モウィス vs 第一小隊 前編

 

『お前たちが相手だと……?この私の?』


 周防がレーザーアックスを空にぶん投げ、足にを意識して力を入れる。


「はッ!」


 ダンと踏み込むと、スーツの足部分からシューっと煙が噴き出す。

 すると、周防は勢いよく跳躍した。

 まるでアメコミに出てくるヒーローのように、常人ではありえない飛距離だった。


『なんとッ!くッ!』


 背後ではモウィスを拘束しようとレーザーウィップを構えた日比野が待機している。

 対するモウィスはバサバサっと羽を散らし、攻撃を無効にするクッションにする。


「届けよっ!」


 ビィンという光が増幅するような音とともにレーザーアックスの刃が大きくなった。


『うッ!』


 刃は羽を切り裂き、モウィスはすんでのところで自身の翼でガードするも、レーザーアックスはモウィスの赤き翼を斬った。


 やがて地上に着地した周防が上を見上げた。


「くっ、深くなかった!」


『許さんぞ……この私が!』


 そうこうしてる間に、日比野のレーザーウィップがモウィスの足を捉えた。


『同じ手が……何度も通じると思うのか!?この私に?』


「いいや。思わないさ。」


 真横からレーザーランスを構えた芹澤が現れた。


『っ!』


 すると、モウィスは羽を散らして回転した。

 とっさの判断で離脱した日比野だったが、一方で芹澤はモウィスによる突進を受け、建物の中に突っ込んだ。


「ぅあっ!」


 ガシャアン……

 ガラスの割れる音とともに、芹澤は倒れた。

 心臓の鼓動が落ち着かない。

 幸いにもこの場に誰もいないことを確認すると安堵し、同時に深呼吸をする。

 狙うは怪人。


「このまま、何とか静かに……穏便に……隠れて一撃を……!」


 だが、思考は「積極的(positive)」よりかは、「消極的(negative)」になっていた。

 どんどん自分が死なないためにはどうすればいいか?……という「敵を倒すこと」ではなく、「この状況をいかにやり過ごすか」になっていることに芹澤自身は気づいていない。

 かといってこれが、この判断が正しいことであるのかどうかを教えてくれる者はいない。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 モウィスはすでに芹澤をロックオンしているのだから。


(標的変えてくれるほど甘くないか!)


『一人一人、片付けるとしようか……!この私が!』


 日比野がレーザーウィップの出力を上げて、モウィスを攻撃する。

 対するモウィスは再び羽を撒き散らし、日比野の攻撃をシャットすると、火を纏って芹澤に向かって突進した。


「っ……かは……!」


「芹澤君!」

「周防くん!早く!」


 二人がバイクに乗り込む。


「周防くん、飛行モードを!」

「……ええ、四の五の言ってる場合じゃないですもんねっ……!」


 建物を貫通し、身動きの取れない宙に出てしまった芹澤は、レーザーランスを手放さないよう強く握っている。

 モウィスがやがて芹澤を足で掴むと、上空から叩きつけるように落とした。

 さらにトドメをさすように、芹澤の頭を勢いよく踏みつけた。


 ヘルメットにヒビが入る。


 虫を踏み潰すように、グリグリと踏み潰す。


 ヘルメットからミシミシ音がし、ヘルメットが壊れそうなことによるアラートが鳴る。


「うぉあ……!」


「芹澤君ッ!!」


 勢いよく上空から、日比野と周防が現れる。


『そういうのは得意分野だ……この私は。』


 ボウガンを構え、一瞬で羽の矢を装填する。そして軽々と、標的二人を攻撃した。


「ふっ!」

「はっ!」


 バイクを飛び降り、すぐさまそれぞれレーザーウィップとレーザーアックスを構えて前進する。


 バイクが爆発すると共に、しかけたのは日比野。

 出力を上げてレーザーウィップの射程距離を伸ばすと、牽制をこなす攻撃を繰り出す。

 レーザーウィップを軽くいなす。

 初めは単発だった攻撃は、だんだんと連発になる。

 速度も上がり、攻撃が激しくなっていく。

 すぐさまモウィスは羽を散らし、日比野の攻撃を分散させた。

 そのスキに周防が深く入り込むと、すぐさま出力を上げて攻撃を繰り出した。


 その一撃は、芹澤を助けるには十分な一撃だった。


『ぐぅっ……!』


「邪魔!」


 芹澤がすぐに立ち上がり、ヘルメットを外して投げた。


「あとで拾っとかなきゃな……!」


『やはり群れさせるのはよくないな……私にとっても!』


「フッ!」


 レーザーランスを構え、真っ向から突っ込んで行く芹澤。


 ヒュン、と彼らの目の前からモウィスは姿を消した。

 上空へ飛んだのだ。


『フン!』


 モウィスの羽が花吹雪のように宙を舞う。

 やがて花びらに乗る雪のように、ポっと羽に火が灯った。


 ピッと手を出すと、まるで指揮に従う音のように日比野と周防を襲った。


「くっ!」

「うおおおおおおお!」


 雨のように襲い来る火の灯った羽の矢軍を落とそうと、試みる。

 だが予想以上に数が多い。

 そのため、前に進めず苦戦していた。


 そのスキにモウィスは翼を構え、芹澤に襲いかかった。


(この男から片付ける、この私が!)


「くっ!」

(また!)


 鷹が獲物を捉えるように、芹澤の肩を足で掴んだ。


『誰も片付けられないとなると、流石に笑われる。この私も。』


 そのまま力強く建物に叩きつけた。


「う……」


(これで……)

『終わりだ!』


 モウィスの口から火の息吹ブレスが、勢いよく放たれた。


「芹澤くぅううううううううん!!」


 周防の叫びも虚しく、その息吹ブレスは無慈悲にも芹澤目掛けて直撃した。




 ♢♢♢




(熱い……熱いよ、父さん……)



 涙が出た。



 まただ……

 また……

 熱い……

 痛い……

 助けて……

 でも助けてって言ったら、お父さんが……

 怖い……

 言えない……

 でも助けて……

 苦しい……


 痛いよ……


(火……そうか、こんなもんだったっけ……)



 涙が焼けた。



 またタバコか。

 もう慣れてきたな。

 痕になるけどどうでもいいや。

 どうしよう。

 誰も助けてくれない。


「もう……熱くないや……」



 もう涙は出ない。



 今度は。

 ……タバコじゃない。


 痛い……

 久しぶりだ……


 包丁……

 酒ビン……

 ライター……






 ボゥ








 ♢♢♢



「あああああああああああああっ!!」


 ギラリと芹澤の、モウィスを見る目の色が変わった。


『グアッ!』


 生きていることに驚き、怯んだモウィス。

 虚をつかれ、レーザーランスによる雑な一撃を受けてしまう。


「死んで……死んで、たまるかあああああああああああ!」


 その姿はまさに、戦場に現れた敵将に立ち向かう、無謀な足軽のように槍を構える。

 その姿はまさに、"一心不乱"を体現していた。


 モウィスが羽の矢を装填し、放った。


 その矢は、打って変わった芹澤の身のこなしと槍さばきによりいなされる。

 この状況で、今日まで特訓して染み付いた動きが、極限状態で無意識にかつ最大限に現れた。


 先程、日比野と周防に放ったように多くの羽の矢を放ちたいがそんな時間はない。

「敵」はもうそこまで迫っている。


『スぅーっ……カァッ!』


 モウィスが火を吐いた。が、そんなこともお構い無しに、芹澤は突っ込んでくる。


『クッ!』


 モウィスが再び羽の矢を装填し、放ったその時であった。

 全く同じタイミングで芹澤のレーザーランスがモウィスを貫いたのだ。

 芹澤は左肩を撃ち抜かれながらも、レーザーランスを突き刺した。


「うおおおおおおおおおお!!!」

『アアアアアアアアアアア!!!』


 二人の叫びが、響く。

 街ではなく、空気に、大地に、大空そらに寂しく響く。


 お互いに窮地に立たされた二人。

 だが、二人の決定的な違い。


 それは。


「はああああああああ!」


『グァッ……!』


 周防の重い一撃が、モウィスの背後を襲った。


 とうとうモウィスがよろめいた。


『はァ……ぐッ!』


「う、おあああああああああ!!」

「芹澤君、落ち着け!芹澤君!」


「周防くん!芹澤くん!」


 日比野が二人の元へと駆け寄った。

 どっと疲れがきたのか、芹澤が倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……すみま……せん……」

「少し休んでて。」

「ですが……」

「後は任せてよ。」


 二人の顔つきが変わった。

 より一層、覚悟が……決意が強くなった。


「流石にこのままじゃ情けないね。」

「ええ、沢渡隊長にも……なにより、芹澤君にも。」

「周防君、行くよ。」

「はい、日比野さん。」


 二人の守護者が今、怪人に相対する。


 それぞれに、使命がある。


 怪人と守護者達が、武器を構えた。

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