その後2

 

 警察庁--


 休暇届けを出し、独断である捜査を続けている巡査部長の男。

 江角 順也えすみ じゅんや

 弟のあつしが事故で意識不明の重体になってから、一年がたった。

 事件に進展はない。だが、順也は今回の一件で尻尾を掴んだ気がした。


 あの時より出世した村主と会うのには苦労したが、なんとか見つけて話をしようとする。


「村主さん!」

「今更、巡査部長のお前が何しに来た。なんの用だ!私は忙しいんだ!」

「話を聞いてください!村主さん!」

「休暇届け出したお前が何の用だ?退職届でも出しに来たか?」

「これ、見てください!一年前の事件の尻尾を掴んだかもしれないんです!」


 そう言って、スマートフォンに録画された映像を見せた。


 すると村主はあっはっはっはと大笑いした。


「なんだ?映画でも見せに来たのか?」

「映画……?違います!映画じゃありません!実際に起きたことなんです!」


 村主は江角の肩にポン、と手を置いた。

 頭を振りながら、ため息をついて話を続ける。


「私の息子も大怪我をしてね。気持ちはわかるが……あんまりフィクションは鵜呑みにしない方がいい。現実逃避をせず、現実を見ることだ。今できることは自分の仕事にしっかり務め、弟くんに寄り添うことじゃないのかね。」

「人を守るのが警察の仕事でしょう!?」

「いい加減にしたまえ。」


 ピシャリと村主の言葉が、広間に響いた。


「君は自分で仕事を休み、誰の得にもならないことをしている。違うかね?普段の行い、仕事こそが君の望む『人を守ること』に繋がるのではないか?」

「得って……警察は利益で動く仕事じゃありません!」


 どんどん江角が感情的になってしまう。

 一方で、対する村主は淡々と半ば呆れて話をしていた。


「私情で動くのも、仕事ではないだろう。私情はあくまで、仕事に務めるまでの夢だけにしたまえ。仕事に私情を持ち込むな。」

「待ってください!あなたは!今起きていることも、目を背けて全部夢だと、非現実だと仰るのですか!?私はこの目で見たんです!この映像を見ても、まだ……!」


「それが耐えられないなら、今すぐこの仕事をやめたまえ。このことは、君の上司に報告させてもらうぞ。」

「村主さん!」

「私も忙しいんだ。そろそろ行かせてもらうぞ。警視総監殿との会議があるのでな。」


 村主はどかっと江角にぶつかり、そのまま行ってしまった。


「どうして……信じてくれないんだ……!」


 バァン!と壁に拳を感情のままぶつけた。


「俺はこのまま……警察としてただ従って働くだけでいいのか?俺は……俺は……!」



 ♢♢♢



 警察庁--

 とある場所


「やれやれ、参りました。」

「おお、おお。村主警視監ではないですか。」

「お早いお着きで、丞厘じょうりん警視総監殿。」

「どうかしましたか?」

「それが……ガーディアンズのことや、怪人のことを嗅ぎ回る者がおりまして……」

「ふむ、なるほど。」

「いかが致しましょうか?」


「はっきり言って邪魔ですね。今回の一件で、まだガーディアンズの決断を我々は知らないとはいえ。でしたら、我々が今できることは、ガーディアンズを嗅ぎ回る人間を排除するべきです。

 なにより、行き着いた先が我々だった場合、嗅ぎ回られるのは面倒です。」

「はっ、ではそのように。」

「うむ。頼みましたよ。」

「もちろんです。あの時から、私はあなた様について行くと決めておりますので。」

「よいことです。鳳華院様と私があなたの息子を見出したおかげで、あなたの息子は鳳華院様が率いるガーディアンズに務めることができ、私があなたを警視総監に選んだのです。今後もそれに見合った働きをお願いしますよ。なにより、鳳華院様と私に後悔だけはさせないように。」

「わかっておりますとも。」



 ♢♢♢



「江角!」


 江角が警視庁を出ようとすると、菊野が走って江角の元へ駆け寄った。


「お前、いつになったら復帰するんだ!市川さんも気にかけていたぞ。」

「すまん。今はまだ、気持ちの整理がつかん。」

「江角!」


 菊野がガシッと江角の腕を掴む。しかし、その手を江角は振り払い、背を向けて警視庁を出た。


「すまない。」


「江角!どうして!江角!江角ぃ!」



 江角はそのまま近くの公園に行き、自動販売機でコーヒーを買い、ベンチに座った。


「くそっ!どうしたらいいんだ……俺は。このままじゃ……」


(淳……)


 弟から昇進祝いに貰った、自分の名が入ったペンを見つめる。


 淳は意識不明。

 淳のそばにいるだけじゃ、いてもたってもいられなくなる。

 俺に出来ること。

 俺はあいつのために、犯人を捕まえてやりたい。

 淳があんな目に遭ったってのに、のうのうと生きてるやつがいると思うと、怒りしか湧かない。

 怪人だかなんだか知らねーが、俺が捕まえてやる……!


 気づけば、江角は缶を握り潰していた。



「はじめまして。」



「うおっ……!」


 江角が声に反応した。

 気づけば目の前に、青年がいた。


「誰だ、お前……!」

「突然すいません。私、ひいらぎ サイって言います。ずいぶん思い詰めた顔をしていたので。ちょっと気になっちゃいまして。」


 外人だろうか。

 目が青い。

 だが、外人の割には深い青だった。

 髪も染めているのだろうか。


「なんのようだ。」

「あなた……怪人を探してるんですよね?」

「どうしてそれを!?」


 思わず江角が立ち上がった。


「私も似たような目的なんです。私、ガーディアンズという組織を探しておりまして。これ、見て頂けますか?」


 そう言って彼は、つい昨日話題になっていた怪人と人間が戦っている動画を見せた。


「これは!」

「昨日話題になった怪人と人間が戦った動画です。誰も信じませんが、私はこれが事実だと思っておりまして。どうにかこの名前だけは突き止めたんですが……そこで行き詰まっているのです。」


 真剣な眼差しで、彼は語った。


「……」

「つい最近、ある警察官がこの事件を調べているという話を聞きまして。あなたですよね?」

「訳知りか……知ってて俺に近づいたのか。」

「ええ、情報屋なので。」


 はぁーとため息を吐いて、江角は柊サイという男を見据えた。


「お前が俺に近づく目的はなんだ。」

「単刀直入に言いますと、あなたと協力して怪人とガーディアンズのことを調査したいのです。」


 柊は笑みを浮かべて、そう告げた。


「……」

「どうです?私と組んでみませんか?損はさせないと思います。」


(何故だろう……この男まるで俺を……俺の心を見透かしてるようだ……)


「わかった……いいだろう。」

「では……」

「ただし、」

(これは賭けだ。)


「?」

「お前が持っている情報を先に教えろ。話はそれからだ。」

「いいでしょう。」



 待ってろよ淳、絶対に犯人を捕まえてやるからな……!

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