怪人 vs 怪人

 

「飛鳥井、村主、東雲、王城!?どうしてここに……いや、それより--」


「怪人!?」


 ここにいる皆が驚くのも無理はない。

 何しろ、自分達が戦ってきた相手が、戦わなければいけない相手、まるで味方であるかのようにこちら側にいるのだ。

 驚かないわけがなかった。


「ああいや、芹澤……これは…… 僕は反対だったんだけど……」

「言いたいことは分かるけど--」


 言い訳から始まった飛鳥井と庇う様な発言は芹澤の耳に入らなかった。


(カッコつけ保身の飛鳥井がこんなことに賛同するわけが無い。王城は……おそらく鳳華院 楓あのひとの指示に従った。東雲は絶対にこんな事態に賛同しない。なら……)


「お前か……?村主。」


 芹澤が村主を改めて見据えた。


「だったら……」


 村主が目を逸らさずに、芹澤を見据えた。


「だったら、なんだ。」


 芹澤でも分かった。

 彼に何か大きなキッカケがあったことが。

 そうでないとこの短期間、あるいは一瞬か。

 ここまで変わることが出来るだろうか。


 彼の目と、その纏う雰囲気は今までよりも強くあった。


「自分から意見を言わない、同調ばかりのお前が……」


 思わず言葉として出てしまった、芹澤の抱いた思い。


「その怪人に……」

「?」


 村主の語調が変わった。

 同時に、顔つきが変わった。


「その怪人に、手を出すな。」


 強く、だが静かに熱い意思を見せるその姿。

 本当に彼の……村主に一体何があったんだと、芹澤に強く思わせた。


「鳳華院……お前……」


 楓が沢渡と京極の間に割って入り、前に出た。

 楓は京極はもちろん沢渡にすら目を合わせようとしない。それどころか、目の前にいる怪人を見据えもしないでレーザーロッドを用意して構えた。


「お待たせしました、退いてください。」


 そう言うなり、鳳華院 楓はペヅマウに向かっていった。


「はやっ……!」


 思わず退いて見ていた周防が思わず声を出した。


「いきなり出てくるとは……クールじゃないか……鳳華院。」

「おい、説明を……!」


 感心する京極だったが一方で、沢渡の近くにいるの説明をしろと言いたげな言葉がかき消された。

 もちろん、説明を求める理由はババルスォ……村主 啓のことだ。

 楓に着いて来た怪人の説明を欲した。


 当の怪人は、目の前にいる怪人の姿に見覚えがあった。


『川口……なのか……?』


 自分とは別の怪人。

 そうなると、思い当たる。

 自分の他に怪人になってしまった者のことを。


『チカラヲ……チカラヲオオオオオオオオオオオオ!』


 面影を感じ取れるのは、その暴走した欲望だけだった。


『目を、覚ませ……川口っ!』


 村主 啓の叫びも虚しく、ペヅマウは煙を爪に変化させ、そのまま攻撃を仕掛けた。

 村主 啓は両腕の盾で攻撃を防ぐも、視界は黒煙で遮られ、その黒い煙の力任せに押し切ろうとする。


『ぐぅう……!』


 通常の怪人体である村主 啓に比べ、暴走しているペヅマウとの自力の差は歴然。

 耐えられずにそのまま押し切られる。


『ナメるな……あああああああああ!!』


 力づくで何とか煙の爪を逸らし、ダッと前に出た。


 黒煙を抜けると、その奥では楓とペヅマウが戦いを繰り広げていた。


 鳳華院 楓の戦い方は、傍から見ても化け物だった。

 沢渡や京極とはまた違う。


 沢渡の繰り出す連撃がたゆまず燃ゆる進撃の炎、京極の繰り出す一撃が全てを蹴散らす一閃の稲妻だとするならば。鳳華院 楓のスタイルは"水"であった。


 全ての攻撃を水の流れのように避け、その流れのまま一定の距離を保ちつつレーザーロッドの攻撃を与える。


 その姿は"鮮やか"に尽きる。


 楓は村主 啓が迫ってきたのを察して、楓がその場から退いた。

 そして、村主 啓が来たことに怯んだペヅマウ。

 そのスキに村主 啓はすぐさま腕を掴み、一本背負いした。


「おいおい……」

「伊達に怪人じゃあないというわけか……」


 あの怪人を背負って投げた。

 その事実は沢渡と京極を驚かせた。


 ここまでわずか数十秒。


 ペヅマウから黒煙が放たれる。

 それを軽々と両腕の盾で防いだ。


 効かないと判断したのか、ペヅマウは煙を誘導に使い、村主啓のスキを伺った。


 そちらに集中していると、楓がレーザーロッドで攻撃する。


「俺達もいくぞ。」

「ああ、沢渡。クールにな!」


「ひゅっ……」


 ペヅマウの攻撃を、楓がしゃがんで避けた。

 そして、楓がレーザーロッドによるカウンターを炸裂させた。


『ぐっ……!』


「はあっ!」


 そこを京極が二刀のレーザーサーベルによる一撃が繰り出す。


 さらに、


「はっ……!」


 沢渡のレーザートンファーによる連撃が追い打ちをかけた。


 その背後で早乙女と永友が指揮をしようとしていることに、気づいた。



 ♢♢♢



『戦況は、よくないな。あからさまに不利だな。』

『多勢に無勢……どうするのです?あなたは。』


『少々手伝おうか。』


 そう言うなり、フェルゴールはペヅマウとの戦いへの参加を伺う早乙女・永友が率いるガーディアンズ達を見据えた。


『行かないのですか?あなたは。』

『俺が行ったら、戦況は変わっても戦闘データは取れない。俺の目的は、あの二体のデータ収集だ。』

『あの二体のデータ収集なのに……手伝うことはいいのですか?あなたは。』

『すぐに終わっても仕方ないだろう?安心しろ、かき乱すだけだ。』


 そう言うと、フェルゴールは「ゲート」を唱えた。



 ♢♢♢



「手を出すなとは、どういうことだ。」


 そう言ったのは早乙女だ。

 目の前に敵である怪人がいるにも"手を出すな"と倒す側が、守る側がそう言うのだ。

 問題しかない。


「鳳華院隊長の、指示でもあります。」


 難しい指示である。

 指示とはいえ、臨時の隊長である鳳華院 楓。

 しかし、本来の役職は"副隊長"。

 さらに難しいのが、支部長のご子息であるという点である。


「しかし、怪人には変わりないかと。」


 そう言ったのは、東雲。


(やっぱりか。当然の反応だな。)


「東雲、お前まだ言ってんのか……!」


(やっぱり最初から言ってたか。っていうことは当然、鳳華院さんの指示にも反対だったな。)


「当たり前でしょ……?怪人を始末せずに、見逃すなんて……!」


「解決した問題にまだ文句あんのか!今そんなこと言ってる場合じゃねえだろ!」


「私達は"ガーディアンズ"よ?違う!?」


(くだらない。)


 東雲の発言に、芹澤はそう感じた。


(ガーディアンズ……だったらなんだ。偉いのか、強いのか?ガーディアンズだからって、普通の人と何が違う。なんでそんな"ガーディアンズ"っていう"名前に縛られなきゃないんだ。)


 だがこの思いは口には出さない。

 自分はくだらないとは思うが、それを誇り……あるいはプライドにしてこの戦いに参加しているものもいる。

 そして、それを謳う者として真っ先に頭に飛鳥井と……そして村主の姿が浮かんだ。


 今でも覚えている。

 あの時、鎧の怪人と戦った時に飛鳥井と村主が"ガーディアンズ"だからこそ逃げないと言っていたことを。


 だからこそ、今。

 村主が東雲の発言にすぐさま賛同しないのが、芹澤にとって不思議で仕方なかった。


「ガーディアンズだから、絶対に怪人を倒さなければならないのか!?」


 その発言に芹澤は驚いた。

 まさか村主の口からその言葉が出るとは。

 その上、この発言はここにいるガーディアン達を敵に回すと言っても過言ではない発言だった。


「その怪人が、父親だとしても……俺は怪人に刃を向けなきゃならないのか!?」


 その発言で、芹澤は村主がこの短い時間で、ここまで変わった理由に対して腑に落ちた。

 話を聞いた早乙女と永友、そして日比野と周防も、まさかと思える考えに至った。


(そうか。村主、それがお前の……)


 村主の言葉を鼻で笑い、東雲は言葉を続ける。


「そんなことある訳ないでしょ!あんたはただいなくなった父親に縋って、重ねてるだけ!しかもよりによって怪人に!」

「誰もがお前のようになれると思うな!お前のように割り切れると思うな!俺はお前が鎧の怪人を撃ったように、俺はできない!」


 それに東雲の目付きが変わった。

 だが、


「いい加減にしろ!」


 早乙女の発言で東雲と村主は我に返った。


「二人とも、落ち着いて。」


 日比野が二人に落ち着くよう言うと、続いて早乙女が口を開いた。


「いつ命を失ってもおかしくないこの戦場で、口論などというくだらないことに体力と集中を使うな!」


 思わず声を上げた早乙女。

 それにより、緊張感が薄くなっていた周囲の空気をヒリつかせ、ここが戦場だと再認識させた。


 永友は早乙女の肩にポンと手を置いた。


「織沙チャン落ち着いて。とにかく、沢渡チャン、京極チャン、鳳華院チャンがスキを作ってくれるわ。それに備えましょ。今は暴走しているあの怪人を……」


 そう言ってると、周防が武器を構えた。

 続くように早乙女と永友、日比野も気づいた。


(今か……!?)


 四人がアイコンタクトを交わし、それぞれが攻撃を仕掛けようとしたその時--


 目の前に、黒い空間が突如現れた。

 目の前だけではない、背後もだ。

 その中から、黒い身体から逆立った襟のようなものと白のスカーフベルトを着用した骸骨の怪人がぞろぞろと現れた。


「言ってる場合じゃないようだな。まずはこいつらを蹴散らしてからだ。」

「ええ、そうね。」


 続々と現れたジャリアーを殲滅すべく、ガーディアンズが武器を構えた。


「誰も信じないなら、いいさ。」


 村主はレーザーサーベルを構えた。


「俺は信じる。例えみんなと戦うことになっても、家族を守る!今度は俺が!いつも守ってもらったんだ!今度は俺が守る番だ!」


 村主が一人ジャリアーに立ち向かい、レーザーサーベルを振るう。

 その背後からジャリアーが迫る。

 目の前からも来る敵に集中していた為、村主の反応が遅れた。


「っ!」


 しかし、そのジャリアーはレーザーランスによって貫かれ、消滅した。


「芹澤……」


「手、貸すよ。」


 芹澤はそう言うと、村主の後ろについた。


「芹澤……なんで……」

「手伝うって言ってんのに、なんでって聞くか?」

「だって……」


 周囲からジャリアーが迫る。

 二人は武器を構え、迫り来る敵を相手にしながら、言葉を交わす。


「だって……俺、怪人を……怪人を守りたいって思ってるんだぞ……!」

「そうか……!」


 芹澤はそう言うと、目の前のジャリアーを三体まとめて蹴散らした。

 そして、口元に笑みを浮かべて理由を答えた。


「普段のお前より、今のお前の方がかっこよく見えた。それだけだよ。」


「芹澤……」


なら、ちょっとは信頼出来る。」


 敵を蹴散らし、村主の上に迫るジャリアーを突き刺した。


「ほら、お前の父さん守るんだろ。さっさと蹴散らして前線に参加するぞ。」


 村主は上の敵に気づけないほど、油断してしまっていた。

 油断していけないのはもちろん分かっている。

 だが、嬉しかった。

 他の感情がそっちのけになるほど、嬉しかった。


「ああ、ありがとう……」


「なんか言ったか?」


(ありがとう、芹澤。)


 いくら倒しても敵が減る様子はない。

 まだぞろぞろと敵は現れる。


「はあああああああああ!」

「ふっ!」


 二人は周囲の敵を一掃すると、ペヅマウがいる……沢渡、京極、楓がいる……そして、村主 啓がいる正面を向いた。


「そこをどけ、父さんが前で戦ってるんだ……!」


 村主はレーザーサーベルを構え直して、現れる敵を見据えた。


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