その後1
ガーディアンズ 日本支部--
「脅威は乗り切りましたが……問題は山積みですね。特に、全世界に公開された今回の事件と……ガーディアンズの存在が公に出てしまったこと。」
小鳥遊と九条がオペレーターの業務を終え、ロビーの休憩場で一息ついていた。
その周囲は、いつもよりずっと静かだった。
怪我人が多く、顔なじみはベッドの上。
人の出入りもなく、普段賑わう場所も活気のない静かな場所になっていた。
「まあ、支部長がなんとかしてくんないとなあ。人類を守るためとはいえ、世界中のガーディアンズは本部を中心に、世界中の一般人相手に存在を秘匿してましたからね。
これで余計な野次馬やら、マスメディアや動画投稿者の一発あてたいがためのネタ探し 、SNSでバズりたいバカな連中が現場に来なければいいが……」
「ウチの支部長だ。何かしら考えはあるだろう。」
そんなことを言っていると、ドアの開く音がした。
そこにいたのは、煙草をくわえ、雑に白衣を着た女性だった。
「季咲さん!」
「よお、季咲。仕事一段落か。」
元アメリカのガーディアンズでガーディアンとして働いていた経験もある。
「まあね。九条、暇そうだね。ジュース買ってきて。」
「えええ……俺っすか。ってか、いつになったら名前で呼んでくれるんすか。」
「あたしと結婚したら呼んでやるよ。」
「うひゃー……こりゃ永遠になさそーだな……」
頭をかきながら、九条が立ち上がってどこかへ行ってしまった。
九条がいなくなった席に笠宮がどかっと座った。
「結構酷かったようね。状況。」
「ええ……これから資料のライブラリにまとめなきゃないですよぉ。レベルSの敵とか世界でもまだ片手で数えるくらいしかないのに……そういえば、季咲さんがガーディアンズだった時、戦ったことあるんですよね!」
「まあ……そうだが。」
「それ、俺も聞きたいな。」
そこに居たのは、戻ってきた九条。
手には飲み物の缶を持っていた。
「ほら、季咲。」
「おー……てめえおしるこじゃねえか!」
笠宮が九条におしるこをぶん投げた。
「あぶねっ!」
「ご丁寧にホット渡してきやがって!」
「冗談!遊び!ちゃんとあるから!」
そう言って九条は、見えないように隠していた方の手からアップルジュースの缶を渡した。
「小鳥遊さんも、一息どうぞ。」
九条が小鳥遊にカフェオレを渡した。
「あ!ありがとうございます!」
「そんで季咲、君の言ってたレベルSの話……聞かせてよ。俺はちらっと話聞いた程度であまり知らないからな。」
九条が小鳥遊の隣に座った。
小鳥遊は、九条の問いかけにうんうんと力強く頷いていた。
「わかったわよ。でも、詳しい話は藤堂さんか沢渡に聞くんだね。わたしはその時アメリカのガーディアンズにいたから、討伐戦にしか参加してない。」
「その討伐戦って、シニガミ討伐作戦……ですよね。」
小鳥遊が笠宮に尋ねた。
「そ。シニガミってのは怪人の名前。自分で名乗ったらしい。日本に現れた最初のレベルSなんだが、強すぎる脅威ゆえアメリカ本部に救援要請を出し、本部がそれに応じた。
アメリカ本部選りすぐりの精鋭メンバーと、日本支部による精鋭メンバー……そいつらによって行われたのがシニガミ討伐作戦ってわけ。」
「で、どうだったんだ……当時の状況というか、強さみたいなのとか。」
九条が尋ねるとフーっと、笠宮が九条に紫煙を吐き、携帯していた灰皿に煙草を棄てた。
「一言で言うなら化け物の中の化け物。強いなんてレベルじゃない。日本支部の隊員もシニガミに出会ったせいで次々と死んでいった。そのせいで、日本支部も人員不足……その上討伐作戦には選りすぐりとは名ばかりの、当時シニガミと戦って生き残った藤堂さん、沢渡、京極、そして支部長の息子が選ばれた。他にも参加したやつはいたが……もうみんな亡くなってる。ホントにギリギリだった……あたしが引退を選ぶくらいにはね。当時日本で一番強かった藤堂さんが死にかけて、怪我の後遺症で引退。ま、ガーディアンズ史上とんでもない相手だったのは確かだ。初めてだったしな、レベルSの討伐なんて。現に今回の件のように、レベルSが見つかっても討伐はされていない。このシニガミ討伐作戦が、レベルSをガーディアンズが初めての討伐作戦であり、唯一のものだ。」
「季咲さん……
「そうかい。じゃあ、次会ったらまた吐いてやるよ。」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、笠宮が立ち上がった。
「季咲さん!」
「どうした雪音、ハグして欲しいのか?」
「ち、違います!聞きたいことがあるんです!」
「聞きたいこと?」
「他のレベルSは全然討伐作戦なんて行われてないのに、どうしてその『シニガミ』だけはすぐに討伐作戦が行われたんですか……?」
一拍おいて、笠宮は話した。
「他のレベルSは、よっぽどじゃない限り私たちの前に姿を現さない。例え現しても、すぐに姿を消してしまう。だがシニガミは姿を現すなり、殺していく。例え、相手が一般人でも……!」
「でも、一般人って……一般人の前で正体を表してしまうなら、ガーディアンズがすぐに気づけますよね?被害は最小限に抑えられなかったんですか?」
「あいつは……シニガミはどうやったかは知らないが、人間に化けることができた。」
「え!?」
「っ!?」
小鳥遊と九条が驚いた。
特に小鳥遊は驚きのあまり、絶句し、動揺が隠せないといった様子だった。
「か、か怪人が……人間に……ですか!?」
「当時のガーディアンズは確かにシニガミ襲来により、多くの人が命を落とした。それも理由にあったが、多くの一般人が殺されて黙って見ているガーディアンズではなかった。ガーディアンズは見つけられなかったのではない、気づけなかったのだ。シニガミが人間に化け、罪もない一般人を無差別に殺していく様を……!」
笠宮は当時の様子を思い出し、怒りと悔しさが溢れていた。
小鳥遊は不安そうに才宮を見、この先に同じようなことがあったら……と思わずにはいられなかった。
一方九条は腕を組み、話を聞いた上でなにか考え事をしている様子であった。
♢♢♢
ガーディアンズ 日本支部--
支部長室--
「よく来てくれた。」
そこに座るのは、ガーディアンズ日本支部を束ねる支部長……
彼らの目の前には、第一小隊隊長の沢渡がいた。
「支部長、今回の件……」
「いい、気にしないでくれ。沢渡君。」
「すみません。」
「いずれこうなるとは思ってはいたが、それをやったのが怪人だったとは想定外だったな。これで……一つの脅威は減ったが、大きな脅威が増えたな。」
「あの鎧の怪人ですか。」
「そうだ。レベルS判定は間違いあるまい。あのような強い殺気を発すると分かった以上、シニガミと同等……あるいはそれ以上と考えられる。相対してどう感じた。現場にいた者の意見を聞きたい。」
沢渡が、率直に思ったことをそのまま告げた。
「実際戦ってみて思ったのは、全然俺達は相手にされていなかったってことです。下手したら……あんたの言う通り、シニガミと同等あるいはそれ以上の可能性が高い。その上、表立って行動しないタイプとなると、シニガミよりよっぽど厄介かもしれない。」
「なるほどな。」
鳳華院が考える素振りを見せる。
すると、
「成義様、」
鷹司が鳳華院の名を呼び、静かに耳打ちした。
「悪いな。そろそろ時間だ。アメリカ本部の本部長と各国の支部長と会談をしなければならないのでな。ひとまず、ご苦労だった。後のこと、今回のことは私に任せていい。次の出撃まで、ゆっくり休みなさい。他の隊長達にはお前から労いと、報告書の提出を言っておいてくれ。」
「では、失礼します。」
そう言って沢渡が背を向け、この部屋を出ていこうとした時、沢渡が思い出したように支部長に問うた。
「あー、支部長。」
「なんだ。」
「おたくの息子さん、いつ復帰してくれるんで?」
「さあな。私が聞きたいくらいだ。」
♢♢♢
「飛鳥井はいなくて大丈夫だろうか?」
「芹澤が副隊長だが、あいつも戦い終わってぶっ倒れたからな。」
「無理もないわよ。レベルSに遭遇した上に、仲間は瀕死の重症よ!?彼自身も、心身共にスッゴク疲れているに決まっているわよ!あんなプレッシャーの中……仲間が全員倒れた中、よく戦ったわ。」
「後で、僕から報告にいきますよ。」
沢渡が支部長室を出て、ロビーに戻ろうとする途中で、四人に隊長が見えた。
「なんだ、ここにいたのか。」
「大変だな。第一小隊隊長も。」
「全くだ。代わってくれ京極。」
「悪いな。俺にはもう部下はいるし、藤堂さんと同じ目に遭うのはゴメンだ。クールじゃない。」
「ほぉ……もっぺん言ってみな。京極……」
そこに現れたのは、比較的大柄の男。
目には傷を負い、片腕が義手であった。
「と、藤堂さん!」
「なんだ、まるで幽霊見たみてえな反応しやがって。」
「藤堂のダンナ……どうしてここに?」
「戦闘訓練教官がここにいちゃいけんか?」
わっはっはっはと大笑いしながら、京極の首を締めていた。
「と、藤堂……さん……!ギブ、ギブ!」
「藤堂サン、京極チャンいじめちゃダメよ?」
「そういう問題じゃないでしょ、永友さん……!」
「どぅあーれが永友だ!アンって呼べって言っただろ!」
「もーいいからあ!」
堀田の声が響いた。
その声で皆が堀田を向き、場の空気がしん……となった。
「で、沢渡さん。何話してきたんですか?」
「俺いない方がいいか?沢渡。」
「あー……藤堂さんいても別にいいでしょ。」
そう言って、沢渡は四人の隊長に事の顛末を全て話した。
「ってことらしい。」
「そうか。嫌なこと思い出すぜ。シニガミの再来かよっての。」
「とにかく、新しいレベルSの件は報告だけでした。これから、全ガーディアンズの本部長・支部長による会談だそうです。」
「ま、これで良くも悪くも世界が動くな。これからの行動で吉と出るか、凶と出るか……」
藤堂が腕を組んで言った。
早乙女がそれに続いて発言した。
「ただでさえ、この国は混乱状態になってる。テレビやSNSは今回の件で持ちきりだとか。今後の対応で、我々を見る目が変わりそうね。」
「まさか……怪人側は、この混乱が狙いだったりとかしないか?」
沢渡の発した言葉に、ここにいる皆が反応した。
「可能性はゼロじゃねえが……お前らのできることは、戦えねえ俺たちに代わって、俺たちに生活を脅かす化け物共と戦うことだ。お前らのおかげで、平穏な生活を送ることができる者がいる。そいつらの生活を守ることが俺らの仕事だ。今はまだ、そういうことを考えなくていい。考えんのは俺たちの仕事だ。」
「ま、あとは……金だな。」
藤堂が言い終わると同時に沢渡がボソッと呟いた。
「全く、相変わらずだな沢渡。お前は。」
「俺の目的は変わんないっすよ。藤堂さん。」
「もういいから、お前らさっさと報告書書いて来やがれ。」
「うぃーす。」
「了解でーす。」
「じゃ、藤堂のダンナ。」
「全く……シャワーが先よ。」
「頭が痛くなるよお……」
そんな様子の五人に隊長を見て、不安しか覚えない藤堂だった。
「大丈夫か……?」
「藤堂さん!」
藤堂の元に、一人の青年が駆け寄って来た。
「よう、周防。お前大丈夫なのか?」
「ええ、まあ……ただじっとしているのも、いてもたってもいられなくて。」
「全く……今日くらい休んで欲しいんだがな。休めって言っても聞かねえだろ?」
「はい!」
「わかった。その代わり、今日は軽めのメニューだ。ほら、お前の光式機動持って訓練場に行ってろ。」
「了解です!じゃ、待ってますね!」
たたーっと周防が駆け出していく様子を見て、藤堂は頭をかいた。
「全く……どいつもこいつも……」
藤堂の口元に、笑みが零れていた。
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