3章 怪人フェルゴールと二人の怪人
仕組まれた悲劇
「やはりここか……」
「ああ……あなたは……」
柊サイは病院に来ていた。
理由は、江角順也がここにいるだろうと予想したためである。
江角順也がここにいる理由、それは弟の淳が入院していたためであった。
「なにか用か。」
「いや、あなたに聞きたいことがありましてね。」
病室の外へ移動して、話を続ける。
江角はどこか、やつれているようだった。
「なんだ。」
「あなたの知り合いだという警察の方、本当になにも知らないのですか?」
「どういうことだ。」
江角は近くの椅子に座り、柊を見据えた。
「あなたのその知り合いの警察の方……息子さんがいるはずです。
「ああ。」
「彼は最近大怪我をしたそうですが、では一体なぜ大怪我をしたのか。そのデータがない。なにか事故の事件に巻き込まれた訳でもない。彼は普段学校に行っている普通の学生のようですが、放課後の動向が全くもって不明なのです。
もう一点。あなた知り合いのその警察の方、普通に考えて出世の早さが異常過ぎる。特例とはいえ明らかにおかしくありませんか?むしろそれがどうして当たり前かのように捉えられているのか不思議です。」
柊の話を受けて、江角はため息を吐いた。
それはもう、諦めて無理無理ーっていうように。
やりもしないのになぜか諦めている様な反応であった。
「仕方ないだろ。丞厘(じょうりん)警視総監に気にいられたのなら……」
「けど……そのバックにいる人物が分かれば、近づけるかも。あなたの弟さんをこんな目にした犯人の足がかりが掴める、かも。」
その言葉に反応し、江角の目がカッと開いて顔ごとガバッと柊の方を向き、彼を見た。
だが、ハッとなりすぐさまうなだれた。
「なぜそれが言える。村主さんを問い詰めたところで、そのバックの人物が聞けるとでも言うのか?そもそも、バックに誰かいると決まった訳ではないだろうに。」
やれやれと言ったようにため息を吐き、江角は柊を見据えた。
「もし、彼が全てを知っているとしたら?もし、彼が全てを知った上であなたの意見を聞かなかったのだとしたら……彼がなにかを意図的に消したのだと思いませんか?例えば、一年前の事件の防犯カメラの記録とか。」
「……なるほどな。だが、それを村主さんがするメリットが……」
「自分の意思ではなくとも、命令でそれを行うことだって十分にありえます。可能性はゼロじゃない。聞いてみる価値はあるはず。」
「へっ。そんな都合よくいくかねぇ。」
江角は不意に柊から顔を逸らした。
意味ありげに。少なくとも、柊にはそう見えた。
「そこまで彼を……村主サンを疑いたくないのですか?」
「なんだと?」
ピリッと空気が張り詰めた。
険悪な空気が漂う。
どうやら柊の問いかけが、江角の勘に触ったようだ。
「まるで、自分から核心に迫るのを避けるような……いや、避けたがっているような。」
「揉め事になるのを避けたいだけだ!」
「では、弟の事件は未解決のままでいいと?」
「なんだと!」
ガバッと立ち上がり、柊の胸ぐらを掴んだ。
「っ!」
だが、江角はすぐさま離した。
いや、離してしまった。
本能がそうしたのだ。
江角の額には、冷や汗をかいていた。
柊の目の奥に、なにかを感じた。
冷たい、なにかを。
その闇に飲まれそうになった。
振りほどかれた場所をパッパと払い、ワイシャツを整え、スーツを羽織り直した。
「行動から成功あるいは失敗という価値が生まれるのです。行動をしないものが得られるものはない。行動して失うものもあれば、得られるものもある。あなたはこのまま行動を起こさないことでなにも得ずに、この事件をただ作業のように追い続けることを望むのですか?」
「っ……!」
その言葉が心にきたのか、それを聞いて目に光が宿る。
そして、江角は柊をじっと見据えるのだった。
「ええいっ……やってやろうじゃねえか。」
「そうですか。では、行きましょうか。」
「い、行くって……警察庁ですよ。その彼がいる。」
「もう行くのか!?」
「当たり前です。行動は早い方がいい。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……!」
先を急ぐ柊の後を慌てて追う江角。
江角が病院を出て柊に追いついた。
その時だった--
ボカァンという衝撃音と共に、病院が爆発した。
「っ!」
「なんだ!?」
その後も次々と爆破され、病院が炎に包まれていく。
「そんな……!淳!」
「待て。今行ったらお前が……」
上から火に燃えた病院の残骸が落ちてきた。
そのせいで江角と柊は分断され、病院の入口が塞がれてしまった。
「くっ!」
「江角!間違っても、弟を助けようとは思うな!お前まで死んでしまうぞ!」
「いや、俺は!」
「俺はこちらから何とか脱出を試みる!お前も早く逃げろ!このままでは逃げ場を失い、死んでしまうぞ!」
「淳!淳ぃいいいいいいいい!!」
「早く逃げろ!後で落ち合うぞ!」
「ああああああああああああ!!淳!淳!くそっ!くそおおおおおおお!」
江角の叫び声が虚しく、炎が燃ゆる音と空気にかき消されてしまった。
♢♢♢
『ご苦労さま。No.33、モウィス。』
『おやおや。フェルゴール殿。』
そこは病院から少々離れた、廃ビルの屋上。
そこに居たのは、黒い鎧の怪人と腕がボウガンの怪人だった。
怪人……No.33、モウィスのボウガンの矢は火を纏っていた。
『しかし。これでよいのですか?この私のお仕事は。』
『ああ、これでいい。ゼスタート様のご命令だ。』
モウィスはスっと指を出し、燃える病院を指さした。
『向かいましょうか?この私が。』
『いや、いい。今はまだ、な。』
そう言って、フェルゴールは「ゲート」を唱えモウィスを宇宙船に帰した。
そして、フェルゴールもゲートの中へと消えていった。
♢♢♢
病院では。消防車が消火活動にあたっていた。
しかし、一行に火が消える様子はない。
「ちょっと、どいてください!危険です!」
「待ってくれ!弟が!弟が中に!」
江角は消防隊員に抑えられていた。
このままでは命を顧みず、すぐさま病院へ向かってしまうことがわかりきっていた。
「江角!まだここにいたか!」
柊が江角の名を呼んで、消防隊員と同様に江角を行かせまいと引き止めに入った。
「淳ぃいいいいいいいいい!」
「正気になれ!お前まで死ぬような真似をしてどうする!」
「うわあああああああああああああ!!!」
「くっ……こいつは俺に任せてください。あなたは早く!」
「お、お願いします!」
江角を抑えていた消防隊員が、柊の言葉で仕事に戻った。
周囲に誰もいなくなったのを確認し、柊が江角を気絶させた。
倒れ込んだのを柊が支え、そのまま背負った。
「こんな所で時間を食う訳にはいかないからな。悪いが、眠っていてもらおう。お前の命が優先だ。」
そう言って柊は燃える病院に背を向け、この場を離脱した。
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