親子の一撃

 

 ペヅマウが立ち上がった。

 立ち上がるなり、先に仕掛けた。

 構えるのを見て警戒したのか、距離をとり、自慢の爪でくうを切り裂くと、斬撃のような衝撃波が飛んだ。


 村主啓は退くどころか、避けることさえしなかった。

 そのまま突進し、無理矢理掴みにかかる。


 ペヅマウはそれを避けようと、攻撃を先に仕掛ける。

 しかし、それを読んでいた村主 啓がガードする。


(この力……この力はなんだ!?)


 黒いオーラは発現している。

 黒いオーラが出てる=イコール能力が出る、だと村主 啓は勝手に解釈していたのだが……


(読みが外れたか……?だが、)


 ガシッと村主 啓がペヅマウを掴んだ。


(力は湧いてくる!)


 ぐおっと、ペヅマウの体が浮いた。

 そしてそのまま、地面に強く叩きつけるように投げた。


 ドォンと地の揺れる音とともに、ペヅマウは倒れた。

 立ち上がったペヅマウに、沢渡と楓が追い打ちをかける。


「怪人退治を怪人にさせるわけにはいかないだろ。」

「……」


 ラッシュ。

 一進一退のラッシュが行われる。

 レーザートンファーとペヅマウの爪の弾く音、ペヅマウの爪がレーザーロッドを防ぐ音。

 各々の武器がぶつかり合い、火花を散らす。


 だが、徐々にペヅマウが押され始める。

 すると、早乙女、永友、日比野、周防それぞれが戦っていたペヅマウによる黒煙の分身が消えてしまった。

 おそらく、沢渡と楓の二人に攻め込まれたことにより、自身の能力を使い続けること・コントロールすることに弊害が出てきたのであろう。

 自身の力を戻すために、無意識にそうしてしまったのだ。


 沢渡と楓の乱戦に村主 啓も参戦し、強烈な一撃を与える。

 仰け反ってしまったところを、楓が踊るように美しい攻撃を、沢渡が鮮やかな連撃を食らわせる。


 いよいよペヅマウは、防戦一方になってしまった。


 ダッと、ペヅマウは後退した。

 距離をとるなり叫んだ。

 そして黒煙が、ペヅマウの爪にまとわりつき、大きな爪へと変貌した。

 人がまともに食らったら、豆腐に包丁を振り下ろすように……簡単にバラバラにされてしまうだろう。


 いくらガーディアンがプロテクターのある強化スーツを着ていても油断は出来ない。


 ペヅマウが両爪を構え、踏み込んだ。


 沢渡と楓は警戒し距離をとった。


 しかし、村主 啓はドンと前に立った。


 沢渡と楓、そしてその後ろにいるガーディアンズを守るように仁王立ちしたのである。


 ペヅマウが突進しながら、自身の両腕を振りかぶる。

 そしてペヅマウの両腕は、目にも見えぬ速さで振り下ろされた。


 村主 啓は、ペヅマウの直接攻撃をそのまま受けた。


 止める気でいたのだ。

 踏み込ませる気はなかった。


「父さん!」


 村主の声が聞こえる。



 次の瞬間聞こえてきたのは、金属が弾かれるような「キィン」という音。


 そして--



『ッジャアアアアアアア!』



 ペヅマウの叫び声だった。


 攻撃した側であるペヅマウが、叫びながら仰け反ったのである。


『そういうことか……!』


 村主 啓の得た能力ちから……それが"全身硬化能力"であることに気づいた。


(そうか……おそらくこれは自分の身を守るための能力。アルマジロであることも頷ける。だが俺は--)


『自分の身を守るため、この能力ちからを使うつもりは無いがな……!』


 仰け反ったところを、村主 啓が強烈な一発を加え、そのまますく投げをした。


 ペヅマウは立ち上がった。

 立ち上がった。


 とうとうペヅマウに疲れが見え始めてきたのだ。

 厳密には疲れなのかどうかは分からないが、徐々に動きのキレが衰え、反応にもわずかな遅れが生じている。

 まるでアドレナリンが切れた状態だ。

 言うまでもなく、暴走の弊害に違いない。


 その上後ろでは、ジャリアーの集団を倒し終えたガーディアンズが徐々に集まり始めた。


 そんな中、ジャリアーの集団を抜けたガーディアンの一人である王城があることを思い出す。


「……!そうだ!」


 スーツから、収納していたを取りだした。


 光式機動レーザーボム


 出撃前に王城が支部長に、「試したい」と言ったシロモノである。


(光式機動レーザーボム……試すなら--)


「今!」


 そう思い、そのまま前線へと王城が駆け出す。


「あっ!王城!」


 飛鳥井が声をかけるも、彼女には呼び止める声すら耳に入らない。


(これが……私の開発したこの武器が……この危機を、この状況を、打開するかもしれない……!)


「皆さん、伏せて!」


 そう言って王城がレーザーボムを投げた。


 ガーディアンはもちろん、その中でも前線にいた沢渡と楓、そして村主 啓はその場からすぐに離脱した。


 それはペヅマウに当たった。


 レーザーボムが爆発した。

 が、爆発というよりは、「発光した」というのが正しかった。


「どうして……」

(爆発しない、なんで!?レーザーボムは、確かに私が開発したもの。これは"失敗作"……どうして……誰かがすり替えでもしたの!?)


 しかしだ。

 ただ、発光しただけではなかった。

 役割としてはスタングレネードのようなものであった。

 ただ……普通のスタングレネードとは違って、怪人に効いた。効果があったのだ。


 大きなスキだ。

 大きなスキが生まれた。


「出力最大。」

「火力最大。」

「最大出力っ!」

「いっくわよおおおおおおおっ!」

「最大出力!」

「最大出力……!」

「最大出力。」


 各々が武器のエネルギーと威力を最大まで高める。

 全員がこの戦いにピリオドを打つ為のポイントがここだと悟ったのだ。

 全員が、同じ考えだった。


「はああああああ!」


 スキを逃すまいと沢渡が真っ先に向かった。

 そして、休むスキどころか1秒すら与えない攻撃の嵐がペヅマウを襲う。


「っ!」


 続いて鳳華院。一定の距離を保ちながら足を払い、そのスキに大雨のような止む間もない連撃を食らわせる。


「せえええ!」

「ふんぬらあああああ!」


 早乙女と永友の連携攻撃。

 早乙女のレーザーサーベルの無駄のない剣技の後に、永友の強烈一撃、一撃が叩き込まれる。


「はああああっ!」

「そらああああああああっ!」


 そしてさらに日比野と周防の連携。

 レーザーアックスで攻撃する周防が攻撃しない場所、した場所でかつ周防が攻撃していない場所を的確に距離をとって攻撃する日比野。

 それを分かっているからこそ、周防自身も日比野が攻撃した意識しながら、一撃一撃を与えていく。その上、重量のあるレーザーアックスで連続攻撃を仕掛けていく。


「はっ!」


 芹澤がレーザーランスで切りつけ、逃げないよう足を突き刺した。


「村主!」


『いくぞ、諒!』

「うん、父さん!」


 芹澤の声に合わせるように、村主親子はもう走っていた。

 走りながら強く頷くと、全く同じタイミングでペヅマウが防ごうとして動かした両腕を蹴り上げあるいは切り上げた。

 がら空きになった腹にそれぞれトドメの一撃を刺しにいった。


『うおおおおおおおおおおっ!!』

「最大、出力っ!」


 村主 啓は衝撃波が貫通したかのような大砲のような一撃がペヅマウの顔面を捉え、村主の最大までエネルギーを高めたレーザーサーベルによってペヅマウの腹部は貫通した。


 そして、村主 啓の一撃によりペヅマウは吹っ飛んでいき、建物にぶつかった。

 崩れた建物の瓦礫がペヅマウに落ちていく。


「驚いた……今の息のあった攻撃……本当に親子なのか……?」

「分からないが、信じてしまうな。これを見せられたら……」


 早乙女と沢渡が言葉を交わす。

 しかし、すぐに武器を構えた。


 瓦礫が動いたからだ。

 怪人はまだ生きている。

 その事実が決定的となった。


『ふう……ぐ、あ……くっ……!』


 声をあげて、は瓦礫をかき分けて、ゆっくりと立ち上がった。


『まさか……!』


 村主 啓は気づいた。

 あることに、気づいたのだ。


『ええ……ようやく……意識が戻りましたよ、村主さん……!』


 そこにはもう、「暴走する怪人ペヅマウ」の姿はなかった。

 そこにいたのは「怪人の姿をした川口 勤かわぐち つとむ」であった。

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