こじ開けろ

 

「手応えはあったが……」


 京極が思わずそう言ってしまうほどに、攻撃をくらった怪人は平気そうに立ち上がった。


『……ゥゥ』


「ダメだな、これは……」


 沢渡がそう判断し、京極もそれに頷いた。

 鳳華院はすぐさまレーザーロッドを構えた。

 そんな中、ここにいる誰よりも早く村主 啓が立ち向かった。


『うおおおおおおおお!』

『チュウウウウウウアアアアアアア!!』


 ガっと掴み合い、ギリギリと競り合う。

 迫力しかなかった。


『川口……ィ!』


 暴走した力はもちろん、暴走したことにより外れた力である黒煙が村主 啓に漂う。


「おい、いい加減に聞かせろ。鳳華院。」


 ペヅマウに立ち向かおうとする楓の腕を、沢渡は掴んだ。

 それをうざったそうに振り払い、表情や声には出さないながらも不機嫌そうに楓は沢渡の方を向かずに返事した。


「なにをです。」

「この怪人を連れている理由だ。お前が倒さねえってことは、理由があるんだろ?」

「いえ、ありませんが。」

「は?」

「理由はありません。強いて言うなら、を見たせいで消す気が失せたからでしょうか。」


 そう答える楓の目は、どこか遠くを見つめているようであった。

 彼の視線は、目の前の怪人よりもずっと先にある気がした。


(鳳華院……お前は、なにを考えている……?)


「ただ、問題はありません。」


 そう言って、沢渡の方を向いた。


「何かあっても、倒せると踏んだので。」


 そして正面に向き直り、レーザーロッドを構え直した。


「ましてや、あなた方がいるのなら尚更でしょう。」


 そう言って、楓はペヅマウに向かって走り出した。


「相変わらず……読めねえな。」



 ♢♢♢



『この、ままじゃ……!』

(押し負ける……!)


『なんつー……パワーだ……!』


 村主 啓の言葉を聞いたペヅマウはニィイと歪んだ笑みを見せると、周囲に発せられた黒煙が村主 啓にまとわりついた。


『なんだ……!?』


 気づいた時にはもう遅い。

 そう言いたげな笑みだったのか。


 村主 啓が気づいた時には膝を着いていた。


 視界がボヤけてきた上に、耳鳴が酷い。

 さらにめまいや嘔気が襲う。

 村主 啓はこの症状に身に覚えがあった。


(これは……一酸化炭素中毒!?いや、それよりももっと酷い……!)


 だが、そこで一つの疑問が生まれた。


(人間の体の組織・器官でこの症状が発現するならまだしも、今の怪人の身体の創りのはず……!それでもこの症状が出るってことは……黒煙これを怪人ではなく、人間が吸ったら……ただの一酸化炭素中毒で済む訳が無い!)


『聞こえているか!楓君!』


「!」


 鳳華院はもちろん、沢渡と京極にも聞こえていた。


『この煙は吸うな!吸うと一酸化炭素中毒のような症状が起きる!俺でこの症状が出るってことは、人間が吸うのはまずい!即死の可能性がある!』

「なぜ逃げない……」


 ボソッと楓が言ったのを、村主 啓は聞き逃さなかった。


『逃げれねえんだよ!煙がまとわりついてる!』

「なるほど……」


 そう言うと、楓は向かっていった。

 楓がドゴッと強烈な一突きをペヅマウの顔に食らわせる。

 そこをペヅマウが拳で合わせようとするも、楓がかわし、また一撃を食らわせる。

 ペヅマウと楓の1対1で戦闘が始まった。


「なんでフツーの会話してんだアイツ……」

「クール……なのか?」

「だが、鳳華院が信じるってことは大丈夫だと思っていいかもな。煙に気をつけるに越したこともない。」

「そうだな。」


 二人は会話を終えると、1対1の戦いに割り込んだ。


『チュウウウウウウウォオオオオオオオオl!!!』


「やばい、諸星ぃいいい!逃げろぉぉおおおおおおっっっ!」


 ペヅマウのフクロからより多くの煙が発せられる。


 一瞬で周囲の視界が広範囲で奪われた。



 ♢♢♢



「やばい、諸星ぃいいい!逃げろぉぉおおおおおおっっっ!」


「隊長……?」


 声でわかった。

 ヤバい。何かが来る。


「北条さんっ!」


 TECバイクに北条を乗せて、彼女のヘルメットと諸星自身のヘルメットを替えた。

 そして、諸星は北条を乗せて走り出した。


「逃げるって……逃げられるか……?」


 背後から黒煙が迫ってきた。


「ぐっ……!がっ、」


 頭が割れるような強烈な頭痛と耳とさらに脳を常につんざくような強烈な耳鳴りが諸星を襲う。

 その上視界が真っ暗になり、胃が暴れ狂い全てが逆流するような吐き気が襲う。


 思わずバイクから転落し、横転したのを感じた。

 強く打ち付けられたのは感じたが、不思議と痛みは感じなかった。


「ほ……じょ……」


 諸星が手を伸ばす。

 手を伸ばす先は、真っ暗な闇だけ。


 心臓の鼓動が異様なほど早すぎる。


(北条さん……!)


 諸星のバイクが建物にぶつかる音を、確かに二人は聞いた。

 バイクが壊れたということは、諸星の方に何か問題があった可能性が高い。


「京極っ!」

「悪い沢渡!」

「ああ、あとは任せろ!」


 京極が急いで後退する。

 そして自身のTECバイクに乗り、彼らの元に向かう。


「三上、北条の回収を頼む!」

「わ、分かりました!」


 バイクを走らせる先で、ヘルメットを外した諸星の姿を確認し、走りながら回収した。


「諸星!」

「た、い……」

「喋るな、今すぐ連れて帰る!」

(ヘルメットを北条に被せたか……)


「生きろよ、生きろよ!諸星!」



 ♢♢♢



『くそっ……何とか……止めねえと……!』


 村主 啓は何とかして立ち上がる。

 だが、身体の痺れがなかなか取れなかった。

 思うように体が動かない。


 ペヅマウは沢渡と楓と戦いを繰り広げていた。


「ダンナ!」

「沢渡チャン!」

「これ、もう鳳華院入ってる時点でいいでしょ……永友さん、行くよ!」


「隊長!副隊長も!」

「周防くん、行くよ!」


 続々とジャリアーの集団から抜けて、前線に現れる。


「よし、抜けた!」

「抜けたからって、安心出来そうにないな。」


 比較的前にいたことと、数いるガーディアンの中で前を目指して進んだ村主と芹澤。


「父さん……!」

「村主、準備はいいか。」

「……ああ。芹澤!」

「行くぞ!」


 ガーディアンの数が増えたことに気づいたペヅマウ。

 対抗するためにペヅマウは、周囲の黒煙を吸収し、彼らの相手に煙の分身を繰り出した。


「くっ!これは……」

「沢渡チャンと鳳華院チャンに、近づけさせない気ね!」

「上等よ!」

「さっさと片付けます!」


 早乙女、永友、日比野、周防がそれぞれの相手に向かう。


「なんで煙なのに、実体があるみたいな攻撃を……」

「おそらく、それも怪人の能力の一つ……」

「ガンバりましょ、もしかしたらアタシ達に能力を使うことで、怪人の戦力が落ちてるかもしれないわ!」

「そうね、いくよ!」


 そして、村主と芹澤もまた……その煙の分身と相対していた。


「大丈夫か、芹澤……!」

「お前もな……!」

「うおおおおおおおお!」

「はああああああああ!」


 各々武器を構え、押していく。

 だが、


「がっ!」

「村主!ぐっ!」


 村主の首が掴まれてしまった。

 芹澤が何とか助けに行こうとするも、相対するもう一体の相手に手間取っていた。


『諒!』


 霞む視界の奥で、自分の息子を苦しい表情を見た。

 それを見て、一気に自分に襲い来る全てが吹き飛んだ。


『てめえ……!俺の息子に……!』


『なにしてくれてんだああああ!』


 村主 啓は叫びながらタックルした。

 そのまま煙を吹き飛ばし、村主の首を絞めるペヅマウの分身を消し飛ばした。


「父、さん……」


 村主 啓はそのまま、芹澤の相手する分身を投げ飛ばした。

 飛んでいった分身は、そのまま消えていった。


(こいつが……)


 芹澤はその怪人を見た。

 人の面影はない。

 だが、何かが違う……そんな気がした。


『無事だったか、諒。』

「うん、大丈夫。ありがとう。」

『ああ。君も、大丈夫か。』


 村主 啓は息子に無事を確認すると、芹澤の無事もまた確認した。


「ありがとう……ございます……」

『うん、どういたしまして。よし、』

「あの、」


 芹澤は村主 啓を呼び止めた。

 ……どうしても、聞きたいことがあったからだ。


「本当に……村主の、父親なのか?」

『そうだ、信じて貰えないかもしれないがな。』

「あんたは……あんたが父親だって言うことで、自分の息子に影響が出るとは考えなかったのか?自分の息子が怪人と親子だと知った他の連中が--」

「芹澤っ……!」


 村主が芹澤の言葉を遮った。

 先程共に戦った時とは、違う視線が村主から向けられていることに芹澤は気づいたのだ。

 芹澤は言葉を続けず、単刀直入に一番聞きたいことを聞いた。


「結局、あんたは自分のことしか考えてないんじゃないか?」


 その問いに、芹澤は自分の思いも乗せたのかもしれない。

 どうしても……質問しながら、芹澤自身の父親の姿が消えなかった。


 そして、村主 啓の口から出てきた最初の言葉は……礼だった。


『ありがとう、息子のことを思ってくれて。いい友達を持ったな、諒。』

「俺は……別に……」


 そして、


『確かに、俺は自分のことしか考えていないのかもしれない。だけど、だけどな。これだけは切っても切れない、偽れない。たとえ俺が諒のことを息子じゃない、たった一言そういうだけで息子はずっと、一生それを引きずって生きるかもしれない。それだけはしたくないんだ。なにより、俺が自分の息子を自分の息子じゃないなんて言えない……言いたくないんだよ。』


 村主 啓は拳を強く握り、ペヅマウを見据えた。


『これは確かに、自分のことしか考えていないからかもしれないな。だけど、自分の息子……諒のこと。自分の愛する人……真伊のこと。それを自分の力に出来るだけで、生きよう、頑張ろうって思えるんだよ。それを偽らないだけで、どんなに苦しくて、どんなに暗くても、光になって自分を救ってくれるんだよ。』


 村主 啓が、村主 諒を見た。

 そして、頷いた。


『俺がどんな姿をしていても、家族が俺を知らなくても、家族が俺を裏切っても、俺が怪物になっても、俺は諒の父親だ。一生変わることの無い、消えない絆。これだけは……これだけはだけは偽る訳にはいかないんだ!』


「……」


『君に何があったのかは分からない。けれど、向き合うんだ。向き合うことで見えるものがある。向き合うことで強くなれる。私みたいに、今になって気づく前に……後悔する前に……ね。』


「……」

(向き、合う……)


『諒を、よろしく頼むよ。』


 村主 啓はそう言うと、前に進み出した。


「父さん……」


 村主が思わず声をかける。

 そして、彼は振り返ってこう答えた。


『行ってくる』

「父さん!」

『!』

「行って、行ってらっしゃい!」

『……っ!』


 いつもの、挨拶だった。

 いつも通りの、挨拶だった。


『ああ!』


 力強くそう言うと、村主 啓はペヅマウに立ち向かった。


 戦い続ける沢渡と鳳華院に割って入って、ペヅマウと組んだ。


『うおおおおおおおおおおお!』


 今度は力負けしない。

 互角の力と力のぶつかり合いだ。


『うああああああああああああっ!』


 なんと、徐々にペヅマウが押され始めた。

 ペヅマウが「まずい」と感じたのか、黒煙がフクロからで始めた。


(また煙……!)


 このままじゃ、さっきに二の舞である。

 また膝を着いて、終わり。


 ……



 同じことを繰り返さないためにどうすればいい?


 このまま倒す?

 いや無理だ。今でさえ、限界なのに……!


 どうすれば……



 そこで、ある考えが村主 啓の頭にぎった。


(同じ力があれば……対抗できるか?)


 なにかにぶつかる。


(同じ力があれば……)


 なにかにぶつかった。


(諒を守る力を……)


 ピシッ


 なにかにヒビが入った。


(諒を守る力を……舞を守る力を……!)


 ピシ、ピシッ


(守る力を……俺にくれ!)


 パリィン……!


『ぐ、うっ!』


 頭に、なにか強い力を感じる。


「父さん!」


 背後から、心配そうな息子の声が聞こえる。


『心配、いらない……!』

(ここで弱いところ見せちゃ、ダメだろ……!)


 ズズ……と、村主 啓から黒いオーラが漏れ出始めた。


『う……うおおおおおおおおっっっっっっっ!!』


 村主 啓からオーラが出始めた。

 そのオーラを、村主 啓は纏った。


 そしてそのままペヅマウを押しきって、倒してしまった。


『いくぞ!』


 そう言って、村主 啓が構えた。

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