守りたい

 

 鎧の怪人が、黒い氷の槍を構えて迫る。

 なんとか防ぎ、村主 啓は鎧の怪人に掴みかかった。


『俺は……裁かれて当然……とは思うが、裁くのは神じゃなくてお前か? それとも……』


 飛び出して、仕掛ける村主 啓。


『俺は怪人だから……お前が裁くのか?』


 取っ組み合いに持ち込もうとした村主 啓だったが、その腹に強烈なパンチが食らわされる。


『ぐあ……!』


 そのまま足を上げ、そのまま頭を踏みつけた。


『裏切り者め。』

『く……!裏切るも何も、俺はお前たち側に着いた覚えはねえ!』


『そうか。』


 冷たく言い放つと、彼はそのまま黒氷の槍を構えた。


『では消滅えろ』


 黒氷の槍が振り下ろされる--


「父さん!」


 だが、黒氷の槍は村主 啓を貫けなかった。


『なに……?』


「はあああああああ!」


「ふッ!」

「ッ!」


 村主と沢渡、鳳華院が鎧の怪人に襲いかかる。

 それを見越して、鎧の怪人は黒氷の槍を持ち直して村主を蹴り飛ばし、黒氷の槍で沢渡と鳳華院の攻撃を受けた。


 蹴り飛ばした足に、何かが巻きついた。

 日比野のレーザーウィップだ。


「せああああああああ!」

「はっ!」

「おらあああああああああぁぁぁ!」


『小賢しい。』


 鎧の怪人が攻撃を仕掛ける周防、早乙女、永友を捉えた。


 レーザーウィップで捉えられた足をそのまま引っ張り、日比野と周防をぶつける。

 自由になった足で踏ん張ると、沢渡と鳳華院の攻撃を弾き返して殴り飛ばす。

 早乙女を槍でなぎ払い、永友の振りかぶった一撃を片手で止めた。


 永友が冷や汗を垂らした。

 振りかぶった力ある一撃だっただけに、流石に言葉を失った。


(ラスト1回……もう一回できるかしら……けど!やるなら……)


「今しかないわね!」


 永友はレーザーハンマーの柄にあるスイッチを押した。

 スイッチを押すと、大砲のようなから発せられるレーザーのような一撃が発射された。


 光式機動武器……ガーディアンズ日本支部のガーディアンが、怪人を倒すために使用される武器の特筆すべき特徴に"最大出力"がある。

 最大出力には二種類ある。

 相手へ武器での一撃を与える際に、その一撃の威力を爆発的に上昇させるもの。

 以前、ペヅマウ相手に使われた"最大出力"がこれに該当する。

 もうひとつは、武器からの強力なレーザー弾の発射、あるいは爆発的なエネルギーの放射など、武器によって様々な形の強大なエネルギーが放出される。沢渡が鎧の怪人との初戦闘時と、そして今……永友が使用した例だ。

 もちろん、弱点はある。

 光式機動武器は、電気エネルギーで動いているので、バッテリーがゼロになると、怪人を攻撃するために重要な"レーザー"が使えなくなり、ただの武器となってしまう。

 "最大出力"とあるように、武器が外に出せるエネルギーにも限度がある。

 バッテリーを大幅消費して最大出力は使うことが出来るのだ。

 どれだけ節約しても、

 雑に使っても、早くバッテリーが減るだけ。かといって、出し惜しみをすれば致命的な一撃を与えられず、怪人を仕留めきれない……


 さておき、その中でも永友の扱うレーザーハンマーは純粋なパワー……破壊力・威力だけなら最強クラスのものを持つ。

 そのレーザーハンマーからの大砲を、


黒氷の盾アイス・シールド


 鎧の怪人は、黒い氷の盾で軽々と防いでしまった。


「夢でも、見てるみたいね……」

『なら夢から覚めてこい。』


 もう片方の手でヘルメットごとぶん殴り、吹っ飛ばした。


「アン姉さん!」

「てめえよくも!」


 榛名と大江田が奮起し、二人がかりでかかる。

 それに遅れて第4小隊の残りの二人と、第三小隊が武器を構えて立ち向かった。


黒氷数多こくひょうあまた


 空気が震える。

 空気がさらに冷たくなる。

 それと同時に、鎧の怪人の周囲で数え切れない黒い氷の欠片が舞い始めた。


ソード


 それらは一瞬で剣の形に変わり、回転しながらガーディアンを襲い始めた。


「うわあああああああっ!」


 東雲のように、レーザーガンを使用する遠距離攻撃を試みるガーディアンにも容赦なく攻撃される。


「はあっ!」


 王城がレーザーアローで矢状のレーザー弾を発射する。


 鎧の怪人はそれを拳で弾き飛ばすと、レーザー弾が飛んできた方向へと黒氷の剣が向かっていった。


 飛鳥井が上からレーザーサーベルを振りかぶって攻撃を仕掛ける。

 そこを黒氷の剣が襲い、何とか防ぐも鎧の怪人は既に目の前に迫っていた。


「ひっ……」


 腹を殴り、そのまま蹴りつけて飛ばした。


「かは……!」




 一騎当千




 怪物




 鎧の怪人の戦うその姿は、まさにそれらを表したような暴れぶりであった。


『準備運動にもならない……血を出させる訳にもいかない……地球を汚さないために……』


 鎧の怪人は首を傾け、首を鳴らすような仕草をしながら、倒れるガーディアン達を見た。


『俺に気を使わせるなよ……日本人だろお前ら、俺に最低限の気くらい使ってくれよ。』


 スっと沢渡がレーザートンファーを構えて特攻した。


「よそ見してんじゃねえや……」

『欠伸が出る。』


 沢渡の動きは明らかにキレが良くなっている。

 しかし……経験の差か、あるいは種族の差か。

 鎧の怪人にとっては、それは大した問題ではなかった。

 ただ相手の動きに、合わせるだけだった。

 そこへ数多くの氷の剣をかいくぐった楓がたどり着いた。


『来るよな。お前なら。』

「さっさと消えろ……!」

『出来ないことは口に出すものじゃない。』


 楓が中距離から攻撃を仕掛けた。


 だがその二人の背後から、黒い氷の剣が襲い掛かる。

 思わず反射で後ろを向いて、剣を叩き落とした。

 しかし、背を向けた相手が悪すぎた。


『敵に背を見せるのは、感心しないな。』


 ゼロ距離--

 背後から、黒い氷のナイフが二人の肩にぶっ刺された。


「っが……!」

「ッ……!」


 追い打ちをかけるように彼らを殴り、地面に叩きつけた。


「はっ!」


 剣を相手にせず、かいくぐって彼は一人たどり着いた。


 レーザーランスを構えて、突き刺しにかかる。

 鎧の怪人はそれをすぐにかわし、そのままレーザーランスを芹澤は振り下ろすが……鎧の怪人はナイフ一本でそれを止めた。


「お前は、本当に……!」

『いい加減に分かれ。お前達の歩みは俺にとっては足踏み。どれだけ努力しようが、』


『俺には到底敵わない。』


 芹澤にもう一本のナイフを突き刺した。


 痛みの衝撃が走る。


「いってえ、な。けど、んでな……」

『……』


 レーザーランスを強く握る。

 いくら痛みに慣れていても、痛いことに変わりはない。

 それ以上に、体に影響が起きてしまう。

 力を入れようとすると、腕に雷が走るような痺れが駆け抜ける。


「お前、は……ほん、とに……!」


 気力と意地、そしてないより自身が聞きたいことのために。

 彼は立っていた。


くすのき……さい--」


 ドッ


「がっ……!」


『飛べ。』


 腹にアッパーを食らわせ、宙に浮いた芹澤をそのまま蹴り落とす。


 彼は流れるような動作で宙を蹴り、黒氷の剣を構えるとそのまま村主 啓の元へ向かった。


 そこには……父親に傷を負わせまいと、奮闘する子の姿があった。



 ♢♢♢



『諒、もう……いい!やめ、ろ!く……!』


 村主 啓に降りかかる黒い氷の剣を、村主 諒は動けぬ父の分も相手していた。

 避けきれなかった分は、当然自身に当たり、傷を負う。

 父親に向かう黒氷の剣に届かないと判断すると、自身の体を盾に父親を守った。


 村主は痛いだろう。

 スーツは、明らかにほかのガーディアンと違ってボロボロだった。


『もう、やめろ……諒……』


 だが、それでも。


『やめてくれ……諒……!』



 それでも彼は笑っていた。



「父さん、俺、痛くないよ……」


 心配する父に、笑って答えた。


『何言ってる……痛いに、痛いに……!うおおおおおおおおおおおおおっ!』


(痛いに、決まってる……!もういいんだ!もう!いいんだ!俺なんか庇うな!どうして体が動かない!息子のピンチに駆けつけるのが!息子の危険を助けるのが!父親にできる数少ないことだろう!)


 自分のために戦い、血を流す自分の子供の姿に彼は叫んだ。

 何も出来ない自分にこれほど怒ったことは無い。

 息子の血を見る度に、これほど悔しい思いをしたことはなかった。

 あれほど息子の危機を感じる度に、動いた身体が、嘘のように動かなかった。


 今までに受けたどんな痛みよりも、どんな痛みよりも苦しかった。


 だが、そんな彼のの思いとは裏腹に息子は笑って父を守るのだ。


 そして、村主は涙混じりの笑みを浮かべて、父に答えた。


「言ったでしょ……はぁ……はぁ……守りたい、って……!」

『諒……!』


「守らせてよ。やっと見せられる、俺の晴れ舞台。俺の姿。」


 ガキィンキィン


「ちゃんと見せるよ、頑張るよ。今まで見せられなかった分、全部!」


(剣が見える)


 ガキィン


(こんな状況なのに)


 ガキィン


(すごい嬉しくて、静かだ。)


 彼の心は嬉しいという気持ちの高揚していたが、頭の中は落ち着いた冷静さが。

 彼の中で、その二つが共存していた。


 そして、徐々に彼の動きは変わり始めた。

 ただ体を張って、目で見たものを追う動きから。


 目で見て追うよりも早く、音が頭に入ってくる。

 音が一番近いのを追っていく。


 だんだんと、自身に当たる剣が減っていく。

 それでいて、父にも当たらない。


 自身が気づかないうちに、ほかの人の倍の数の黒い剣と相手した彼は、この中で誰よりも成長していた。


 そんな中、ひとつだけ目で追ってしまった。

 なぜなら、それは音がしなかったから。

 それはまるでジェット機のように突っ込んできた。

 その手には宙に浮く黒い氷の剣と、同じ剣を握っていた。


「ふっぐううううううううううう!」


 何とか防ぎ、村主は鍔迫り合いにもちこんだ。


「村主……!」

「村主!くっ!」


 芹澤と飛鳥井が彼の名を呼ぶ。


 絶対に退けなかった。

 後ろには、守りたい父がいる。

 絶対に守りたい、父がいる。


(絶対……!)


「父さんには……触れさせない……!」


『……家族、か……』


 そのこと……村主 諒と村主 啓が親子であったことを、彼は……鎧の怪人は知っていた。

 、引っかかった。


 自分から鍔迫り合いをやめるほどに。

 そして、鎧の怪人は口を開いた。


『お前は……信じるのか?』


「え?」

『この男が、自分の父だと。』


 その空間だけ、静かだった。

 二人のいる空間だけ……静かだった。

 まるで、時が止まった空間に、二人だけしかいないような……そんな空間だ。


 目の前に鎧の怪人がいる。

 思わず一瞬たじろぐも、村主は一歩前に出た。

 そして、俯いた顔を上げ、村主は鎧の怪人を見据えた。


「当たり、前だ……!」


 鎧の怪人は目をそらすことなく、村主を見据えていた。

 ……目を瞑ったのだろうか。

 藍色の瞳がほんの一瞬暗くなった。


 やがて、鎧の怪人は


『……そうか。』


 その一言は、どこか落ち着いた……それでいて重い……重い一言であった。

 表情は見える訳が無い。

 だって、顔どころか頭は兜だから。


 鎧の怪人は剣を構えた。

 しかし、すぐ襲うような真似はしなかった。

 鎧の怪人は、村主がレーザーサーベルを構えるのを待った。

 まもなく、村主がレーザーサーベルを構えると、その瞬間に鎧の怪人は突撃してきた。


 それに合わせて、剣を防ごうとするも……読んでいた鎧の怪人はそのまま下にしゃがんで足を払った。


「う……!」


 そのまま流れるように体をひねり、村主に蹴りを食らわせた。


『諒!くそっ!』


 立ち上がれない村主 啓を見下ろし、鎧の怪人は口を開いた。


『よかったじゃないか。受け入れられて。』


『なに……?』


 虚をつかれた、とはまさにこの事だろう。

 よそうだにしないセリフに、村主 啓は思わず声を漏らした。


『俺は、受け入れられなかった側。言うなれば、お前と逆の道を歩んだ。……いや、自分からではなかったな。そうせざるを得なかった、と言うべきか。』


 静かに鎧の怪人は自語りを始めた。

 思い出すように、細い線をたどるように。


『なんの、話だ……!』


『俺はお前のように、この鎧のあるべき姿のように、ま誰かを守る戦士に……いや、守りたいものを守る騎士に……なりたかった気がするよ。』


 感情がないのか。

 ただ淡々と、彼は語る。


『……!』


 村主 啓は言葉を失った。


 馬鹿馬鹿しいから……違う。

 不幸自慢だと思ったから……違う。


 自分のIF……つまり、"もし"を考えてしまったからだ。


 彼が、あの時。

 鎧の怪人になる前の、人間の姿を思い出した。

 自分の息子と同じくらいの青年。

 そんな彼の行動は狂っていた。


 じゃあ、なんで狂ったか。


 その理由がたった今、彼の語ったものが原因だとするなら。


 彼の話が、本当なら……いや、怪人である村主 啓だったからこそ"本当なら"ではなく、"本当だ"と断定に近い確信をしてしまった。


 ……結果的に、自分がどれだけ恵まれたか。どれだけ自分が幸運だったかを……村主 啓は否が応でも理解した。


 自分よりも年端もいかぬ息子と同じくらいの、ただの青年が。

 自身とは逆の結末を辿った。


『人間に受け入れられた怪人と、人間に受け入れられなかった怪人……何が違かったんだろうな……経験から?家族か?友人か?絆か?信じていたものが裏切るか……裏切らないか、か?それとも……そもそも信じる者が間違っていたのか……』


 自分はどんな姿でも信じてくれる息子がいた。

 彼には……いなかったのだろう。


『だがおかげで……最高の仲間と、戦うための力を手に入れた!』


 叫びながら、鎧の怪人は村主 啓を蹴りつけた。

 剣が効かないことを考慮しての攻撃だった。


『がはっ!』

『もう後悔も嫉妬もない。』


『今の俺は、仲間を……あの方を守る騎士だ。』


 その言葉は自信に満ち満ちていた。

 何より、気高かった。

 まるで今までの話が、嘘なのではないかと疑ってしまうほどに、彼は堂々としていた。


 先程の蹴りで剣での攻撃が通ると確信したのか、鎧の怪人は村主 啓を蹴りあげ、宙に浮いた彼を切りつけた。


『ぐ……!』


『もう、手加減はない。かといって、お前相手に本気になる必要は無いがな。』


 ドサッと、その場に倒れてしまった。

 傷口からグラッヂが溢れ出る。


『次は、お前だ。』


 鎧の怪人が、村主に剣を向けた。


『うおおああああああああああああああああああああああああああ!!!!』



 村主 啓の思いが爆発した。



 諒を助ける……!


(立てよ、俺!)


 諒が危ない!


(に、これ以上罪は犯させない!)


 自分の息子を守るんだろ!


 (これ以上、怪人であってはいけない!)


(俺がの暴走を止める!)


 諒を守る!


(守る!)


 絶対に


守る……!

(守る……!)



 ピシッ



 何かが割れる音がした。


 村主 啓の体の内で。


『守る!守る!守るっ!』


 強く自分言い聞かせる。


 ビシッ


『絶対に守る!絶対に……!』


 ビキキキ……


『うおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!』



 立ち上がったその姿は、まるで自身のみ守るアルマジロなんかではなかった。


 まさに、一匹の鬼だった。

 全身から蒸気のような黒いオーラを発して、村主 啓は鎧の怪人を見据えていた。

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