオ!」


 その剣は、黒々とした光り、次にオードロブが奮った瞬間。

 たったその一瞬--


 、斬れた。


 建物は真っ二つに割れ、それに巻き込まれた12人の警官も、同じように真っ二つに割れた。


「だって仕方ないよなあ!職務を全うしないやつは死んでよしィ!」


 高らかに悪魔のように笑うその姿に、もう人間だった面影は無い。

 人間の形をした、化け物であった。


『斬撃ハマダ出セナイカ。モット力ヲ貯メル必要ガアル。オードロブ。』

「じゃあ、さっさと俺が復讐したいやつを探してくれよ。お前は俺なんだろ?」

『ソノオ前ガ復讐シタイ奴ノ顔ヲ知ラナイダロウ。』

「チッ、萎ぜええええ……」


『我ヲ引キ摺ルナ。』


 ガガガガと引きずりながら、ゆらりゆらりとオードロブは歩く。


「監視カメラのデータがあるとすれば……警察庁か。無ければ……無能な警察庁を叩き斬るだけだ……ビャハハハハハハハ!」


 目の前の障害は斬れば通れる。


 ピッ--


 たった一振で、目の間の瓦礫は斬り裂く事が出来るのだ。


「おい、俺の剣よ……名前なんて言うんだ?」

『名前ナドナイ。』

「そうかい。とりあえず、警察庁行くかぁ……」


 常人ではありえないが、今やそれが出来てしまう域に達していた先程まで人間だった男は、とうとう日の目を浴びた。


 だが、そこに居たのは既に駆けつけていた警察の面々。

 道路はパトカーによって封鎖され、そこには何人もの警察官らがいた。


「え、江角……!」

「……?」


 そこに居たのは、かつての同僚・菊野と上司・市川だった。


「江角……お前、何やってるんだ!」


「……?」


 叫ぶ菊野に対して、当の本人は全く分からないという感じで首を傾げていた。


 そして、市川がすぐに拳銃を構えた。


「い、市川さん……」


「江角、お前に何があったかは知らねえが……気にかけれなかった俺のせいだ。お前の闇に気づけなかった俺のせいだ。お前に、お前のことを見てやれなかった俺のせいだ……!」


 そう言って、市川は狙いを定める。

 そして即座にその引き金を引いた。


 パァン


「的はずれなんだよ」


 銃声に紛れて、ボソッとそんな声が聞こえた気がした。

 声のした方を向いても、江角はただ口を開かずに首を傾げているだけ。


 その剣の柄を構えると、そのドクロが射線上の銃弾を噛み切った。


『オイ、コンナモノ喰ワセルナ。』


 それを聞いたオードロブがニッと笑った。


「……誰、お前。」


「江角……?」


 今度ははっきり聞こえた。


「いや知らねエー!誰だよ!」


 おもむろにオードロブは菊野を指さし、剣の柄を口元に近づけて話し始めた。


「もう1人の俺よ、こいつらを知っているか?」

『知ラヌ。』

「だよなア?」

『知ッテイルノハ、邪魔ダトイウコトノミダ。』

「だよなあ!よく分かってるじゃないか、もう1人の俺って言うだけあるわァ〜。」


 ビャハハハハハハハハハッハハハハハ!

 と高らかに笑う、笑う、笑う。


 ひとしきり笑うと、オードロブの顔つきは能面のようになり、剣を構えた。


「そういうことだ。」


 オードロブの目付きが変わる。

 その瞬間、息が張りつめるのを感じた。


「撃て!撃て!」


「残念無念また来世ェ!」


 自分に弾丸が当たることもお構い無しに、一歩踏み込み、その剣を振るう。

 その瞬間に剣が伸び、射程距離を無視して警官を一振で、惨殺していく。


 市川はもちろん、菊野にも容赦などは一切無し。

 オードロブにとっては、無意識に踏み潰される蟻に同じである。

 果物を半分に切ったように、スパッと簡単に斬った。


(俺が……俺がアイツを止めてれば、こいつはこんなことしなかったのか……俺はこいつの友達じゃ、なかった、のかな……)


 生きているのかどうか分からぬ夢の中、浮遊する意識の中、菊野はうっすらとそんなこと思った。


 無惨にも真っ二つになった死屍は、目の前に累々と散らばった。


「手応えないねえ。……さっさと斬りたいもんだ!俺の弟を死に追いやったやつによォ!」


 剣をギタリストのように携え、エアギターをしながら、孤独に踊り歩くその姿は、自分という世界にどっぷりと浸かった純粋無垢な子供のようであった。


 パトカーが道を塞いでいる。

 邪魔だ、斬ればいい。


 道路の真ん中を堂々と歩いていると、クラクションが鳴り響いた。

 邪魔だ、斬ればいい。


 歩いていると絡んでくる男共。

 邪魔だ、斬ればいい。


 異質さを見るように嫌悪する女共。

 邪魔だ、斬ればいい。


 隠れるように怯える親子。

 邪魔だ斬れば--



『オイ、オードロブ。面白イ敵ガ見エタゾ。』



「!」



 エンジンを蒸す音に、今更気がつく。



 フルスピードのバイクに突撃されるも、ガードできずそのまま突進される。


 そのままオードロブは回転しながら地を這い、吹っ飛んでいった。


「ふぅー……バイクは、傷ついてねえな。でなきゃ、また怒られる。」

「大丈夫ですか、今のうちに逃げて。」


 その2人の見据える先にいるのは、黒い血管のようなものがバキバキに浮き出ている"人間の形をした何か"であった。

 は、剣を持っていた。

 その剣は真っ黒な刃を持ち、その剣の柄の先には目が赤く光る骸骨というまるで悪魔の剣である。


「おー、見たことある!だってよ、なんか怪人と戦ってたやつだよな!なんでこんなとこに……あー!そういうこと!」


 さて、これが痛々しいコスプレだと願いたいところだが……彼が通ってきたであろう道には、血の惨劇が垣間見て取れた。


 その上、バイクで轢かれたことなど気にもとめないようなリアクションである。


 瓦礫をかき分け、目の前に現れたその男は笑いながら沢渡と京極を指さした。


「おいアンタら!俺と戦おうってのか!見ての通り、俺はただの人間だぜえ……?ビャハハハハハハハ!」


「お前のようなやつが人間だと冗談は寝て言え。クールじゃない。」

「そもそもフルスピードのバイクを直撃されて生きてる奴は人間とは言わん。お前はバケモンだよ。」


 沢渡はレーザートンファーを、京極は2本のレーザーサーベルを構える。


「悪いが本気で行くぞ。」

「ああ。まだ沢渡との決着が、ついてないのでな。」

「息抜きにはちょうどいいか。」

「同感だ。」



 ブランクを取り戻すのに、昔の血気を思い出すのに、ちょっと付き合わせるとしよう。



 ♢♢♢



「なるほど、あれが"魔剣"か……」



 病院の屋上、干された真っ白いシーツがたなびく中で、1人の青年がスマートフォンを片手に、今にも戦い始めそうな魔剣の所持者を眺めていた。



「さて、一体どんなものなのか……」



 深く青い瞳を持ち、白茶色の髪が目立つ。

 柊サイが、魔剣のデータ収集をするべく、そこにいた。


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