その後3
数日後--
ガーディアンズ 日本支部--
「あら、芹澤くん。」
事件の翌日、約24時間の眠りから覚めた俺は怪我の具合と定期検診のために、施設内にある医務室に訪れていた。
「
「主人なら中にいますよ。どうかしたんですか?」
「今日が定期健診の初日なので。」
ウィーンとドアが自動で開くと、マッサージチェアに座り、分厚い本を読む人が見えた。
「失礼します。」
先生は俺に気づいたのか、本とかけていた眼鏡を机の上に置き、首にかけていた眼鏡をかけた。
「ああ、君か。かけなさい。」
「はい……」
それから、色々な検査をした。採血、レントゲン他人間ドックでやるようなこと全般。そして、自分の凍傷や他の傷の具合、強化手術による異変等も調べた。
全ての検査が終わり、今に至る。
最後の注射が待っていた。
この注射が嫌いだ。
なんでも、ガーディアンとして戦うために必要なものらしい。
効果は全身の筋肉繊維や心肺能力などを高める全身の肉体強化、よっぽどのショックではない限り精神を安定させる精神安定の効果、そして光式機動(レーザー)の武器を副作用なく使うための効能……
ワクチンのようなもので、ワクチンのようなものではなく、ドーピングのようなもので、ドーピングではない……らしい。
この薬に適合出来ない者、あるいは適合していても副作用を起こしてしまう者はガーディアンにはなれない。
「芹澤くん……君の身体の具合は特に問題は、ないだろう。包帯もとって大丈夫だ。体も動かしても大丈夫だろう。」
「……!本当ですか!?」
「ああ。但し……君も重々承知しているだろうが、出撃はダメだ。あと、激しい運動……特に筋力トレーニングはまだダメだ。」
「そう……ですか……」
少しがっかりした。
体の調子は悪くないのなにもできないのは、不満しかない。ストレスが溜まる一方だ。出撃はまだしも、トレーニングすら満足にできないなんて……
そんな俺を見てか、先生がため息を吐いた。
「あのな。お前、今の自分が足手まとい状態だっての自覚しろよ。仮にお前が今の状態で出撃したら、チームの足を引きずるだけだ。ましてや、支部長に静養しろと言われているのだろう。いくら子供とはいえ、聞き分けろ。団体で一番犯してはならない罪は、そのチームの輪を乱し、孤立することだ。お前はこの支部っていうでっかいチームの輪に亀裂を入れたいって思っているのか?」
言われてる間、耳が痛かった。話をずっと歯を食いしばって聞いていた。
「はい……すいません……でした……」
「ハァ……」
「……では、失礼いたました。」
ドアが開いてから自分のことでいっぱいになっていたせいか、チームメイトのことを今になって思い出した。
「あのっ、」
「……なんだ?」
「あいつら……いえ、飛鳥井達は……」
「ああ、飛鳥井なら怪我はともかく、もうそろそろ目覚めてもおかしくない。村主は例え治っても腕のが酷かったからな。少々時間がかかる。東雲も時期に目を覚ます。問題は起きたあとだが……一番に問題は王城だ。凍傷が酷い上に……目を覚ますかどうか……」
「そう、ですか……わかりました。」
頭を下げ、俺は診察室を後にした。
♢♢♢
「言い過ぎだったんじゃない?あなた。」
二人しかいない部屋で、百合が薬研を諌めるように言った。
「こんなこと、自分で気づいて言う前に直す奴だっているだろう。言って気づけば、僕が言ったかいはあったし、言って気づかなければ……いつか気づけばいいんじゃないか。僕は知らない。人の勝手だ。」
「あなた……」
「君が思うほど、僕はは親切な人間じゃない。君にも何回も言ってきただろう。」
「……ほんとは心配なくせに。」
「……」
「私、知ってるもの。あなたが人一倍不器用で、優しいこと。」
「……きっ君は、よく……ひっ、僕の前でっ、そそそんなはっ、恥ずかしいことをっ!」
「?事実でしょ?」
「てっ、照れる……でしょ……」
「あなたはあなたなんだから。あなたが思うように、やりたいように、やってあげて。」
百合がクスリと笑った。
おもむろには立ち上がって眼鏡を外して、引き出しから眼鏡を取り出して、眼鏡をかけた。
「……わかったよ。行ってくるよっ。」
「いってらっしゃい」
(……敵わない、なあ)
昔っから……
ふふっと彼は笑ってしまった。
♢♢♢
「……なっさけな……」
(なにやってんだ、俺。あいつらのこと無能だとか、自分勝手だとか考えてたのに……)
一年前のことを思い出す。
あの時のことを思い出した。
「俺も無能じゃねえか……!」
あの時から俺は何が変わった!?
あの時からどれだけ強くなった!?
あの時から……俺は……俺は……!
「なにを泣いているんだ、君は。」
静かに歩いてきたのは、薬研先生だった。
「や、薬研……先生……」
「ハァ……百合に感謝しろよ。」
「え……?」
「来い」
「いや、ちょっと!」
先生は俺の腕をグイッと引っ張り、近くの訓練場まで連れていった。
「鍛えてやる。俺が。」
「え?」
「力、欲しいんだろ。」
「……俺は……」
薬研がわざとらしくため息を吐いた。
そして、ギロっと芹澤を見据えた。
「いいか、お前は人間だ。怪人じゃない。『お願いします、力欲しいですー』って願っても、力は手に入らない。だったら、自分を鍛えるんだな。」
「え、でも……」
「これでも元ガーディアンなんでな。医者になるための金稼ぎ、専属の医者になる条件を呑んで俺はガーディアンズをやめた。今はもう戦闘なんて面倒な真似しないが……お前よりは強い。」
「……!」
不思議な気持ちだった。
嬉しい!やった!という気持ちではなく、なんというか……安心したという気持ちの方が強い。
「その前に、鍛える以前に俺は医者だ。激しい運動はお前にさせるつもりは無い。できることは……軽くそこで動いてみろ。お前の余計なクセ見てやる。そこを無くせば、無駄なく動くことが出来るだろう。」
「……」
息を飲んで聞いていた俺は返事をすることすら忘れてしまっていた。
「返事。」
「は、はい!」
「明日から、俺が暇な時はちょくちょく見てやる。俺が指定した時間にここに来い。」
「はい!」
「よし、じゃあ動け。」
「う、動くって……!」
「ほら、さっさと。」
「は、はい!」
その日から、俺と薬研先生との特訓が始まった。
強くなれるかもしれない。淡い期待と希望を持って、俺は特訓に励んだ。
♢♢♢
エンディン宇宙船--
『ただいま帰りました。』
帰宅し、転送室へ到着した。
そこで待っていたのは、ヴァルハーレ達だった。
どうやら、キスオフとラヴェイラ、ナクリィはいないようだ。
キスオフとナクリィはともかく、ラヴェイラがいないのは、珍しいな……
「よく帰ってきた。」
「流石に無傷だな。これでこそ鍛えたかいがあったというものじゃ。」
「それにしても……なんデス?その手に抱えているモノは?」
俺が手に抱えている紙袋や袋に入った何かに、ヒトケタ達は興味を示した。
『地球の食べ物や飲み物です。お口に合うかわかりませんが……地球にはこんなものがあると、知っておくのも一興かと思いまして。』
その言葉で興味を持ったのか、メイビー、ヘルハイとドゥベルザが近づき、俺が持つ物をまじまじと見ていた。
「あら、面白いことするじゃない。」
「確かに。そんなものボク達じゃ、拾って来ようなんて思わないからね。」
「ガッハッハ!全くだ!」
『レブキー、ブウィスタの方は回収できませんでした。流石に暴走状態では、回収以前に限界がきてましたね。』
「だろうな。」
「そらそうじゃ。」
そう言いながら、ヴァルハーレとゲンブがレブキーを見た。
レブキーは見て見ぬフリをしていた。
「それで、どうだったのだ。フェルゴール。」
ヴァルハーレの問いに、俺は落ち着いて答える。
『ええ、面白い地球人が食いつきましたよ。ここからどう釣るか……といったところでしょうか。』
「その地球人はアナタに任せるデス。ゼスタート様から貰った猶予でカンペキなデベルクを開発をしなければ……No.32のデータは取れたので、そこを参考にして……」
レブキーの嬉嬉とした一人語りが始まった。
「気にするでないぞ。」
『え、ええ。慣れました……そういえば、』
「どうした。」
俺は気になっていたことを聞いた。
『本当にいいんですか?まだ地球人を滅ぼさなくて。』
地球人が邪魔だということが分かっているにも関わらず、本格的に動かず、強いデベルクを生み出すための時間があるのかが分からなかった。
その問いに、ヴァルハーレが答えた。
「おそらく、ジュベルナットやツロリロ、パラトゥースにミンタータといった邪魔者を凌駕する戦力を得るためだろう。地球を得ても、邪魔者がいては敵わんからな。ゼスタート様は地球人より、そいつ等の方が邪魔だと判断したと私は考えている。」
『それだったら、あとからでも……』
「分からぬが、ゼスタート様の命令だからな。我々は従うのみ。」
『そう、ですね……』
俺は変な取っ掛りのように感じたが、ヴァルハーレの言う通りゼスタート様に従うのみと感じたので、ひとまずこのことについては考えることをやめた。
『俺、部屋に戻りますね。これ、皆で見て色々と食べたり、飲んだりしてみてください。』
「そうだな。」
「うむ。礼を言うぞ、フェルゴール。」
「次のモデルはアローにしようか……実に悩むデス……」
「さて、なにから手をつけようか……」
「ボクはこれにしよっかな。」
「なんだぁ?これ?」
多種多様な反応(一人例外)を見て、思わず俺は笑った。
♢♢♢
ここには、誰もいないな……
俺は、ギュッと拳を握った。
強く、強く握った。
流石に調子に乗り過ぎだ……誰も殺さないなんて……!
殺せなかったの間違いでは?
俺は、デベルクだ。人間を超えている。だからいつでも殺せる。その、余裕だ。
果たして本当にそうか?
では、なぜ女を捉えていた能力を解除したのだ。
きまぐれだ。
お前の人間の部分か?
違う、もう地球人の……人間の部分など捨てた!
自問自答を繰り返す。
彼の手首に巻かれた、エザートのネックレスが光っていた。
「フェルゴール、大丈夫ですか?」
声のする方に思わずビクッと反応してしまった。
気づかなかった……
そこに居たのは、汚れ一つない白スーツを着て、相変わらず翡翠の瞳が輝くラヴェイラがいた。
『ラヴェイ……ラ……ええ、問題ありません。』
「そうですか。」
『ラヴェイラこそ、どうしてここへ……』
「あなたに礼を。わざわざ地球から色々持ってきたようでしたので。」
『はは……律儀だなぁ……』
正直、早く自室に戻りたい。
こんな姿見せたくないというのが本心だったからだ。
こんなことなら、さっさと部屋に戻ってしまえばよかったと。
後悔する反面、帰ってもこうなっていただろうという諦めが、静かに右往左往していた。
「それとあなたに、聞きたいことがあります。」
『聞きたいこと、ですか?』
「なぜ、わざわざ地球から私たちのために様々なものを持ってきたのですか?」
『ヴァルハーレ達から聞きませんでしたか?地球にはこんなものがあるんだと、知っておくのも……』
「既に聞きました。ですが、それ以外に理由がある気がしてならなかったので。」
『……』
思わず言葉を失ってしまった。
ラヴェイラの言葉を聞いて、本当に他の理由がありそうな気がしてしまったから。
『わか……いえ、きまぐれ……かと。』
「そう、ですか。」
『ええ。そうしたいから、そうしたんだと思います。』
「なる、ほど……」
沈黙が流れる。
だがその沈黙を、ラヴェイラが軽々と破った。
「では、私はこれで。話を聞いて頂き、ありがとうございます。」
『い、いえ……滅相もありません……』
そしてすぐさま、彼女は出ていった。
『な、なんだったんだ……』
どうして……ラヴェイラは、あんなことを……
それにしても、俺の方が"格下"なのに……口調すら砕けないんだな……
そう思ったが、俺は買ってきたドーナツを「ゲート」から取り出し、鎧のままだと食べられないので
久しぶりに食べたドーナツは不思議な味がした。
こんな姿になっても、感じるものは感じるのか……
どんな事があっても、好きな物は嫌いになれないものなのか。はたまた懐かしさを感じたかったのか。
食べながら、頭に浮かんだ。
ヴァルハーレ、ゲンブ、レブキー、キスオフ、メイビー、ヘルハイ、ラヴェイラ、ドゥベルザ、ナクリィ、そしてゼスタート様。
俺は、考えることをやめた。
ただひたすら、無心にドーナツを食べていた。
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