モウィス vs 第一小隊 後編

 

 ジャキッ


 モウィスの羽の矢が装填される。


(芹澤くんを……!)


 日比野が芹澤の前に立つ。


「ふーっ……」


 周防がレーザーアックスを構える。


 仕掛けたのは周防。

 だが、攻撃したのは日比野だった。

 日比野から、計算されたレーザーウィップの連打が繰り出され、モウィスがそれをかわそうとする。

 だが、いくらトリッキーな変則攻撃をかいくぐっても、そこに周防が待ち構えていた。

 そして彼の斧にも関わらず、早い一撃が飛んでくる。

 かわしたら、レーザーウィップが飛んでくるのだ。


 攻撃を吸収する技を使用しても、先程のように回くぐられるだろう。

 かといって、咄嗟に使おうとしてもスパンが短すぎる。

 そうであれば……


『一気に決着をつける他ない!この私は!』


 ごううと口から火の息吹ブレスを吐く。

 その間に上空へ跳んだ。


 そして羽を撒き散らし、火を灯す。

 羽の矢の一斉放射だ。


「ふっ!」


 スーツの足部分から放出された煙と共に、日比野はモウィスよりも高く飛び上がった。

 周防や芹澤の時とは違い、あきらかに「距離」がある。


『そこは射程距離外だろう?分かるぞ、私には……』


「最大出力!」


 レーザーウィップが大きくなり、射程距離レンジも伸びた。


『ッ!』


 レーザーウィップの一撃がモウィスを襲った。

 すぐさま装填し、ボウガンを構える。

 時すでに遅く、その瞬間上から一撃を叩き込まれた。


 モウィスが墜落する中、その下で周防がレーザーアックスを構える。


「最大出力……!」


 モウィスが羽の矢に火を纏わせて、周防に放つ。


 それを受けてもなお、彼は避けることをせず落ちる標的に狙いを定めていた。


「痛くない……痛くないよ、この程度!」


 レーザーアックスを握る手に力が入る。

 引き裂くように斬り裂いた。


 モウィスが初めて、地に膝をついた。

 モウィスが初めて、地に手をつけた。

 アスファルトの大地の上で、自身の拳を握りしめる。

 そして、何も言わずに立ち上がり、守護者達の前に立ちはだかった。


『はァ……はァ……ゆるさん……』


 モウィスは既にボロボロだ。

 しかし、それでも立ち上がった。


『許さん……許さんぞおおおおおおお!この私がああああああっ!』


 ごおっと強いプレッシャーが、モウィスから放たれた。


「これは……!」


 威圧するようなプレッシャー。

 だが彼らはそれ以上に強く、冷たいプレッシャーを既に体験していた。


 それが油断だった。

 モウィスのそのプレッシャーは意図して、発せられたものだということに気づけなかった。


『ガアッ!』


 モウィスの口から、高密度の火球が放たれた。


 一番早く動けたのは周防。

 日比野と芹澤の前に立ち、レーザーアックスを盾にするように構えて、火球の前に立ち塞がった。


「ぐぅっ……流石に直撃はまずかったか……」


 周防の着用するスーツのグローブが焼けていた。

 なにより、周防の使うレーザーアックスがダメージを受けていた。

 その事実を周防は身をもって感じていた。


 次の瞬間、火の羽の矢がボウガンから放たれた。

 避けずに、立ち塞がる周防に数本の羽の矢が襲いかかる。

 それは焼けたグローブの部分をもかすめ、スーツの効果がない手の部分に激しい痛みを感じる。そのため、レーザーアックスを握る手に、力が入らなくなっていた。


「く……」

「周防くん!下がって!」


 日比野がそう言うも、周防は退かなかった。


「日比野さん、あなたは隊長です。あなたをこの場で瀕死にさせるわけにはいかない!」

「周防くん!」


 ごおお……とモウィスはさらに大きく、高密度な火球を放とうとしていた。


『ガアアッ!』


「はぁあああああ!」


 モウィスが大火球を放とうとした瞬間である。

 モウィスの背後から、何者かがモウィスを斬った。


「間に合った……!」


 早乙女 織沙さおとめ おりざが率いる第三小隊が到着した。


「第三小隊……!」


 思わず呟いた周防。

 安堵したのか、その場に膝を着いた。

 モウィスの背後には、駆けつけた第三小隊がいた。


 早乙女さおとめを確認すると、日比野が彼女の元に駆け寄った。

 早乙女も日比野の元へ向かっていた。


織沙おりざさん!ありがとうございます!」

「遅くなってごめんなさい。雑兵が予想以上に多くて……」


 そのため、早乙女を含め第三小隊はインストールブレスレットを起動させており、既にスーツを着用していた。


「日比野さん、状況は?」

「芹澤くんが……」

「あの子……分かったわ。日比野さんまだ動けるかしら?」

「うん、大丈夫。」

「サポートお願いできます?前に出ます。」

「分かったわ。」


 日比野との会話を終えると、早乙女は第三小隊を見据えた。


「第三小隊!アタシと日比野が行く!援護を!」

「「「「はい!!」」」」



 日比野と早乙女の会話の様子を見ていた第三小隊に安堵と余裕が生まれた。


「相変わらずね、お嬢……隊長も。」

「まーまー。お嬢……隊長の数少ない友人なんだ、温かく見守ろうや。」

「それもそうね。」

「そら。ごちゃごちゃ言わんで、さっさと構え!」


 その掛け声で第三小隊に気合いが入り、戦闘態勢をとった。


『増援、か。この私に。』


 モウィス羽の矢を装填し、早乙女に向かって構えた。


『どれだけ来ようが同じこと、倒すだけだ!この私が!』


 次の瞬間、スっとモウィスの翼に一撃が入った。


『グ!』


 モウィスは思わずその場から身を退いた。


「やってみな。」


 早乙女は独特な構えでレーザーサーベルを構えた。


仕込みの剣技、簡単に逃れられると思うな!」


 そう告げるとすぐさまモウィスに斬りかかった。


『ぐッ!ク!』


 数多くの剣戟がモウィスを襲う。

 先程の者達とは明らかに違う動きで、攻撃してくる。

 さらには、早乙女の攻撃しない「間」と「場所」を日比野がレーザーウィップで攻撃する。

 レーザーウィップで行き届かない場所を、第三小隊でレーザーガンを使う隊員が攻撃する。


 スキのない、訓練された、息の合った連携だった。



 モウィスは焦燥した。



 このままでは自分が消えてしまう可能性がよぎったからである。


『やはり数には、勝てぬか……この私も……』


(消えたくない……私は……まだ、まだ!)




 ♢♢♢




 思い出すのは、あの方の言葉。

 思い出すのは、あの方の姿。


 あの方は、どうしてあんなにも嬉しそうに悲しそうに、二つの感情が入り交じった声で話すのだろうか?


 あの方はどうして、同種だった地球人にここまでできるのか?


 どうして、この世に存在していられる?


 どうして、一介のデベルクをここまで信用できる?


 正直な話、ゼスタート様より興味があるのだ。


 まだその先を見ていない……この私は!


 であれば、であれば!


『悪いが、このままでは消滅えられぬ……この私は……』


 あの方の行く先を見てみたい。




 ♢♢♢



 ここにいる者たちは目を疑った。

 怪人が笑ったのだ。


 何かを思い出したように。

 思いをはせるように。


 それはまるで、””が見せるような……


 思わず、彼らは怯んだ。

 見入ったと言っても過言ではない。



 それほどまでに普通だった。

 普通だったからこそ驚いた。

 人間が見せるものと同じだったからこそ驚いた。


 そのスキに、モウィスは力を振り絞ってこの場から離脱した。


 向かう先は、あの人の元だ。


「逃げた、だと!?」


「あの怪人もか……」


 立ち上がり一人どこかの空を見上げる。

 そして、先程投げたヘルメットを取りに歩いた。


「日比野さん。光式武器のチャージは?」

「そろそろ心許ないけど……もうバイクは……」

「私のバイクについてるチャージ、使って。」

「周防くん、あなたもチャージするでしょ?」



 つかの間の、一息である。


 だが、それはすぐに終わりを告げた。



 ぶわっ



 と大きなプレッシャーを波のように伝わるのを感じた。


 冷たい、冷たい波だった。


 そしてなにより、与えてきたものは「恐怖」だった。


「この感覚……!」


 あいつが……いる!


「芹澤君!」


 静止する声が耳に入らないほど、あの怪人のことでいっぱいになっていた。


 体は……休めたおかげで動く。


 場所は遠くない……

 でも、バイクを取りに戻る暇はない……


 お前には、聞きたいことが山ほどあるんだ……!


「芹澤だっけ、ちょっと待ちな!」

「!」

「焦るな。そんな状態で行っても間に合うわけないだろ。」

「なら……!」

「乗りな。触ったら殺す。日比野さんと周防だっけ。お前達、二人を乗せてあげな。」


「はいよ!」

「はーい!」

「了解!」

「はい!」


 その指示に一斉に返事する第三小隊。


「いつになったら、名前覚えて貰えるんだろ……」


 周防の小さなつぶやきに、日比野と第三小隊の隊員達が笑った。




 ♢♢♢




『俺が行くまでもなかった、か。自分から退ける判断ができるとは……さて、』



 そこには、全員が倒れた第五小隊がいた。



『終わりか。』


 威圧する冷たいプレッシャーにより隊員達が身動き取れない中、傷だらけの堀田は立ち上がった。


「ま、だ……終わってない……!」


 そう言って、レーザーサーベルとレーザーガンを構えるのだった。

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