side ガーディアン
鎧の怪人がいなくなった、跡地。
村主は力なく崩れ落ち、消えてゆく自分の父の亡骸を眺めていることしか出来なかった。
「父さん父さん!ううううう!」
彼はただ、自身の無力さを嘆いていた。
「村主」
芹澤は何も言えなかった。
かける言葉が見つからなかったのだ。
慟哭するその背には、悲しい覇気があった。
「くそっくそっくそおおおおお!俺に!俺に力があれば!俺に俺に!」
誰も話さない。
皆が戻るべき場所へと向かおうとしている。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
彼が涙を拭いて、立ち上がった時にはもう父の亡骸はなく、黒いグラッヂだけが太陽に向かって昇っていった。
♢♢♢
「おや
「これは王城様に、鳳華院様。お揃いで。」
現れたのは、警視総監
そのSP、
その彼を待っていたのは、ガーディアンズ日本支部の支部長にして由緒ある鳳華院一族の当主、
その秘書にして護衛、
そして今やわずか数年で世界的企業に成長し、かつガーディアンズ日本支部に武器の提供をしている超新星の大会社王城コーポレーション会長にして開発者
その傍にいるのは、
広い会議場に対して、わずか6人。
その中でも会議に参加するのは、3人だけだ。
「時に王城、お前の娘がこんなものを持ち出していたぞ。」
そう言って、テーブルの前に
「いやあはは。流石だねえ、鳳華院さん。いつ取ったんだい?」
飄々とした口調で、細い体で肩を竦めて言う彼を見据えた。
「僕としてはぜひ使って欲しいのだけど」
「私にも面目はあるのでね、街はもちろん、人を殺す訳にはいかん。」
「尊い犠牲じゃないですか。犠牲になれているかを知っているか、知らないかという違いだけですよ。」
その返答を聞いた鳳華院がため息を吐いた。
「相変わらずだな。」
「悪いけど、父の影響でね。そう教育されたんだ。自分の鏡になるようにって、こんな名前つけられたけど、その自分を越える大天才で、自身の立つ瀬が無くなったけどね。」
くつくつと笑う王城。
さて、談笑は終わりだ。
「ところで、こうやってガーディアンと怪人を見るのもいいけどああ、丞厘さんはいなかったね。」
そう言いたげに笑みを止めると、王城は二人をそれぞれ指差した。
「問題、お前ら。」
そしてまた作り笑いを浮かべて、言いたいことを言う。
言わなければならない、このことを。
「怪人のこと知られちゃダメでしょ。」
笑みを浮かべてそう言う王城。
(聞かれて当然か。)
この三つ巴の共闘協定。
「その点に関しては、どんな形かはともかくいずれ公に知られることは懸念されていた。地球のテクノロジーを吸収して利用されることもだ。突然のことではあったが、対策はされていた。」
「その結果が、あれだ変なそのマスコミ関係が動いたんだよね。」
「まあ、いいさ。そっちは問題無いし。流石にアメリカ本部の決断なら多少仕方ないとなる。君が
「そういうことだ。」
「っていうか、君以外に適任もなかなかないと思うけど特に日本人ならね。」
そして王城は視線を丞厘に移した。
「問題は君だ。」
言い放つ目に光はない。
笑みを浮かべているが、その目は丞厘にゾッとするような恐怖を与えた。
「どうして下っ端一人が独断で勝手なことするんだろう。『監督不行届』ってやつ?」
「その男はもう捕らえてあります、今頃は獄中です!」
返答を聞いて、王城は露骨なため息を吐いた。
「まあ、いいや。」
簡単な理由だ。
求めていた答えじゃなかったから。
ただそれだけ。
「あのさ。今だからいいけど、その勝手なお前の部下のせいで、情報がリークして面倒なことになっていたらどうしてたの?」
声が冷たい。
「そのせいで、武器だどうのこうのって言われるのが一番メンドクサイんだよ。」
その光の無い瞳は、丞厘から目を離さない。
「じゃあ武器提供しませんって言ったら、ガーディアンズどうなるかって話よね。もっと高いお金払って、輸入する?それもバレたら色々問題ありそうだけど。」
王城は言葉を続ける。
「まあそれもおいおい解決するだろう。ガーディアンズが公に怪人の存在を公表したからな。」
そして、
「無能な
丞厘は考えていた。
決死に考えていた。
どうやってこの場を諌めるかを。
どうやって目の前の王城を諌めるかを。
やがて、王城は屈託のない笑顔を見せた。
「ああ、ごめんね。口が悪くなっちゃったね。」
そして、王城は鳳華院の方を見た。
「鳳華院さん、なにかある?」
「できれば、一般市民が戦場に入らないよう務めて欲しい。」
冨士の一件があったので、これは是非ともお願いしたかった。
ガーディアンが言っても、現状説得力がないのは確かだった。
「だってさ。じゃ、あと帰っていいよ。」
ぴっぴっとさっさと消えるよう、手で仕草をする。
「くし、失礼します」
(そんなことだろうな。)
鳳華院が立ち上がり、その場を去ろうとしたその時だ。
「鳳華院さん、お願いがあるんだけど。」
笑顔でそう言う王城。
鳳華院は、正直あまりいい予感はしていなかった。
「俺は帰れないのか。」
「そういうとこまで沢渡君に影響されないでくれよ。僕1回反感食らってるんだから。」
乾いた笑みを浮かべる王城。
これが本音なのか、演技なのかは分からない。
「ふっ、そう言うな。それで、お願いっていうのは?」
すると王城は、楽しそうにこう言った。
「試作で作った機械兵光式機動レーザーマシン。十体くらい、戦場に出せない?」
♢♢♢
「う!」
ゆっくりと目を開けると、眩しい光が目に入る。
「諸星」
「諸星!」
「諸星さん!」
次にはっきりと目に映ったものがあった、京極と北条、そして三上だ。
「ひとまず、復帰は出来そうですよ隊長。」
目が覚めての一言がこれだった。
笑みを浮かべた諸星を、京極も笑みを返し、肩を抱き寄せた。
「よくよく生きてくれた!」
「はい」
京極が感極まっていたのが、十分伝わる。
布山を失ったからこそ、その言葉は重いものだった。
「北条さんも、無事ですね。よかった」
「お前の、おかげだ。」
「そうです。諸星のおかげです。」
感謝する京極の言葉が心に沁みる。
京極の言葉に頷く北条は、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
十分だ。
助けたかいがあるってものである。
「はい。副隊長ですから。」
三上がなんて声をかけるか悩んでいるようだったので、諸星が自分から話しかけた。
「三上、布山のこともあっただろう。ありがとう、頑張ってくれて。」
「もう、目の前で仲良い人死ぬのごめんなんです!よかった諸星さん!」
腕で顔を覆って、思わず泣いてしまった三上。
すると諸星の目の前をある人が通った。
「ちょっと待て!堀田!」
三船の声が聞こえた。
「大丈夫ですって。お、諸星さん!復活ですか?」
堀田だった。
鎧の怪人に結構な怪我を負ってしまったが、もう動こうとしてした。
っていうかもう動いていた。
「晃平くん、その怪我なんだからあんまり動かないようにね。」
「いや、動いてないと落ち着かないって言うか諸星さんは目が覚めたばっかりなんですから、動いちゃダメですよ?」
「いつからてめえは医者になったんだ。」
現れたのは薬研夫妻。
堀田の頬から、ツーと冷や汗が垂れる。
「げ」
「何動いてんだ君は!大人しくしてろって言ったろ!」
「ごめんなさい!」
謝りながら即座に毛布に包まれる流れるような動作とその姿に、三船思わずぽかんと口を開けて目で追っていた。
そして、薬研が諸星を見る。
その彼は、悪いことをしてないのに巻き込まれた人のように、思わずビクッと体を震わせていた。
「目が覚めたようだな。君も動くなよ。」
「大丈夫です。僕はまだ動く気ないです。自分の体のことくらいわかってます。せっかくだし寝ます。すぐ寝ます。ここ最近、ちゃんと寝れてなかったので」
じっと、男ふたりが見つめ合う。
正直諸星にとってはこの数秒がしんどかった。
「ならいいそうだ。京極。」
「なんです、薬研さん。」
「沢渡が呼んでた。トレーニングルームで待ってる、だと。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「僕はパシリじゃないってのに沢渡め。」
京極は立ち上がり、諸星の肩に手を置いた。
「まだ無理はするなよ。」
「ええ。ありがとうございます。京極さん。」
そして踵を返して、病室を出ていった。
(さて、あいつのところに向かおうか。)
♢♢♢
「突然呼び出すとはなんだ、沢渡。」
そこには全身に重りをつけ、トレーニング用の武器を構えて動いていた。
「よお京極」
京極に気づいた沢渡が、京極を見据えた。
「なあ、鎧の怪人のことどう思う。」
「化け物だな。シニガミ以来の、な。」
「鎧の怪人の強さは会う度に、強くなっていたのか?それすら分からないほどに、俺とアイツとで『差』がある。」
「俺は弱くなったのか。昔と比べてどうなったのか。俺やお前がアメリカ本部の奴らと競ってた頃より、隊長になる前より弱いのかそれすら分からねえ。今から誰かアメリカの誰か日本に呼んでくれって言っても無理だろうな。」
お互い理由は異なっていても、結果を出すためだけに戦ってきた。
その結果を出すためだけに、強さを求めた。
怪人の倒すための力を。
自分だけの事を考えて戦った。
「ただ分かるのは、鈍くなってる。あの時は背負う時がなかった。自分でいっぱいだった。だが、今は違う。お互いに、背負うものがあるだろう。それを守りながらも、俺は自身の底から湧き上がるハングリーな強さが欲しい。」
今は何も無いだけの状況とは違う。
部下もいる。責任もある。
しかしそれを言い訳にして逃げるつもりは、沢渡には無い。
「それで、お前は何がしたい。」
それを心から理解し、同じ思いだったからこそ京極は彼の心中を悟った。
だからこその問いかけだ。
例え答えは分かっていても、彼の口から聞いてみたかった。
「俺と戦え。」
沢渡は笑っていた。
「何も殺し会おうって訳じゃねえよ。ただ、本気だ。ぶっ倒す気で来てもらわなきゃ困る。」
「知ってるさ。昔のように、藤堂さんに怒鳴られるまでクールにやるだけさ。」
京極も笑った。
「鍛え直し、か。」
「鍛え上げ、だ。」
「クールだな。」
昔は理由の
その二人が、今は理由を共にしている。
「いくぜ、沢渡。」
「ああ、京極。」
♢♢♢
「よお、元気か。」
「元気だと思うか?」
村主が外の景色を見ていると、そこへ芹澤が訪れた。
芹澤はジンジャーエールを村主に渡し、自身はジャスミンティーを開けた。
「ありがとう。」
「憎いか?」
「なにが?」
「鎧の怪人が、だ。」
それを芹澤に言われると、村主は下を向けた顔を上げた。
「憎いか。どうだろうなわかんねえ。」
はっきりとしない答えに、芹澤は思わず笑った。
決して面白いからでは無い、それを村主もわかっているからこそ、別に怒るようなリアクションもなかった。
むしろ、自身の感情を吐露した。
「わかんねえんだ。確かにあいつは、父さんを殺したのかもしれない。
けど父さんは、あの怪人まで救おうとしていた。だから、怪人が悪いやつじゃないのかもしれない。」
ぽつりぽつりと、ゆっくりと思い出すように話す。
「ただ、今回父さんが怪人だったってのは本当にそう思ってる。でもさそしたらあの鎧の怪人も、人間だったのかもしれない、なそうなると、俺も恨まれて当然だよな」
そう言うと、村主はまた下を向いてしまった。
「もう、わかんなくなっちまった。」
力なく笑う村主は、無理してるようにしか見えない。
「村主、」
「なんだ。」
「俺もそんなこと分からないよ。」
「ま、そらそうだよな」
「俺はお前じゃないし、お前みたいな経験してないから、お前の気持ちは分からない。」
「ま、そうだ--」
「けど、」
芹澤が、夕日を見た。
「自分のやりたいこと、やった方がいいとは思う。」
「!」
その夕日は、沈みかけているにもかかわらず、輝き続けている。
「自分がこれだって思ったことを。お前の父親がお前を守りたいって言って、守ったのと同じように。お前はお前のやりたいこと、やった方がいい。」
「そう、だな言われてみるとカッコつけてばっかだったな。自分で考えたことあったけか?」
ハハ、と空笑いを浮かべる村主。
「お前の
「やればできるじゃん、俺。」
自分を笑うように言った村主。
だが、その声は涙声だった,
涙を流していたのか、目を拭うと村主もまた夕日を見上げた。
「そうか俺も、ちゃんと変わらなきゃ。成長しなきゃ。そうじゃなきゃ、父さんみたいにかっこよくなれねえ。カッコつけることがかっこいいことじゃねえな。本当にかっこいいって自分に芯があって、その芯を裏切らないってことだろうな。その芯があれば、思うんだろうな。これをしなきゃって、これをやりたいって。その芯を自分を、自分自身を裏切らないために。」
夕日が照らす村主の姿は、一段と大きく見える。
その姿は前に向かおうと、前を見据えていた。
「多分な。」
そう笑うと村主は深呼吸し、空を見上げた。
「よし、決めたぞ。」
「なにをだ?」
芹澤に問われ、村主は彼を見る。
「明日サボるわ、学校。」
「は?」
突然に発言に、思わず間の抜けた声が出た芹澤。
「やっぱ明日じゃねえ、数日。だから、ガーディアンズも有給取って休む。」
「な、なにするつもりだ?」
「母さんとこ、行ってくるわ。なげえこと、会ってねえしな。」
「!」
村主のやりたいことが母に会うことだと言うのは分かった。
しかし、村主がその母に会って何をしたいのかは、芹澤には全く分からなかった。
「なんだったら、お前も来るか?」
「は?」
村主の提案に、再び間の抜けた声が出てしまった芹澤。
「飛鳥井はぜってえ来ねえだろ。一応WIREで言ったけど。東雲と王城を誘う勇気ねえしやっぱりか、飛鳥井ダメだ。」
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「いやいや、そうじゃなくて」
混乱しているような芹澤を見て、思わず笑った村主。
笑い終えると、村主はどこか懐かしむ様な寂しげな表情を浮かべた。
「なげえこと会ってねえからさ、会わなきゃいや、会いたくなっちまった。」
元々母親と住んでいたが、高校も何よりガーディアンズも東京にあるため、ずっと村主は会ってない。
おそらく、父を失ったからこそ強く会いたいと尚更思ってしまったのだろう。
だからこそ、決意した。
会いたいと、心から思った。
「家族水入らずのところ邪魔すんの悪いだろ」
その村主の顔を見て、そう答えた芹澤。
しかし、村主は笑みを浮かべて答えた。
「いいって気にすんな。」
「俺が気にするってば」
「そんで、来るのか?」
「あー」
村主が、答えを待っている。
それに気づいた芹澤は、遠回しに避けようとするのをやめた。
正確には、やめることを決めたのだ。
芹澤は自分のやりたいことを、自分がどうしたいのを考えた。
そして一拍置いて、芹澤が決意して顔を上げた。
「行くわ。」
「え、まじ?」
「お前が誘ったんだろ」
「いや、来るって言うと思ってなかったわお前みたいな真面目ちゃん」
「なんだそれ」
そんなことを思われていたのかと、芹澤はそれを聞いてため息を吐いた。
すると急に、気恥しさが襲い始めたのを芹澤は感じた。
「いいだろたまには。俺も羽伸ばさねえとストレスが溜まる。たまにはこんなことすんのも、バチ当たんねえだろ。」
「はは!だな!じゃあそうと決まれば用意すっか!」
「うおっとおいおい。」
村主勢い任せに肩を組まれた。
その目が震えているのが分かる。
涙を堪えているのだろう。
その目には、ただでさえ泣いたあとが見えるのに。
その笑顔は本心でもあり、誤魔化しでもあるように見えた。
(ほんと、頑張ったよ。お前。)
言葉に出そうと思ったが、心中に留めた芹澤。
後で行ってやろうと静かに思い、村主と共に中へと戻っていった。
♢♢♢
翌日--
「おはようございます。」
「ああ、東雲さん!おはようございます。」
朝のコーヒーブレイクをしていた小鳥遊。
コーヒーを飲みながら、自身のタブレット端末でニュースを見ていた。
小鳥遊が挨拶をする際、テーブルにタブレット端末を置いたことで、東雲の目に小鳥遊が見ていた記事が目に入った。
「これ」
「ああ、今朝のニュースですよ。」
そう言いながら、小鳥遊が東雲にタブレット端末を渡した。
「近くの病院みたいですね。なんでもある人が銃を持った人から大勢を救ったとか。」
目を疑った。
「今どきこうやって自分を犠牲にしてまで人を助けようとするなんて、すごい人もいるものですねー。」
手が震えていた。
「どうかしました?」
言葉が出ない。
衝撃のあまり、頭が真っ白になる。
「さいくん?」
髪の色は違う。
肌もどこか以前より白い。
それでも、それでもその横顔はあの大好きな青年であった。
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