銃弾、再び

 

 なんで……なんでだ……


『依桜ちゃん……』


 なんでこんなことやってるんだ。

 なんで僕の目の前にいるんだ。


 なんで、そんな目をしているんだ。


 なによりも一番ショックだったのは、

 先程自分をかすめたもの。それを放ったのが、依桜ちゃんだったということ。

 その証拠と言わんばかりに、彼女の手には、短銃のようなものが握られていた。


 それに、ガーディアンズってなんだ。聞いたことない、そんな組織……!


「いくぞ、みんな」

「「「「おおっ!!」」」」


 そして各々の左手首についたブレスレットに手をかざした。

 すると、それぞれのブレスレットから


『NOW INSTALLING』


 と、サウンドが鳴った。

 すると、「フィーン……」という音と共に、5人が白の特殊スーツのようなものを纏い、スーツの上から黒いプロテクターのようなものが全身に装備された。さらに、白のフルフェイスヘルメットのようなものまでかぶっている。


 そして、理解した。

 ガーディアンズ……彼らがレブキーさんの言っていた、仲間を殺してきた地球人だということを。


 その中の一人が依桜ちゃんなんて……


 そんな、そんなの……


『ひどすぎるじゃないか……!』


 そして依桜ちゃん以外の各々がバトンのようなものを取り出した。

 バトンはカチッという音がすると、ブォンと武器のような形状になった。

 剣状のものを持つのが二人。

 槍状のものを持つのが一人。

 弓状のものを持つのが一人。

 そして、銃状のものを持っている依桜ちゃん。


 どう見ても、鉄や鋼だけで造られた武器じゃない。テクノロジーの産物、いや兵器である。


 このままだとやられる……!


「おおおおおっ!!」


 早速剣を持った一人が襲いかかってきた。大振りだった為それを背後にかわして避ける。だが、それを狙っていたかのように、弓から矢が放たれる。


『うっぐあっ……!!』


 熱い……!

 痛いだけじゃない、傷口を抉るような熱まであの矢は持っている!

 いや、矢だけじゃない。あいつらが持っている武器全部がそういうものなんだ。さっきの剣なんてもうビームサーベルじゃないか!剣だけじゃない、槍も、弓のグリップと弦以外がビーム状になっている。おそらく、先程掠った

 銃弾もビーム状のもの。

 掠った程度なら大丈夫だが、まともに当たるのはまずい……!


「せあああ!」


 また、後ろに下がる。

 そして、矢が放たれる。


『ぐっ、あああ!!』


 僕は相手に構わず、走ることにした。

 ガンナー相手に背を向けることが悪手なのは、ゲームやマンガのお陰でなんとなくわかる。

 だが、相手に依桜ちゃんがいる以上僕は戦いたくない。

 僕を攻撃してくる相手に話が通じるかわからない以上、走って目的の場所に行くしかない。


『くっ……』

「追え!奴を追うぞ!」


 くっ……手加減なしか。……いや、手加減するわけないか……


 はあ、はあ、はあ……



 ♢♢♢



 背を向けて走った。

 背を向けて走り続けた。

 だけど、容赦なく矢や銃弾は飛んでくる。


『ぎっ……』


 足がフラッとよろけて、膝をついた。


「はっああああ!」


 やばい……!


 ガシュッ!!!!


『っがああああああaaaaaaAAAA!!!」


 声にならない叫びが響いた。


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い


 くそっ、くそっ、くそっ……


 はあ……はあ……はあ……あああああ……!


 倒れはしなかったが、手をついて息を整えている状態だった。

 こんな身体じゃなかったら、背中の出血は止まらずに流れ、血反吐を吐いていただろう。


「おい、飛鳥井あすかい。こいつ……様子がおかしくないか……。」


 ビーム状の槍を持った青年が、リーダー格の男に言った。


「どこがだよ……」


 リーダー格の男……飛鳥井ではない、もう一人の青年がヘラヘラと口を開いた。


「そうね、攻撃どころか抵抗すらしないなんて……」


 弓を携えた女も考え込んだように呟いた。


 身体は……まだ、動く。

 だけど、走れる体力は、もう……残って、ない……

 こいつらに言うしか……ない。

 こいつらが信じてくれなくても…きっと、依桜ちゃんなら……


 よろめきながら、なんとか立ち上がって、手を上げた。


『……手を挙げるつもりはありません……攻撃するつもりもありません……話だけ聞いてください。』

「ハア!?」


 声を上げたのは剣を持った飛鳥井じゃない方の男。


「わけわかんねえ……命乞いか。だったら最初っから……人間様に楯突くんじゃ……ねええっ!」


 大振りの剣が勢いよく振るわれた。


 ビィィィン!


「なんの……つもりだ芹澤せりざわぁ!」


 それは槍によって防がれた。


「落ち着け。少なくとも、こいつは手負い。もう逃げられないと判断したからこういう行動をとったんだろ……ならば、俺達はこいつをいつでも仕留められる。自分の感情だけで動くな。こいつのする話が嘘か本当かはともかく、あくまでも最終的な判断をするのは隊長だ。違うか。」

「はん……わかってるっつの。」

「ならお前の身勝手な行動で場を乱すな。」


 チッと舌打ちをし、芹澤と呼ばれたはリーダー格の男の方を向いた。


「で、どうする……隊長。」

「……ま、いいんじゃないかな。話くらい。」


 そう言うと、飛鳥井という青年は僕の方を向き直った。


「……話を、聞こうか。」


 頷き、僕は口を開いた。


『話したいことは2つ。1つは、もうこの無意味な戦いを止めること。もう一つは、僕のことについてだ。」

「お前の……?」

『僕は、人間だった……。怪人になる前は人間だったんだ。』

「……その時の名前は?」

楠 彩莉くすのき さいり……。』


 ビクッと依桜ちゃんの身体が震えた。


『僕は、一度死んでいる。なんでこうなったかわからない。なんで今怪人として生きているかわからない。けれど、確かにあの日……僕は殺された。証人だっている。僕が死んだのを彼女が……依桜ちゃんが見ていた。』

「っっ!!」

「はあ!?」

「東雲さん……」

「東雲……」


 皆が一斉に依桜ちゃんの方を向いた。依桜ちゃん自身は頭を抱えて震えていた。


『あの日、僕の死体は回収されていないはずだ。だって、僕は楠 彩莉を使って生み出されたデベルクなんですから……。』


 息を飲み、震える声で僕は続ける。


『ねえ……もう、こんな戦いやめましょう。宇宙海賊の怪人達も好きで宇宙海賊をやっているわけじゃない。ただ生きる為の場所を探していただけだ。地球に住む為に話をしようと、地球に降り立っただけにもかかわらず、人間達が攻撃を仕掛けたっていうじゃないか……!何の罪もないあの怪人達を、無抵抗だった彼らを殺したそうじゃないか!結局、彼らも生きる為に戦うことを決意した!その結果どうだ!?どちらかにいいことがあったか!?罪のない人間や怪人が無意味に死んでいっただけじゃないか!もう、こんな戦い……やめてくれよ!』


 震える声で叫んだ。力いっぱい叫んだ。


『人間だった僕は、こんなことが起きてるなんて知らなかった!マスコミがこんな大事おおごとを取り上げない、表の平和な世界で何も知らずに、いや知ろうとせずにのうのうと生きてきた。怪人になって……初めてこんなことを、知ったよ……なにより、』


 僕は依桜ちゃんの方を向いた。


『依桜ちゃん。君がいつもこんな苦しい戦いしてるなんて知らなかった……ごめん--』


「……黙りなさい……」


『……え……?』


 冷たい声で依桜ちゃんがポツリと呟いた。


『依桜ちゃ--』

「黙れ……!私を、そう呼ぶな!怪物っ!」


 ジャキッ


 依桜ちゃんから一筋の涙が流れた。その瞳の奥は、怒りで……燃えている。


「殺してやる……!お前ら怪人、全員殺してやる!彩くんの遺体がなくなったのも、彼を使って怪人にしたからだと……?ふざけるな……ふざけるなああああ!!!!」


 ジャキッ


 依桜ちゃんは、僕に銃口を向けた。

 彼女は止まらない涙を拭おうとせずに、嗚咽が漏れないようギリっと歯を鳴らした。



「死ね、化け物……!」




 ピュン





 その光線はあのときと同じく、僕の心臓に直撃した。




「貴様のような怪人が、彩くんのフリをするんじゃない……彩くんはもう、死んだんだ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る