さあ、ここから


「第5小隊が撤退、先程感じたプレッシャーの怪人も撤退ロスト。現在第二小隊が交戦中。」

『この先を真っ直ぐに進もう。この先に、怪人がいる!』


 近くから咆哮が聞こえる。

 近くからプレッシャーを感じる。


「そうらしい。」


 楓がアクセルを吹かして、スピードを上げた。


 敵はもう近い。



 ♢♢♢



「三船さ、ん……」

「おう、起きたか。隊長。」


 気絶していた堀田が目を覚ました。

 だが、目もちゃんと開いておらず、意識もまだはっきりしていないようだった。


「……ら……きゃ……」


 力を振り絞った、小さな声が聞こえる。


「なんだ?」

「戻……らなきゃ……」


 震える声で堀田は繰り返した。

 それを聞いた三船が、焦りと怒り混じった叫びで諭した。


「ドアホ!このまま行っても死ぬだけだ!足でまといになる!」


 ギリッと歯ぎしりした堀田を見た三船。

 形は違えど、この悔しさを彼には痛いほど分かるのだ。

 だが、だからこそ。


「いてもたってもいられんのはわかる。だが、おれは……いや、俺たちはてめえに死んで欲しくねえんだよ!」


 だからこそ、このまま自分の仲間を……隊長を死なせるような真似をさせたくなかった。


「……」

「期待に答えてえのはわかる。だが、それはまず生きてからだ!てめえはレベルS相手に一人で増援来るまで踏ん張った!休みな。てめえはもう、十分に頑張った。」

「ありが……」


(気ぃ失ったか……)


 自分が動けなかった。

 それを恥たり、後悔する間もない。

 ただ、こいつを助ける。

 今はそれしか考えられなかった。


(ぜってえ……死なせねえからな……!)



 ♢♢♢



 荒谷工業・東京本社前


 

『オオオオオオオオオオオ!!』


「これは……まるで……」

「ええ、あの時の……」


 京極と諸星が思い出していたのは、以前のブウィスタの状態であった。


「……Be cool (冷静に)……」


 目を瞑り、深呼吸する京極。

 そして、目の前にいる強敵を見据えた。


「いくぞ……諸星、北條、三上……」


「「「はいっ!」」」



 ペヅマウの黒い煙のような鉤爪が、ビュッと伸びた。

 それはまるで、「一人一人を相手してやる」とでも言いたげにガーディアンズの前で大きくなり、立ちはだかるのだった。


『チュアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 敵の動きを阻むように、動きを制限するように黒い煙の鉤爪が襲い始めた。


「厄介な……!」


 攻めあぐねていると、煙からヌッ……とペヅマウが現れた。


「っ!?」


 咄嗟に構えるも、先程とは打って変わって重い一撃が京極を吹っ飛ばした。


 京極は自ら後ろに退くことにより、衝撃を後ろに逃がした。


「くっ……気をつけろ!その黒い煙から怪人が現れる!」


「だったら本体を……!」


 北條がレーザーガンを構えた。

 構える先は……もちろん怪人。


 しかし、ぬっと北條の目の前から怪人が姿を現した。


「北條さん!」


 諸星がそれを察知し、すぐさま駆けつけようとするも、黒い煙に阻まれる。


「っ……!」


 北條の思考が停止した。

 だが、体は動く。


 レーザーガンを持った手は、目の前の怪人の頭に狙いを定めていた。


 そしてその引き金を……




 引く前に、怪人の一撃が北條の頭を直撃した。

 放たれたレーザー弾は、怪人から逸れてしまった。


「北條!」


 ダッと京極が走り出し、なんとか地面へ落ちる前に北條をキャッチした。

 しかし……


(北條は、もうダメだ……戦わせる訳にはいかない……!)


 頭を守るためのヘルメットはもうボロボロになっており、気絶していた。


「諸星!北條を任せていいか!」

「了解!」


 京極はすぐに駆けつけた諸星に北條を渡し、すぐさま前に出た。


「三上、バックアップを頼む!」

「はいっ!」


(さて……二人でどう戦うか……)


 レーザーソードを二刀を構え、敵を見据える。


(もう仲間を失ってたまるか……!)


 北條の方に向かう怪人に反応した京極--


 その時、レーザートンファーの一撃が入った。



「お困りかい?お兄さん。」



「沢渡!」

「助けはいるか、京極。」

「ああ、頼む……!」


(ああ、あの時と……一緒だ……)


 沢渡はあの時を思い出していた。

 シニガミ討伐戦で、たった一人で向かう若輩だったあの時を。

 誰もが諦める中、諦めずに戦ったこの男の背中を。


(やっぱり……お前は……)

「クールじゃねえか。」


 沢渡はニッと笑い、レーザートンファーを構えた。



 ♢♢♢



『大集合だな……さて、どうなるか……』


 フェルゴールはビルの屋上で、その有様を観察していた。


 その後ろから、足を引きずりながら歩く音が聞こえた。


『ハァ……ハァ……』


 モウィスだ。

 ガーディアンズにやられたモウィスは、何とか逃げ延び、フェルゴールの前に姿を現した。


『無事だったか。』


『知っていたでしょう……無事だったか、どうかなど……この私が……』


 ドサリと倒れ込み、荒れた呼吸で息をする。

 別に人間がするように、生きるために呼吸をするためではない。

 傷の癒えを早める為に呼吸するのだ。

 いわば、全身にデベルクのエネルギーであるグラッヂを循環させるためのポンプの役割を呼吸は持っていた。

 だからこそ、怪人でありながら、モウィスの呼吸は荒れていた。


 その哀れで無惨極まりないモウィスを、フェルゴールは見下していた。


 それを見上げたモウィスは、冷たい何かを感じていた。


 自分はここで消滅えるかもしれない--


 そんな思いが頭に過ぎった。


 自分の選択が正解だったのか、間違いだったのかで思考が埋まり、グルグルと頭の中が泳ぎ出したのだ。


 フェルゴールの足音が、カツカツとモウィスの耳元で響く。

 フェルゴールがモウィスに近づき、そばに来たのだ。


 モウィスは思わず目を瞑った。


 自分の死を……悟ったかのように。



 しかし



 フェルゴールのとった行動は、モウィスにとって予想外のものだった。



 フェルゴールはモウィスのそばにしゃがみ、声をかけたのだ。


『よく無事だったな。』


 こう、声をかけた。


 それを聞いたモウィスの瞳孔が開いた。

 驚きのあまりで、だ。

 そして、次に目をギュッと強く閉じた。


 モウィスには、実感はなかった。

 彼にとっては不思議な感情だった。

 生き延びることが出来て良かったと、心から思ったのだ。


 フェルゴールの言葉に、"感動"……したのである。


 もちろん、彼にはこれがどんなものかは分かってはいない。


 だが、尚更興味を抱いた。

 こんな気持ちにさせたこの怪人に。


(だからこそ……そばに……!)


『どうかしたか。』


『い、いえ……』


『先に帰るか?』

『なぜです!?この私が……!』


 フェルゴールの言葉を聞いて、思わずモウィスは起き上がった。


『強くなりたいか?』

『はい……?』

『強くなればもうあのような奴らに敗北することもない。』


 フェルゴールがモウィスに問うた。

 ブウィスタと同じように。

 同じ怪人であれば、絶対に力を欲するだろうと考えたからだ。


『いえ、お断りです……この私は。』

『は?』


 しかし、モウィスの答えはフェルゴールにとって予想外のものだった。

 フェルゴールの反応が、それを示したと言っても過言ではない。

 彼の口から、思わず言葉が零れたのだ。


『仮に強化して……暴走なんてしたら、自我がなくなるかもしれないでしょう?そんなのごめんです……この私は。』


 フェルゴールの側に立ち、モウィスは笑みのような表情を浮かべて答えるのだった。


『……変わった奴だ。』


 フェルゴールの言葉を後目に、モウィスはフェルゴールの見ていた戦況を覗きこんだ。

 すると……


『やはり、ごめんです。この私は。』


 今度はフェルゴールを見据えて、モウィスは答えるのだった。

 まるで笑みのような表情を……浮かべながら。


『全く……まあ、いい。ひとまず……』


 フェルゴールがあることに気づいた。


『……!』


 ある一団が、ここに向かっている。


『そうか……その選択を選んだのか、は……!』

『どうかしましたか?』

『見ていれば分かる。ある意味……面白いデータが見られるかもな。ひとまず、連絡だ。』


 左手のウォッチにフェルゴールが触れると、レブキーの映った立体スクリーンが現れた。


『レブキー、聞こえますか。』

『フェルゴール、聞こえマスヨ。』

『モウィスは強化されるつもりはないらしい。』


 モウィスを横目で見ながら、フェルゴールは答えた。

 当の本人は、戦況を見ていた。


『ンンンナント!ハァ……マア、いいデショウ。フェルゴール、アナタのの創作をするデス。』

『しばらくこっちにいるが、問題はないか?』

『問題はないデショウ。暴走しなければ……』

『ペヅマウは暴走しました。』


 フェルゴールがそう言うと、レブキーは大きく頷いた。


『そちらの暴走は大いに結構デス!実に興味深いデス……アナタの暴走と比較して、一体何が同じで、何が違うのカ!アナタがスクリーンをリンクしてくれるおかげで……より鮮明にデータを撮ることができマス。』


『ババルスォはどうなったデス?』


 それを聞かれたフェルゴールが、少々答えづらそうにレブキーへ答えるのだった。


『見ていれば分かる。』

『どういう……イミデス?』

『面白いものが、見られるかもしれない。レブキーにとっては、最悪なことかもしれないけど。』

『?』


 レブキーの頭を傾げる反応を見たフェルゴールは、思わず笑いが零れた。


『アハハ……ひとまず、俺の言ってることが分かったら、ゼスタート様にそれを言って欲しい。』

『よくわかりませんガ……分かったデス。』

『そちらが戦況を伺えるよう、そっちのスクリーンとリンクさせる。』

『頼みましたヨ、フェルゴール。』

『ああ。』


 そう言ってレブキーとの連絡を終えると、フェルゴールもまた、戦況を見据えた。


『さて、どう変わるか……面白いデータは取れるのか……』


 フェルゴールはちらと、迫り来るある一団の方を見たのだった。

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