現れた者
「終わった、のか……」
緊張が解けたのか、思わず口から漏れた飛鳥井の一言でガーディアン達の緊張が緩んだ。
不意に息を漏らす者、装備を解除する者が現れる。
「緊張を緩めるな。家に帰るまでが、戦争って小学校の時に習わなかったのか。ああ……遠足、か……」
その言葉で、装備を解除したガーディアン達は急いで武器を構え、ガーディアンは皆気を引き締めた。
「障害は無くなった。『俺を殺すのは後にして、俺が他の怪人を倒すのはどうだ。』……だったか。『俺の他にまだ怪人が3人いる。』そうも言っていたな。」
「鳳華院……」
鳳華院が怪人……村主 啓の前に出た。
「その他の3匹の怪人は、もういない。『そいつらを倒した後、俺を消やれ。』……その約束を、今果たす。」
『まあ……そうなるよな。』
バッと村主が父の前に出て、レーザーサーベルを構えた。
『うっ……!』
(な……なんだ……!)
村主 啓が構えようとすると、急に視界が暗転し、その場に膝を着いた。
急に息も荒れ始めた。
(さっきの……能力みたいなものを、使った副作用かなんか、か……?)
村主は自身の内側で、黒い何かが再び渦巻いているのを感じた。
村主は倒れた父の前に立った。
父を守るために、鳳華院の前に立ち塞がったのだ。
「させない……!」
『諒……』
「父さんは殺させない……!」
鬼気迫る姿だった。
思わず、他のガーディアンが怯んでしまうほどに。
戦闘経験の豊富な早乙女、永友、日比野、周防、芹澤も彼の覚悟を感じていた。
だからこそ、どう出ようか考えていると……
「待て、村主。少なくとも、今は殺す気はない。」
そう言って前に出たのは……なんと沢渡だった。
「殺す気はない」……
流石に驚いたのか。
早乙女や永友、日比野に周防、そして芹澤にも驚きの表情が見て取れた。
「沢渡さん……殺す気はないって……」
「ああ……信じてくれ。」
そう言ってレーザートンファーを解除し、スーツに収納した。
それを聞いた村主は横に避けるも、村主 啓の傍から離れず、レーザーサーベルを構えていた。
「どういうつもりで。」
「まあ、待て。鳳華院。『何があっても、倒せる』……そう踏んだんだろ。」
「……」
「ちょっと……俺に時間くれ。」
笑いながら沢渡がそう言うと、鳳華院は目を瞑り思案を巡らせる。やがてすぐに目を開けると、そのまま一歩退いた。
「お前から、話を聞きたい。」
沢渡は村主 啓の前にどかっとあぐらをかいて座った。
『話……だと?』
「無抵抗の人間を攻撃するつもりは……なさそうだな。これなら……連れてってもいいか……?」
笑いながらそう言う沢渡の発言に、ここにいる皆が耳を疑った。
「ワハハ……そんな話はいい。今はとにかく、聞きたいことを聞かせてもらおう。急ぎだからな。」
『聞きたいこと……』
そして、沢渡は村主 啓を見据える。
「単刀直入に聞こう。二つだ。ひとつは……他の奴らどこだ。ウチの部下傷つけた鳥みたいな奴と、堀田ボロボロにした鎧の奴……どこにおる。」
拳を握る手に力が入る。
『え……』
「どこにおるって……聞いとるんや……」
糸目から瞳が見える。
怪人の村主 啓が思わず怯んだ。
それほどまでの威圧。
思わず、周囲のガーディアンも冷や汗を流していた。
『知らない……というより、分からない。』
村主 啓が口を開いた。
『俺は、怪人を感知する能力はない……』
「やっぱ、宇宙船か……クソッタレ。」
『宇宙船はやめておいたほうがいい。』
即座に村主 啓はそう返答した。
「ああ。十分に知ってる。以前、どっかの……ああ、アメリカか。アメリカのロケットだかがぶっ壊されたからな。表向きはロケットの発射が原因不明の失敗……と報じられていたが、世界中のガーディアンズ内では、本当は怪人の宇宙船が原因だと知らされていたからな。ちょっとした話題になっていた。」
『俺が創られた時、自分の意識がなかった。だからこそ、おぼろげな記憶しかないが……あれは……とんでもないものだった。あんな宇宙船を造るレベル……あの宇宙船を造る技術は、日本に……いや、世界中にないだろう。』
それを聞いて、これ以上の情報はないと判断した沢渡はこれ以上を求めることを諦めた。
「二つ目。今、意識って言ったな。まるで前は人間みたいな話し方だったな。」
それを尋ねられ、村主 啓は目を瞑った。
やがて。決意したように目を開き、口を開いた。
『そうだ。信じてもらえるか分からないが……俺は……いや、俺と川口……今戦っていた怪人は……人間だった。』
「どういうことだ。」
思わず尋ねた沢渡。
しかし、村主は淡々と答える。
『言葉の通りだ。俺は、俺の名前は村主 啓。人間だった時は、警視監だった。そして……ここにいる、村主 諒の父親だ。』
その発言を聞いた、村主が思わず顔を逸らした。
東雲もその言葉に意図せず反応してしまった。
二人の拳は……強く握られていた。
「おいおい……何をどうすれば人間が怪人になるって言うんだ。」
『分からない。だが、改造……そう言っていた気がする。俺が怪人に連れていかれた時、意識はほとんどなかった。途切れ途切れの言葉が聞こえてくる中で、俺は意識を失った。それが人間の姿の……最後の記憶。そして……自分の意識が戻った時には、もうこんな姿になっていた。」
「改造……?」
『そうだ。』
「まるで、漫画やSFの世界だな。」
『自分達基準の技術力で考えない方がいい。あいつらは……君たちの戦う敵は、技術力においても全てがケタ違いにレベルが違う……!人間じゃ敵わないと、思ってしまうほどに……!』
(そんな……!)
次に、王城の拳が握られる。
悔しさ故か……あるいは絶望か。
一方で、芹澤はある可能性……いや、答えにたどり着こうとしていた。
(待て、本当だったら鎧の怪人も……!)
そして、それは沢渡も一緒であった。
「じゃあ……まさか鎧の怪人も--」
ダアン!
砂煙が舞う。
吹きすさぶ風は冷たい。
視線がその先へ集まる。
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ…………
冷たい足音が近づいてくる…………
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ。
鎧の鳴る音と共に。
ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ、
悪魔の足音が、
『裁きに来たぞ、ババルスォ。』
死神が来訪した。
♢♢♢
舞う砂煙から姿を現したのは、因縁のあの怪人。
この場にいる全員を、冷たく、重いプレッシャーが襲いかかった。
「鎧の……怪人……!」
芹澤がレーザーランスを構える。
最悪の敵が来たことにより、一斉にガーディアン達が武器を構え始める。
「鎧の怪人、今度こそ……」
東雲が我先にと前に出て、レーザーを構えた。
「殺してやる!」
宿敵に対して、殺気立つ東雲。
そんな彼女に対して、鎧の怪人が行ったことは
「え……」
"無視"
だった。
つまり……用はないし、興味も無い。
対象外。
……無関心、ということだ……
鎧の怪人は何もせず、東雲の横を通り過ぎた。
「くっ……ふざけるなあああああ!」
東雲はすぐに振り返って、レーザーガンを構えて発砲した。
だが……
「おいおい……」
放たれるレーザーをいくつもの微小の黒い氷の盾で、防ぐ。
怪人を越えた先には仲間であるガーディアンがいる。
それにも関わらず引き金を引いた東雲に、思わず沢渡は声を漏らした。
そんな中、ひとつの影が飛び出した。
「成程……貴様がそうか。」
鳳華院 楓だ。
楓がダッと、レーザーロッドを構えて鎧の怪人の前に飛び出した。
黒い氷の剣でレーザーロッドの一撃を受け止めた鎧の怪人は、そのまま一歩も動かずに、楓の連撃を
「ッ!」
『ふっ……』
「鳳華院!」
あろうことか、鎧の怪人は戦闘スタイルを鳳華院のスタイルと同じスタイルに合わせた。
ご丁寧に剣から槍に武器を変えて、だ。
華麗に攻撃を避けて流し、そのスキに針を通すように蜂よりも強烈な一撃を食らわせる。
ただ違うのは、戦闘での適性距離。
鳳華院はレーザーロッドによる近距離・中距離の攻撃が出来る。
武器ひとつ、武器の持ち替えひとつで、両距離に対応出来るわけだが……
だからこそ、鎧の怪人は楓の
すんでのとこで持ち替えて、攻撃に対応しようとするが、同時にカウンターの蹴り上げをもらってしまう。
「鳳華院っ!」
ガーディアンと違って、怪人は殴る・蹴るなどの素手での攻撃が通る。
ある意味、怪人ならではの攻撃だった。
浮いた鳳華院の体を鎧の怪人は蹴り飛ばし、背を向けた。
鳳華院が先程ペヅマウが倒れていた瓦礫の山まで飛ばされてしまう。
「っ……」
沢渡と早乙女、永友が各々武器を構えて鎧の怪人に攻撃をしかける。
『遊ぶつもりは毛頭ない。』
ジャっと数十の槍が宙に並んだ。
『仕事の邪魔だ。』
数十の槍が三人を攻撃する。
その最中に、鎧の怪人は全員を蹴り飛ばした。
沢渡は何とか耐えきり、反撃するために立ち向かう。
同時に鳳華院が立ち上がり、すぐさま向かった。
両手に黒氷の槍と、新たに黒氷の剣を一瞬で創り出すと、二人の連続攻撃を受けた。
「はあああああああっ!」
「フウウウウッ!」
そこから二人の連撃が始まったが、鎧の怪人はその場から動かず受けきってみせる。
その上で、二人のわずかなスキをつき、二人を黒氷の剣で斬りつけた。
鳳華院がそのまま殴り飛ばされ、鎧の怪人は沢渡を蹴り飛ばす。
が、沢渡はすんでのところで蹴りをかわし、そのままレーザートンファーで鎧の怪人の足を殴りにかかる。
それを鎧の怪人は黒氷の剣で受けるが、沢渡はそのまま流れるように上に回転移動し、鎧の怪人の顔面を殴りにかかった。
そして……ギリギリのところで鎧の怪人に腕を捕まれ、そのまま投げ飛ばされてしまった。
日比野と周防が鎧の怪人にかかるも、踊るように槍一本で攻撃を受け、受けながらそのまま攻撃した。
その後に芹澤がレーザーランスを構えて、鎧の怪人に攻撃を仕掛けた。
「鎧の……怪人!」
『……先程ぶり……か。』
槍を受けて、そのまま槍同士での競り合いが始まった。
だが、芹澤は気づいていた。
遊ばれている、と。
そう思った瞬間、芹澤の顔を黒氷の槍が捉えた。
芹澤はギリギリのところでかわしきるが、攻撃が疎かになってしまい、既にゼロになった距離に気づけずに蹴り飛ばされた。
鎧の怪人が、村主 啓を見据える。
「父さんには、触らせない!」
『待て。』
村主 諒が前に出ようとすると、それを制して村主 啓が立ち上がった。
『お前の狙いは俺だろう?』
ふうーっと……村主 啓は大きく息を吐くと、柔道の構えをとった。
『俺が……俺が相手だ……!』
『裁かせてもらうぞ、お前を。』
鎧の怪人は、黒氷の槍を構えた。
冷たい風が吹きすさぶ。
ドッと、怪人からひときわ強い冷たく、重いプレッシャーが放たれた。
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