4章 怪人フェルゴールと魔剣の復讐者
願った悪魔を手に取って
東京都
ガーディアンズ日本支部
とある場所
「冨士 若菜、聞こえるか。」
「はーい……聞こえてますよ。」
上裸のまま寝台に寝転がっている俺。
麻酔はされてないけど、動けない。
……
……動けるわけあるか!
大の男の大人二人に見られている……。
いや、別に変な意味じゃない。
一人はガーディアンズ?の医者で、もう一人はそのガーディアンズの支部長だそうだ。
そんな二人がどうして俺のそばにいるか。
(どうしてこうなったんだっけぇ……?)
冨士 若菜は回顧する。
自分はただの一般記者……だったはずだ。
大学生時代、夢がなかった俺はマスコミの報道やSNSに触れる機会があり、それについて「うわ、ネタに追われてでっち上げとかあるんかな?」とか「人に叩かれたりすんのかな」とか色々思って避けていた結果……記者になるとか……当時就職氷河期っぽいこともあって、決まればいいやっていう気持ちで就職したハズだ。中退もしたしね。
それがなーんでこんなところにいて、こんなことになってんだ。
何をどう転んでこうなってしまったんだ……
ただうざいだけの先輩風吹かせる先輩と、なにかとパシリ扱いしていざとなったら役に立たない先輩に連れられて危ない場所に行ったら、元女優の人にがっつく二人を後目にすごい服着てんなーって思ってたら先輩二人が死んで、仕事クビなって、この支部長って人と話したらこうなるのか?
なんてことだよ!
何をどうしたらこんなことになるんだ!
「なんつー顔してんだ……。」
ああ、涙が出る……。
変な意地張んないで、ちゃんと友達とか彼女とか作っとけばよかった……。
「お気になさらず。花の無いキャンパスライフと自分の悲しい社畜人生を振り替えっていただけです……。」
「……まあ、なんだ。がんばれ。」
ああ、優しい人もいるもんだ……。
ふと、白衣を来た医者先生の左薬指に結婚指輪が見えた。
なんか悔しくなったっていうか、イラッとので、ムスッとした顔してやる。
「お前に適性があるかが、ここで決まる。」
出た。
そこにおっかない支部長さんが話しかけてきた。
「契約書で既に確認しているとは思うが、失敗すれば……最悪死ぬ。成功すれば、命懸けになるが高収入と人生逆転のチャンス。」
(やっべえ……やっぱちゃんと見とくべきだった!ソシャゲのノリでついすっ飛ばしちまった……!いや、いやいや……いくらなんでも死ぬなんて、その確率が俺に当たるわけ……)
ダラダラと汗が急に出てきた。
「幸いにも日本支部では出ていないが……副作用にて、身体が不自由になる可能性も充分に有りうる。どんな結果であれ安心しろとは言わないが、どうか心の拠り所として欲しい。」
(前言撤回。やっぱり、不安しかないんですけど……!)
「じゃ、いくぞ。」
「待て待てまってまてえたま待って!」
「どうした、注射怖いのか?」
薬研が半ば呆れたように冨士に尋ねた。
「いや、その……心の準備が……。」
「男がガタガタ言うなよ……。」
「あ、先生良くないですよそれ!今の時代そんなこと言ってると……」
「……。」
シャコッ、シャコッ、シャコッ
「えええ!?ちょ、ちょっと……!何コレ!?何コレ!?」
驚くのも無理はない。
冨士の寝る寝台からベルトが現れ、冨士の四肢を固定したのだ。
「動かれて失敗した時に起きる影響を防ぐ為だ。許してくれ。」
「え--」
プスッ
「あぎゃあああああああ!」
薬研が注射を冨士に刺した。
「うっ!ぐっ、あっ……!」
体が中に入ろうとするものを嫌悪感なんてれべるではないぐらい、かつてないほどに拒んでいることを感じる。
「うああああああああああああああっ!!」
冨士は、体の内で急速に細胞が変化するように、何かが動き回っているのを感じていた。
体が進化していることを感じる。
同時に全身の血管が浮きでて、更にはダラダラと危険信号を発する冷や汗がドッと溢れ出た。
「ぐぎぎぎいいいいいいいあああああ!」
自分の意思関係なく、体の拒絶反応により体が暴れ出そうとするせいで、寝台がミシミシと音を立てた。
「あ、が……あ、があ……!」
「頑張れ……頑張ってくれ……!」
薬研が祈るように富士を応援する。
「フーっ、フーっ……!」
やがて浮き出た血管が戻ったのを確認した薬研が冨士の元へと駆け寄った。
ベルトの拘束を解除し、体が自由になった冨士はだいぶ眠そうにしていた。
今にもベッドに落ちて倒れそうな冨士を、薬研が支えた。
「終わった、終わったぞ!よく頑張った!よく頑張った……!ひとまず、今はゆっくり寝なさい。」
「ふぅっ……」
と一息吐いて、寝台で寝ようとしたその時だった。
「いってえええええええええええあああああ!んだよこれ!いてえええええ!」
「は?」
冨士の目が思いっきり覚めて、先程までなかった痛みに気づいて叫んだのだ。
驚きで思わず声を失った鳳華院と薬研。
「こ、これは……一体……。」
「こ、ここまで
「うう……全身筋肉痛みたいじゃん……何コレ……」
「ひとまず適性検査は成功したようだ。あとは武器だが……結果から見て面白いことには、なりそうだ。」
反応を見た鳳華院は思考を巡らせる、冨士の様子を見ていた。
♢♢♢
東京都
拘置所
「……」
江角の光の無い目は、天井を見上げていた。
何も無い天井を見上げていた。
やがて血塗れていた綺麗な手を天に挙げた。
「……なんにも掴めない、手。」
空っぽな気持ちが上辺に来る反面、その下には憎しみが溢れ出ようと暴れている。
「いっそ……このまま、
虚ろな呟きは響かない。
『イイ、実ニイイィ……』
声が聞こえる。
『強イィ怨念ヲ感ジルゾォ……』
「誰だ……」
江角は力なく姿なき声に問いかける。
「どこにいる……!」
『
すると、声の主に共鳴してか江角の心臓の位置が黒く光る。
その光は、目の前の地面に伸びていく。
光の伸びた先に黒い円ができ、その円はどんどん拡がっていく。
『オマエノ心ノ奥ニアル、"望ミ"ガ聞コエタ。』
声は耳からではなく、心の内から聞こえてくるようであった。
「望み……だと?そんなものは、ない。」
『存在スル。オ前ガ、自身ノ望ミニ蓋ヲシテイルダケダ。』
すると、黒い円から不気味な剣が江角の目の前に現れた。
真っ黒な刃、そしてその剣の柄の先には目が赤く光る骸骨の装飾があり、その骸骨がカタカタと口を動かして話していたのだ。
『オマエガ初メテ手ニシタトキ、初メテ我ハ剣トシテ具現化スル。』
その剣は、相も変わらず江角の心に語り掛ける。
「剣が……喋った、だと……」
『重要デハナイ。重要ナノハ、オ前ガ我ヲ手ニスルカドウカデアル。』
淡々と、抑揚なく剣は話す。
「どうしておまえはここにいる……!」
『オ前ガ望ンダノダ。オ前ノ闇ヲ具現化サレタ
それを聞いて、江角が一瞬怯んだ。
言葉が……震える。
「おまえは一体なんなんだ……」
『我ハオ前ダ。オ前ノ心ダ。心ノ闇ソノモノダ。』
ゴクリと江角は息を飲む。
自身がボロボロの心持ちでありながら、この剣に対する疑念はあった。
だが、大きなものではなかった。
ちっぽけ過ぎるものであった。
恐怖はなかった。
理由は、おかしくもシンプル。
恐怖を感じる間もないほどに、その剣に興味を抱いていたからだ。
『オ前ハ、コノママデイイノカ?何モナシエヌママ、タダノ
「俺の、目的……」
いや、それ以上に--
『我ヲ取レ!サスレバオ前ノ望ミハ果タスベクシテ果タサレル!』
この剣に、魅了されていた。
『サア、ドウダ。オ前ハドウスル。復讐ヲ望厶カ、或イハ家族ノ死ヲ無下ニスルノカ?』
「どうして、それを……」
『言ッタハズダ。我ハオ前ヲ映ス鏡ダト。』
心を痺れさせる言葉の数々。
剣の言葉に、江角は自身の心が共鳴しているようにも感じていた。
『オ前ノ心ハ、充分ニ理解シテイル。』
口元には、歪んだ笑みが浮かんでいた。
「俺は……」
家族の笑みが浮かぶ。
淳の……弟の顔が浮かぶ。
「俺は……!」
どうでもいい人間がのうのうと生きている姿が浮かぶ。
「俺は!」
心が闇に染る。
ガッと、その剣の柄を握った。
その瞬間、数多の黒いハリガネムシのような細いものが江角の中に入っていく。
「う……ガ!あああああああああああああがああああああああっっっっ!!」
今まで経験した事ない、うちに虫が入り込み、暴れるような痛みが全身の節々へ襲いかかる。
『名ヲ捨テヨ。過去ヲ捨テヨ。今ヲ捨テヨ。未来ヲ捨テヨ。振リ返ルナ、前スラモ邪魔ダ。闇ヲ見ヨ。力ダケヲ振ルエ。目的ヲ果タス為ノ力ヲ得ル為ニ。』
詠唱する黒い剣へ答えるように、江角は声を上げた。
「俺の……望みハぁあああああああああっ!」
江角は叫ぶ。
「淳ヲぉおおお……親父ヲォおおお……母さんヲォオオオ!見殺しにしたこの世界ォオオオオオオオ!!」
痛みはどんどん増していく。
「絶対に殺してやる!」
もう目は見えていない、江角自身の意思と胆力だけで立っており、剣の柄を握って、地面から引き抜こうとしていた。
「アぎアがアぐアア゛ア゛ア゛ア゛ガア゛ア゛アガア゛ア゛ッッッ!!!」
……
倒れていた江角がスっと立ち上がった。
江角の瞳に……もう光はなかった。
真っ黒く、人の瞳よりも、墨よりも黒い瞳であった。
「名は捨てる。俺は、俺を……捨てる。」
淡々と抑揚ない声で、江角は口を開いた。
『新タナ名は……ソウダナ、"オードロブ"。』
「俺はオードロブ、復讐の戦士。」
変わり果てた江角は、目の前の檻を斬った。
『デハ、ドウスル。"オードロブ"ヨ。』
近くには、江角の叫びを聞いて駆けつけた警察官が来ており、全員が拳銃を構えていた。
「そうだナ……」
ザシュザシュザシュ
ドサ、ドサ、ドサ……
江角は雑に斬り捨て、剣を担いだ。
「まずはこの国の人間共から、そして世界だ。殺してやる。全部殺しきってやる。ビャッハッハッハッハ!」
その顔には、笑みを浮かべていた。
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